6話
雪上に
戦いの末に発狂し、脅威と
かつて、気高い
狩人たちが平穏に、その命を全うした試しはない。
救いはどこにあるのか、その答えはとっくに知っている。初めから外れくじを引かないことだけだ。
地下都市の中枢に備わったシステムによって
細胞が定着するのは身体的な成長期にあたる十代半ばまでに限られ、大人になってからではうまく馴染まないのだ。
人類がその種を未来につなぐために、やむを得ず駆り出される少年猟兵——それが陽彦たち、厳冬の世の狩人だった。
クソくらえだ。そうまでしなけりゃ
できることなら、自分の手でそうしてしまいたいぐらいだった。
凍てついた世界まるごとこの怒りで焼き尽くして、他人を踏んづけて生きているやつらを全員殺してやりたい。
けれど実際には、現実を変える力のないこんな感情ですら、四六時中ずっと
空腹を満たし、
受け継いだ丸鋸剣を、強く握りしめた。今の陽彦でもぶっ壊せるものは、あのむかつく
※※※
緑の夕焼けに照らされた、背の高いコンクリート製のビル群——かつての
その一室で猿の王は怒りに震えつつ、同時に狂ったように笑っていた。
どうして
なにを笑っているのか。知っているからだ。自分がこの世界を統べるべき王であり、これもまた新たな力を得るためにもたらされた試練にすぎないことを。
かつての彼はそうではなかった。彼らの
王として生まれたにも関わらず、ほかの力ある獣たちから隠れるように暮らし、食い残しの肉を盗み漁ることすらあった。
転機が訪れたのは、ごく最近のこと——たまにやってくる、妙に強くてつるつるした連中。その一団を自らの
それがいま彼の持つ、死の棒だ。ピカピカの小石を入れて指で引くと、向けた先にあるものに死をぶつける。握った右腕ごと先ほど一つ落としたが、まだ三つ残っている。四匹のつるつるどもが一つずつ持っていたのを奪い取ったのだ。
手下にも貸し与えて試しに使わせてみたが、そいつは棒の仕組みを理解することができず、逆向きに持って自分の頭を吹っ飛ばした。彼はそれで、この棒が選ばれし存在である自分にしか扱えない品であることを悟った。
それらを使って、元の持ち主であるつるつるどもを
あらゆる獣の頂点に立つ瞬間を夢想し、けれど一つだけ残ったある懸念が、全能の妄想に浸ることを阻害していた。棒に込めて使う小石が、有限であったことだ。
そこにやってきたのがあの、
生え変わった新たな腕を、猿の王は軽く動かしながら眺めた。見た目こそほぼ完全に形成しなおされ、真新しい白銀の若毛に覆われてむしろ若返ったようであるが、まだ多少ぎこちない。完全に馴染んで違和感なく動かせるようになるまで、もうしばらくかかるだろう。
あまり悠長にしてはいられない。ここへ来る道すがら、手下どもにやつらを襲って足止めさせるよう声をかけたが、どれほど
やがて夕日が完全に沈み、日光を
「□□□□□□□□□□□□□□——————!!」
逃げてきた方角に向けて、大声量の
「■■ッ——」
果たしてその返答はごく近く――今いるビルの根元で上がり、短く掻き消えた。
猿の王は意識の死角となっていたその場所を見た。三匹のつるつるたちが下から自分を睨み、すぐそばに今しがた声を返したらしき手下の猿が、首を失って転げている。
驚きと困惑が彼を打ちつけた。追ってきていたのか。しかも、こんなに近くまで。あと少し気づくのが遅ければ、まんまと奇襲を受けていたのではないか。
いや、何かおかしい。三匹? やつらは四匹ではなかったか。手下どもが一つ仕留めたのか?
浮かんだ疑問に答えるように、轟音と震動がビルに響いた。人間が言うところの地震を、彼も『世界が揺れる現象』として知っているが、それよりももっと直接的な衝撃だった。
同規模の二撃目が間を置かずに加えられ、長い年月に晒されて脆くなったビルの一部が吹き飛ばされて、
そして三度目の衝撃によって、とうとうビルは完全に中枢を砕かれた。猿の王が立っていた空間そのものが、重力に引き寄せられ下方向に崩壊していく。
必死で雪面へと転げ飛んで、すぐさま起き上がる。幸いにもほぼ無傷でいられたが、そのような逃げを打たされたこと自体が大いなる屈辱だった。
「□□□□□□□□□□□□□——————!!」
上げられる最大限の声量で、手下たちを
徐々に集う手下たち――しかし、おかしい。せいぜい四十ほどしかいない。遠くのものに聴こえていないことを差し引いたとしても、二百程度はすぐに集まるはずが。明らかに少なすぎる。
「この
狼の
「傷つけた人たちの痛みを、報わせてあげますから」
金糸の髪の少女が胸元を開き、甘い芳香を漂わせる。
「今ので潰れて死ねばよかったのに」
意思持つ片翼のように巨大な肉塊をうねらせ、黒髪の少女が呟いた。
「建物の中にも手下が居ただろうからね。排除できただけ
蛇めいた瞳を持つ少年が、長い死の棒の
「□□□□□□!!」
ぱん、ぱん、と空気を弾く音が響き、死の毒針が放たれた。
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