6話
「陽彦の嗅覚ほどじゃないけど、僕もある程度は感情が読める。瞳孔の収縮や、目線の動き、顔の筋肉の動きなんかを見てね」
蛇型の
「なんでそれを、と思ったようだね。何を言っているんだ、ではなく」
愛海は何も言わない。答えあぐねるというより、聖二の出方を窺っているというふうに。
「円蓋都市を守ろうとする集まりに、僕が参加していることは前にも話したね。少し前から我々は、狩人たちの雰囲気がおかしくなっていることに気づいた。けれど妙なのは、その風潮にまるで実体がないことだった」
聖二は話を進めることにした。愛海を問い詰めるべきと断じた、理由と経緯について。
「体制を打破して大きな変化を
永くに渡って円蓋都市を守ってきた『都市の影』たちの集積的な知見に、聖二は一定の信頼を置いている。直感でも、そう的外れな話ではないと思えた。
「けれど、見つからなかったんだ。それらしい
喋りつつ緊張で乾いてきた唇を、毒液交じりの
「あの鳥との戦いを経て、思った。
愛海の
そこでようやく、愛海が口を開いた。
「ええと……聖二くんは五百人もいる狩人の、全員の
「いいや。というか、そんなことは誰にもできない。同じ種の細胞を移植されたとして、発現する能力は本人の体質や気性にも大きく影響を受ける。誰がどんな力を持っているのか把握しきることは不可能だ」
「じゃあそれって、そういうことがわたしにできるってことではあっても、わたしにしかできないってことにはなりませんよね?」
もっともな反論だが――そのわりに、愛海の口調は軽かった。
聖二がそんな
「もしもその通りなら、それでいいんだ。疑ったことを謝るし――その上で、僕が言ったことの逆をしてほしい。つまり、きみの
きっとそうはいかないだろうという言外の含みが、首を振る聖二のしぐさから
「疑いを持った僕は、きみ自身について探ることにした。本当にきみが憎悪をばら撒いているとしたら、なんらかの思想や、それによって得られる利益があるはずだと思ったからだ。ありえそうなのは、親からの影響だと考えた」
愛海の肩がびくりと震えた。聖二が何を調べ、何を知ったのか勘づいたのだろう。
「
決定的な疑いを、突きつけなければならない。愛海の赤い瞳も、いよいよ見開かれていた。
「
誰も面倒を見ようとしない焚火がいつの間にか弱まって、夜の闇がいっそう濃く二人を包んでいた。遠くでびゅうびゅうと、冷たい風が吹く音がした。
「今まさに、人心が乱れているこの都市で。存在しないはずの人間が、心に干渉しうる力を持っている。さすがにこれは、なにも問い詰めないというわけにはいかないよ」
問いかけの形を変え、改めて聖二は尋ねた。
「きみは何者なんだ、愛海」
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