ダンジョンルール


「ダンジョン配信枠を立てて、と」


 ダンジョン突入前の準備で装備を確認するついでに配信準備をする。

 枠名はシンプルに【ダンジョン攻略】C級ダンジョン完全制覇まで、とした。

 一人称視点でオレの顔は映らないように、オプションでもし他のダンチューバーとかち合ってもモザイク処理されるように外見を配信希望しないにチェックを入れる。

 音声とかは切ったほうがトラブルになりやすい(言ってないことを言ったことにされたりとか)するので、プロテクトは外見だけだ。

 特に問題がないことを確認して決定ボタンを押せばステータスに【配信予約】のマークがついた。これで次ダンジョンに入った瞬間から配信開始される。


 こんな簡単に誰だって機材も使わずにステータス画面から直接配信できるのは今となっては当然だが、先時代の人間からしたらとんでもない話だったらしい。

 もちろんダンジョンが出現後すぐにこんな便利だったわけではない。

 最初は古い時代のゲームのように制限が多く、しかも命がけだったらしい。(恐ろしいことにダンジョン内で人が死ぬ時代が本当にあったらしい)しかしダンジョンは停滞せず、進化していく。

 まず、ダンジョン内の死が無かったことになるようになった。

 次はステータス画面の機能が拡張され、今では各種保険や税金まで紐付けられている。

 そしていつの間にか、ダンジョン内でも電波が普及し、ダンジョン専用のネットが生まれた。

 人間に都合のいいようにどんどん変わっていくダンジョンに当時の人は困惑しただろう。これらの変化の起因はダンジョン学の第一人者曰く、「誰かが願ったから起きた」そうだ。

 ダンジョンは人間をダンジョンに呼ぶためにより多い願いを、意志を汲み取って最適化していく環境生物だとその人は提唱した。

 そうでもないとあまりに人間に都合の良すぎる変化の数々に説明がつかない事から、真実を確かめることができないまま割と多くの人に支持されている説だ。


 つまり、そんな説が受け入れられる程に基本的にダンジョンはこちらの望むようにしてくれるはずなのだ。


 なのに、オレに対して全くもってそのような素振りはない。

 ダンジョン奨学金の返済のため特に英雄願望もなく無欲なはず(強いていえば金銭欲)のオレが妙に攻撃的な特殊ジョブにされる理由はないのだ。

 今どきよくある洗礼石での第一洗礼で【探索者】以外になるような偏った思想も持っていない。(洗礼前に犯罪を犯したり政治宗教的に過激な思想を持っている者は第一洗礼から【探索者】ではないことはある)

 第一洗礼で探索者以外になったなんて誰かに知られたら「ちょっと偏った思想の人」扱いされて一生腫れ物に触るような扱いされるのが普通なのだ。

 ちょっと前に流行ったネット小説の「レア職【ハーレム王】についた俺、いつまでも探索者のままだと馬鹿にしてきた奴を横目に最強ハーレムパーティ結成してダンジョン富豪に!」ですら第一洗礼は【探索者】のままだったくらいに第一洗礼は重い。


 もしオレの第一洗礼が【破滅の使徒】なんてバレたら絶対に極まったカルト信者の扱いをされる。

 というか後続のジョブも本人の意志が反映されやすい(【探索者】の次になるジョブは本人が望んだものになりやすい)から、【破壊の申し子】だの【死と恐怖の化身】だのすらオレの望んだものだと認識されかねない。

 誰にも見せなきゃいいと言われたらそうたが、一生ソロでダンジョン潜り続けるならともかく、もし一般企業に就職するだなんてなったらステータスオープン出来ないオレは何処にも採用されないだろう。

 奨学金自体はもう返済し終わってるから望めば一般企業へ進路を切ってもいいはずなのにジョブのせいで出来ないのが現状である。


 だがまぁ、そんな現状を打破すべくオレはダンチューバーになるのだ。


 特殊ジョブの中で最も有名なジョブ、【勇者】。

 ダンジョン黎明期のまだ人が本当にダンジョンで死ぬ時代に起きた最悪のスタンピード時に最も多くの人を救ったその人は、当初ただの【魔法剣士】だった。

 しかしスタンピードが収束し、その人の功績が人々に知られるとジョブはいつの間にか【勇者】になっていたそうだ。


 ジョブは人々の共通認識で変わるのだと、【勇者】の一件は証明している。

 つまりオレも何らかの偉業を達成して周知されれば、その偉業にちなんだ特殊ジョブになるだろう、というのが掲示板のアドバイスだ。


「無理ゲーだけど、やらないよりはいいよな」


 マイナーC級ダンジョン、楽想市14番の完全制覇ダンジョンクリアはその第一歩として、今足を踏み入れた。



 配信を開始します



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る