6話
「□□□□□□□□□□——————!!」
鳥の王が命令を下すなり、猛禽たちがこちらへと襲いかかってくる。毒針銃を向けて、引き金を続けて引いた。
勢いを殺さぬまま、翼が
聖二が普段いかに動きを先読みして射撃を行っているのか、実感を伴って知らされたよう。
爪や嘴の嵐が迫る――丸鋸を振り回し、杭で反撃を試みるが、まんまとすり抜けて一方的に身を
速さも精度も足りていない。これでは木偶人形を扱っているのと同じだった。
戦いの
躊躇する私に、新たな嘴たちがまた容赦なく迫る。こういう攻撃を、再生力に優れる愛海がいつも飛び出して受け止めていた。
記憶に沿って彼女の身体を動かすが――鋭く腹を突かれつつ、あざ笑うかのように身を
勝手に身体を借りているというのに、どこかまだ遠慮を捨てきれずにいた。致命傷を受けてはならないという怖がりな意識が動きの
私たちを弱敵と
聖二が、陽彦が、愛海が、こんなやつらに後れを取るはずがないのに。彼らの力を十全に発揮しきれていない、私がぜんぶ悪い。
どうにかその力を引き出そうと、繋げた神経線維の侵襲を高めようとしたその時。
にわかに
『わたしがやります』という、声なき声が聴こえた。
その接続を手放す。ふわりと拡がるなにか――
「■■■■■■■—————!?」
「■■■■■■■■■■———!!」
集う鳥たちを杭が貫き、
「おはよう、深雪ちゃん――守ってくれてたんですね」
杭だらけのサボテン人間となった愛海が、私に向かって微笑む。
「何もできなかった。あなたたちを無闇に、危険に晒しただけ」
申し訳のない気持ちで正直に語った私に。
「深雪ちゃんが、眠りから引っ張り上げてくれたんですよ」
愛海はそう返す。神経への刺激が、彼女の覚醒を促したという示唆だった。
それなら、私がするべきは。
迫りくる猛禽たちへの対処をひとまず愛海に任せ、聖二の内側へと深く潜った。眠ったままの心の表面を、撫ぜるように、
たちまちに
接続を手放す。ぱんっぱんっぱんっ――連なって響く破裂音。
「——————ッ――――」
「————……————」
翼を広げた滑空姿勢のまま、硬直し雪面へと堕ちる鳥たち。
「交戦中みたいだね」
頼れる鳥撃ち名手が、復活して早々に状況を確認する。
「私はあの
「
「うん」
物量に押されつつある愛海を、聖二が援護射撃し始める。
髪で繋がったままの陽彦を伴って、私は駆けだした。
視線の先——鳥の王は震えるように羽ばたき、なんとかその場から飛び立とうとしている。欠損の再生と比べると、骨折や打撲の治癒は遥かに早い。
疾走しながら、最後の一人を起こすための刺激を送る。
「——おい」
神経線維ごしではなく、声による返事が上がった。陽彦が薄っすらと瞼を開く。
接続を手放そうとしたそのとき、ようやく
拒絶ではなく、同調の信号。
『もっと踏み込んでこい』と、陽彦がこちらに告げている。
既に奥深くまで潜り込ませた神経線維——やりすぎてしまえば、彼のすべてを永久に奪ってしまうだろう。
あえて思いきり踏み入った。
肉体に掛かった、無意識の制限を解き放つ。ミシミシと
私と彼との境界が融けてゆき、脳が熱さで
極限まで縮めたバネのように、全身に力が
陽彦が私を信じてくれていることが、神経線維よりも確かな何かを通じて伝わってくる。
そのことがただただ嬉しくて――鼻から血を
「「……あああああああああああああっ!!」」
私たちは、一つになって叫んだ。
足元の
「□□□□□□□□□———」
丸鋸剣がブルルル、と吠えて、そのヒステリックな叫びを掻き消した。
交差した瞬間、飛び立つ寸前だった鳥の王が両断され――雪上にとびきり、鮮やかな血の花が咲いた。
※※※
「■■■■■■■■——!!」
「■■■■■■———————」
「■■■■■■■■■—————……」
王を
ふっと力が抜けて、背中から倒れこんだ。
酷使しすぎた脳にこもる熱を、雪がひんやりと奪っていく。
誰かが近づいてくる足音——人の
彼になにか言われる前に、私は伝えることにした。
「ごめんなさい」
謝らなくてはならなかった。
彼らが幸せのままに終わる、もしかしたら最後の
そんな、とてもひどいことをしたのに――ほんの少しも、後悔をしていないこと。
そんな私の気も知らずに。
「意味分かんねえし。なんで笑ってんだ、お前」
陽彦はぶっきらぼうな、けれど優しい声でそう応えた。
その言葉に満足して、私は瞼を閉じた。
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