2話
「入ってくれ」
と聖二が促す。陽彦が招かれたのは――なんてことはない、彼の
何か非日常的なことでも見せてくれるのかと、ほんの
「なあ、外にしねえ? 野郎と狭い部屋で過ごす趣味はねえぞ」
陽彦の提案に対して。
「ああ、それは大丈夫、すぐに解決する。それより入って
聖二はそんな、よく分からない答えを返す。
すぐに解決する? この部屋が変形して倍の広さになるわけでもあるまいし。
「よし」
聖二が頷き――屈んで、なにか足元のあたりを手で弄った。途端にベッドが大きく跳ね上がる。そのまま壁に沿うように固定されて、個室内に空間の余白が生まれた。
「……は? こんな収納機能ついてたのかよ」
「いや、君らのところにはないよ。それより、ほら」
内心けっこう驚愕している陽彦を差し置き、聖二がまた屈んで、今度はベッドがあった場所の床に埋め込まれた取っ手のようなものを引っ張り出した。分厚い板が一枚外れ、その下から更に別の取っ手が二つ現れる。それを観音式に開くと――どこへ続いているのかも分からない空間と、昇降するための
「おいおいおいおい、冗談だろ」
「ほらね。広さ問題は解決した」
それよりももっととんでもない問題が発生しているのだが――普段の小生意気さへのお返しとばかりに、聖二は敢えてすっとぼけているようだった。
「ビビッて足が
「ナメんな。それより、ちゃんとこれがなんなのか説明はあるんだろうな」
「後でね。とりあえず、付いてきてくれ」
梯子を伝って、謎の空間へと降りていく。5メートルほど下ったところで足がつき、かつん、という音がよく響いた。なんの照明もない完全なる暗闇が広がっていたが、聖二が近くの壁のあたりを弄るのが音で分かり、それから
コンクリート張りの細長い空間だった。搬入・駐車区画と休息区画をつなぐ通路に似ているが、あちらは外部と繋がっていて冷たい風が吹き込むのに対し、ここは陽彦たちが今しがた通った出入り口以外、密閉されているようだった。
壁に手をついてゆっくりと進む。視覚的には月明かりぐらいしか照らすもののない
「配給所の件は知っているかい?」
と、歩きながら聖二が尋ねてくる。ああ、と陽彦は頷いた。
「現場を見てないから分かんねえけどよ。怪我させたってのはさすがにやりすぎだよな」
「怪我させた、どころじゃない。なんとか一命は取り留めたようだけど、あやうく命に関わるような重傷さ」
そう聖二が補足する――どうしてそこまで詳しく知っているのだろうかと思うが、もはや尋ねない。
やがて突き当たりに辿りついた。入った時と同じような梯子がそこから昇る形で取り付けられている。聖二が先に昇って天井を押すと、観音開きを内側からあける形で出入り口が現れた。
梯子を昇り抜けると、そこは小さな部屋だった。外へと通じる扉以外には何もなく、どこか生温かい空気に満たされている。
聖二がその扉を開いて――陽彦は、信じがたいものを見た。
空間がひらけた。そこもまだ地下でありながら四角い建物が立ち並び、床に埋め込まれた照明が辺りを柔らかく照らしている。見覚えがあると同時に、ありえないはずの場所。
「ようこそ、居住区画へ。いや……おかえり、かな?」
唐突な七年ぶりの帰還を、聖二がそう
※※※
「んな、バカな……」
「何がおかしいんだい?」
いよいよ狼狽を隠せなくなった陽彦に対して、聖二はあきらかに白々しく振る舞っていた。
「
「そんな
めちゃくちゃなことを口にしている。聖二自身、それを分かっていないはずがない。
「もしそうだとして……それを知ってる
「うん」
聖二はあっさりと首肯する。
「うん、じゃねえだろ!」
普段から公平さを重んじて、正義みたいな青くさい言葉を平然と口にするこいつが、そんなことを認めてもいいのかという思いに強く駆られる。
「一応言っておくけど。ここに住むとか、何かを持ち出すとかは許されていないよ。ちょっとした情報を
語りながら、聖二は歩き出す。
「観光でもしようじゃないか。聞きたいことがあるなら答えるよ。あと、
なんだか主導権を握られっぱなしで気に食わないが、取り残されるわけにもいかないと陽彦もついて行った。
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