第2話「不真面目少年達の逃走劇」

 今日は十二月二十二日。

 学生の希望が溢れる冬休みの前日の午後二時過ぎ。

 にも関わらず、天パ頭の少年は窮地に立たさせていた。

 というか、馬鹿だった。


 そもそも、冬休みの前日は終業式のため、学校が昼まであること自体がおかしいということに気がつくべきだった。

 かく言う咲斗も、昼休みの時間帯に校門に来たときにすれ違った学生たちが、みんな鞄を持って学校から出てきていることに疑問は抱いていた。

 まぁ、その疑問の抱き方が変だったたのだが………。

 何を隠そう。この天パ頭の少年は、


 (なんで鞄持ってるんだろ?あ、社会見学か。わーお、冬休み前日に社会見学に行く学年もあるんだなぁ)


 などと宇宙人的思考で勝手な解釈で納得をしていたのだった。

 そんな思考回路のため疑問はすぐに解決し、同時に校門に担任を見つけたために考えを放棄して校内に侵入してしまうことになってしまったのだ。


 そして、連日の休みと遅刻への言及が終えた現在、咲斗は自分自身の教室にいた。


 へ?なんで帰宅せずに教室に残っているのかだって?

 やだなぁ。

 補習だよ(怒)、補習(激おこ)。

 

 と、文句を言いつつも、補習の原因は明らか。

 そう、連日の休みと度重なる遅刻のため、彼の成績は地に落ちていると言っても過言ではないからだ。

 その応急処置のため、担任の山田先生の元、補習が行われる運びとなった。


 「くっ!どうして僕は、こんなところ(学校)に来てしまったんだ!!」


 一人教室で叫ぶ咲斗。

 返事は来ない。


 なんか……悲しいな………。


 誰かにこの孤独を分けてあげたい気分だ。うん。そうしよう。

 天パ頭の少年が、達成し難い決意を固めたところで、後方のドアが開かれる。

 と、同時に髪の長い少年が、学ランを片手に入ってくる。

 彼の名前は枢木拓真くるるぎたくま

 同級生でクラスメイトで馬鹿。

 多分、いや確実に咲斗よりも馬鹿だ(根拠のない咲斗の確信)。

 というか、こんな時間にまで残っているということは、咲斗と同じ補習組で間違いない。

 彼は教室に入ってるや否や、自分自身のロッカーへ向かいながら、語りかけてくる。


「落ち着け天城……。俺たちは二人だろう」

「そうだ、僕たちは二人で一人だ」

「馬鹿か。俺たちが一人になったら取り返しがつかねぇだろ」

「確かに……馬鹿が更に馬鹿になるだけだもんね」

「………」

「………」


 互いに無言。

 二人とも、会話のレベルの低さに絶句していた。

 そう、馬鹿は所詮馬鹿なのだ。

 なんか、うまく会話が成り立たないときがある。


「なんか言葉を発するのが無駄レベルの会話があったが、まぁ置いといて……。天城、作戦REだ!俺にはどうしてもこの補習を抜け出す必要がある!!」

「その手があったかぁ。うん、そうしよう。今思ったけど、僕には補習なんて受けている暇なんてなかったはずなんだ。どうして素直に教室にいたんだろう?」


 はて?

 と不思議に思いながらも、天パ頭の少年は、髪長少年に側へと近づいて行った。



「失礼しまーす。さぁ、天城くん。補習の時間ですよ!ん?」


 お馬鹿二人組が、作戦REを企ててから数分経った頃、前方のドアが勢いよく開かれると、学年一の頭脳の持ち主が教室へと入ってきた。


 この、才女の少女。

 補習は完全に咲斗一人と思い込んでいた為か、とてもテンション高めで侵入して来たのだが、目の前に広がっている光景に、ただ息を飲むことしかできなかった。


 それもそのはず。


 一ノ瀬眞白の前には、ロープを全身に絡めながら抱きしめ合ってる男子中学生が二人、佇んでいたのだから。


「流石にギブです。全く分かりません」


 彼女の目から、段々光が失われていくのが身に染みて感じられる。

 補習のために来たら、目の前に抱き合った紐まみれの同級生が二人………。


(うん……。どう考えても思考停止するよね。でも、今の僕は……どうすることもできないんだ。ごめんね。なぁ、そうだろ?枢木……)


(あぁ、天城。やっぱり俺たちは、二人で一人だったのかもしれないな)

 

 しかも、二人で見つめ合いながら、「ふっ……」と微笑み合っている。

 まるで、最終回付近で、死に行く親友との最後の会話が繰り広げられるシーンのように………。

 三人が固まりながら、なお沈黙が続く。


 そして、数秒たった頃、この謎の空間を切り裂いたのは、眞白だった。

 その目には、光が……いや……ないな、うん。汚物を見るような目だ。

 

「で、何をしていたんです?お二人で。流石の私も理解ができないのですけれど……」

「うん、説明したのは山々なんだけどね。それより先に解いてくれると助かるかな」

「はぁ…。分かりました。お二人とも、絶対に動かないで下さい」


 眞白は、近寄ってくると、パパッとロープを解いてくれた。

 解放された二人は、数分ぶりの自由を手に入れたことで、喜びの余り抱擁する。

 残念なことに、さっきまでと同じ光景だった。


 そこから数秒。

 二人は離れると、天パ頭の少年が眞白に話しかける。


「ありがとう、一ノ瀬さん。助かったよ」

「はい、それはいいんですけど?何故あのような状態に?というかなんで相手が私じゃないんですか?」

「ん?一ノ瀬さんとはさっきハグしたでしょ?それじゃ不満なの?」

「それとこれとは別です。とても羨ましいことを……」

「羨ましいの?んー、じゃあ枢木を始末すれば解決だね」

「ん?まぁ、はい」


 よく分からない提案に、適当に返事をする眞白(知能低下)。

 彼女にとっては、詳しい内容よりも、彼と会話している自体が嬉しいのだ。


「おい、二人して俺を殺すな。というか、今はそんなことをやってる暇じゃないだろ、天城。作戦PEが最優先のはずだ」

「あ、そうだね。一ノ瀬さん、悪いけどお話するのはまた今度だね」


 咲斗は眞白との会話を切り上げると、床に広がったロープを回収している拓真の手伝いに向かう。

 その様子を見ていた眞白は、その行動に疑問を抱き、彼らに問いかける。


 もうその目は、かつての輝きを取り戻していた。


「というか、天城くん。お話は今度って、今から補習ですよね、私、山田先生に頼まれて補習プリントを持って来たのですけれど」

「うん。補習だから逃亡しようと思って」

「はい?」

「山田先生には申し訳ないんだけど、僕には一昨日買ったゲームをクリアするという使命があるんだ」

「はい。で、何故ロープ?」

「そりゃ逃亡するためだけど?」

「??????」


 先程の光景以上の意味不明な言動に、学年一位の頭脳を持つ少女は、その脳内が?で覆われることになった。

 何故、逃亡を図るという単純な行動に、ロープという代物が必要になってくるのか。

 湧き上がってくる疑問の数々だが、やはり才女は答えに辿り着く思考回路を持ち合わせていたようだ。

 ロープと教室の位置を考えると、すんなりと逃亡経路を予想することができた。

 そう、彼らはロープを使って窓から脱走するという魂胆なのである。

 ということは、おそらく、転落防止用の棒にでもロープ巻きつけるつもりだったのだろう。

 そして、そのロープを用意する段階で、絡まってしまったと。


「ここ、二階ですよ」

「うん。だからだよ」

「普通に廊下から逃亡すればいいのでは?」

「甘いなぁ…。甘いよ、一ノ瀬さん。フォンダン・ショコラよりも甘い!!」

「むぅぅぅ」


 普段と立場が逆転して煽り口調になっている天パ頭の少年に、眞白は膨れっ面で詰め寄ってくる。

 そして、両手で咲斗の頬を包み込むと、ビヨーンと引っ張ってくる。


「どこが甘いんですか?説明してください、天城くん」

「くりゅりゅぎぃ!」

「あぁ…甘いぜ。甘すぎるぜ一ノ瀬さ…ひでぶっ!!」


 頬を引っ張られているため、説明を拓真に任せようとした咲斗だが、どうやら一ノ瀬眞白は、天パ頭の少年以外の煽りには容赦がないらしい。

何処らか取り出したハリセンで、脳天直撃の一撃(優しめ)を繰り出す。


「何か、体が爆散しそうな断末魔が聞こえた気がするんだけど……。まぁいいか、枢木だし」


 隣で伸びている拓真を横目に、咲斗は回収したロープを持って窓際にまで進む。


「一ノ瀬さん」

「はい」

「今、教室の外に二人、この教室の様子を伺っている教師がいるのに気がついているかい?さっき上がって来た足音からして、学年主任の鳥山先生と、体育の林先生だ」

「ほへぇ?(思考停止)」


この説明には、流石の才女も考えることを放棄した。


 (昼も思いましたが、聴力がぶっ壊れ性能ですね。何処かのスパイかコウモリか何かですか?天城くんは)


「で、さっき教室からこの双眼鏡で山田先生を確認したんだけど、上がってくる気配はないみたいだ。ずっと職員室の椅子から動かないし。だから窓からロープを使えば、誰にもバレないで逃亡できるって算段さ」

「わーお。凄い観察力ですね、天城くん」


 素直にパチパチと拍手をする眞白。

 普段から褒められる経験が少ない咲斗は、ついつい照れてしまう。


「へへ、でしょ。じゃあ僕だけでも逃亡させてもらうとするかな。枢木、ごめん。でも僕は行くよ。ロープをありがとう」

「あ、待ってください、天城くん」

「ん?」


 呼び止められ、ロープを肩に担ぎながら振り返る咲斗。

 すると、目の前に何かしらの機械が突きつけられる。

 その得体の知れないものに、つい天パ頭の少年は、視線が釘付けになってしまう。


「なにこれ?」

「トランシーバーです」

「学校にこんなもの持ってきたらダメなんだよ、一ノ瀬さん。ほら、先生には黙っててあげるから僕のことは見逃してね」

『何が、「先生には黙っててあげるから僕ののとは見逃してね」だぁ?あーまーぎぃぃ!??』

「なにこれ?」

「トランシーバーですけど?」

「違うよ一ノ瀬さん。このトランシーバーから、聞き覚えのある声というか、さっきまで怒られてた担任の先生の声がすることについて聞いているんだけど?」

「だってこれ。山田先生から頂いたものですから」

『そこで待っとけ天城!後、枢木も!毎回どうやって脱走するのか思って一ノ瀬にトランシーバーを預けておいたが、まさかロープだったとはなぁ!!』

「毎回って……。天城くん、これずっとやってるのですか?」

「…………(逃亡)」


 後ろのドアから教室から出ると、右手に鳥山先生。左手に林先生。

 林先生なら逃げることは容易ではないが、鳥山先生側なら距離を離せるしギリギリいけるはず。

 そう、この天パ頭の少年はスタートダッシュに長けているのだ。

 だからこそ、逃げ出して撒いてしまえばお手のもの。


 なのだが……。


『一ノ瀬、逃がすなよ!!』

「任せて下さい!!」


 彼のスタートダッシュを凌駕する反応速度を見せた少女がいた。

 というか、先程まで話していた少女だった。

 その花葉色の髪の少女は、逃げ去る咲斗を背中からガッチリとホールドしていた。

 背中に感じる柔らかい感触と、甘い香り。

 なにか、デジャヴを感じる。


「あ、あの……一ノ瀬さん」

「はい?なんですか?天城くん」

「わぁーー!!手を離して!!来ちゃうよ!!僕死んじゃうよ!!」

「それはダメです。成績も心配ですし……というか、まだ冬休みに会う約束とか色々が(小声)……」

「なんだってぇ?後半とか全然聞こえないよ!」

「と、とにかく逃しません!!」

「嫌だァァァァ!!!」


 数分後、教室にたどり着いた山田先生は、またもや中坊のイチャコラ場面に遭遇することになる。


 ドアを開けるや否や、飛び込んでくる二人組。

 片方は絶望した顔で項垂れて、片方は満面の笑みでガッチリホールドをかましている。

 後、もう一人はハリセンと共に床に倒れ込んでいた。


「逃がすなとは言ったが……なんだこれは…何故一ノ瀬は後ろから天城を抱きしめているんだ?」

「?だって、山田先生が『逃すな』って…」

「他に方法はあるでしょうが」

「捕まえた方が早いと思いまして」

「………まぁ、一理あるな」


 またもや顔を赤くして引っ付く二人を見てツッコミを入れる山田先生。 

 その顔を見るや否や、天パ頭の少年は正気が戻ったのか、眞白の方を振り向く。

 彼女もまた、その振り返った咲斗と見つめると、お互いに「ふふっ」と笑い合う。

 そして、


「「先生、頬が赤いですよ」」

「お前らのせいだろうが!!」

 

 と、山田先生は盛大に声を張り上げるのだった。


 その後、ロープを取り上げられた二人は、山田先生の監視下の元で補習を受けるのだった。







(あとがき?)


 あとがきを書くところってあるんですかね?

見た感じなさそう(見落としているかも)だったので、本文の最後に書くことにしました。


 1話と2話を書いていて「いや、山田先生が1番可愛くない?」って思いました。

なんか、担任とか先生が照れるの結構好きなんですよね(少数派かも)。

 普段は怒ってたりするけど、たまに出るあの表情。なんかよくないですか?ギャップってやつですかね?

 後、私フォンダン・ショコラ好きなんですよね。

 初めて食べたとき、中からチョコレートがとろっと出てきたのが衝撃的でした。

 まぁ、それはいいとして………。


 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 ♡とかフォローして下さる方もいて、励みになっています。

 感想とか、質問とかも気軽にコメントして頂けると幸いです。

 ここまで少し長くなりましたが、(あとがき)は気分次第で書こうかなぁと思います。

 今後ともよろしくお願いします。

 

 

 


 

 

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