4話
そうだ、殺そう。こちらを振り向く陽彦と目が合い――聖二は一瞬で我に返った。いや、なんで。そんなことするわけがない。
陽彦も全く同じように動きを止めていた。そんな二人の首めがけて、深雪が勢いよく黒髪を伸ばす。防御すべく二人が振り上げた腕にそのまま髪が絡みつき、ぎりぎりと締めつける。
「……深雪?」
「お前――マジで効いてんのか?」
拘束が緩んだ。いつもの無表情で、深雪が口を開く。
「ちょっとした冗談」
嘘をつくな、と思う。さすがにそんな冗談をやる空気じゃなかっただろうと。
「『
王がそう解説する。今までそんな兆候は見えなかったが――深雪はけっこう深刻に、細胞の侵食が進んでいるのかもしれない。
「なんの前準備もなく、私が出ていって滅ぼせと命じても、だれも従わないだろう。仮にできたとして、ただ操られてそれをした狩人たちに、
憎悪はともかく、好意ってなんのことだ――聖二はそう思ったが、陽彦はなにか思い当たる節があったらしく、ちょっと苦々しそうに愛海を睨んだ。
「人を滅ぼして当然という考えが十分に広まりきれば、決行のときだ。私たちは彼らの前に姿を現し、我々はもとより人の姿した冬獣であり、これは
計画の中にそれらしい穴を見つけて、
「
虐殺のみを止めようとする、妥協の案だった。確かに王の話は、一部の論点をすり替えていた。彼の群れに狩人たちを迎え入れるのに、一般市民への攻撃は必須ではない。狩人たちは長く生きてさえいれば、
どうして自分はそれを考えもしなかったのかと
あのとき聖二には、自分の正義が揺らがないという自信がなかった。一方で陽彦は思考を止めず、より人の殺されない道がないかと探していた。ただ――
「すべての子どもたちに移植手術を受けさせる、というのはとても良い考えだな。一考の余地がある。だが、その他の部分は要らない。なぜ私が人間たちのために、そこまで意向を曲げてやらねばならない?」
そうくるだろうとは薄々思っていた。おそらく、口にした陽彦自身も。それに、都市の側もこの提案をすんなりと呑みはしないだろう。
陽彦はなおも問い続ける。
「中のやつらがどんなふうに暮らしてるのか、見たことあるか?」
「いいや。あの
「殺しちまうほど、嫌いに思ってんのか?」
「どうだろうな。嫌いというか、ただそうするのが自然であるように思えるし、弱くて脆い彼らに敬意を払えない。同じ生き物だと思えないのだ」
「先生ってのを、親だと思ってたんだろ」
王の表情が固まった。にわかに突きつけられた矛盾に、面食らったかのように。
「あんた、怒ってるだけなんじゃねえのか。先生ってのを受け入れなかった連中に」
王は少し、考え込むようにしてから答える。
「なるほど、怒りか。今まで考えもしなかったが、確かに私の曖昧な部分をうまく説明づけてはいる。だが、もしもその通りだとしたらなおさらにだ。私があの地下都市を滅ぼそうとすることが、君たちにも理解の及ぶ話になってくるんじゃないのかね?」
「あんたがその先生を殺したくせに」
「……その代わり、私は『聲』に目覚めた。私は彼の正しさを証明した」
底知れなかった王の態度が、少しずつ
「たくさん話したので、そろそろ疲れてしまったよ。面白い子たちを連れてきたな、愛海」
そう言って、会話を打ち切ろうとする意志を明らかに示す。
「私は君たちを受けいれる。心変わりしてくれることを願っている。もし、どうしても相いれないというのなら――残念ながら、手荒な真似をするかもしれん。さあ、
当然そうしようと思った。自らの意思で出口へと歩みながら、陽彦は最後まで王を睨み続けていた。
毛皮の仕切りを
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