第10話 キャンプ編 白熊の加護 / Der Schutz des Eisbären
「お前ら、女子部屋に入ってみねえか?」
あまりに突然の事でありほとんどの子が一瞬固まった。けれども気づけば彼の彼女のPちゃん、親友のJ君と共に過半数が賛成していた。
このキャンプではちゃんと男子と女子が別れているのだが、寮自体は同じだ。二階は男子、そして三階は女子になっているが自由時間に男子が女子の階に、女子が男子の階に行くのは厳しく禁止されている。しかしこれといった隔たりが無いせいか、男子と女子の階を繋ぐ唯一の階段にはいつも小太りな中年男性が最大の隔たりだった。
そこでS君は教師の盲点を突く方法を思いついたのである!この寮には珍しく一つ一つの部屋にベランダが設置されていた。女子、男子、関係なくである。そしてベランダ自体は繋がっていないのだが、緊急事態用に縄ばしごだけは必ず設置されている。S君は女子達が上の階にいる事を利用し、その梯子を男子のベランダに下ろさしたのだ。そしてその男子部屋へ全員入り、内から鍵をかけた後ベランダへ登ると言うのがS君の考えた方法であった。それまでの時点で殆どが賛成していたが、この作戦を聞いて賛同していないのは私とB君だけになってしまった。けれども私もB君もこれはやはりリスクが高すぎると思い、なんとか作戦を手伝うだけでいいように誤魔化した。S君は少し残念な顔をしたがすぐに作戦を実行しに皆と寮へ入っていった。次に私達が自分の部屋へ戻った頃には梯子はすでに降りていた。
しかし彼らはまだこの作戦の大きな欠点に気付けていなかったのだ。。
必然的に少し騒がしくなり始めた二階を怪しく思った先生は彼らが梯子を使って上へ向かった男子部屋をノックし始めた。(ちなみにこの時私とB君は一部屋を挟んでいる部屋の扉から一部始終を覗いていた)
返事がこないので先生は扉を開けて入ろうとするが、S君達はしっかり扉に鍵をかけてある。ここまでは良かったのだ。けれどもこの先の事態まではさすがのS君でも予想できていなかった。扉を壊す勢いで扉を叩いていた先生は扉に鍵がかかっている事に気づき下へ戻っていった。遂に諦めたのかと思いきや、彼は寮母さんからマスターキーを借りて帰ってきていた!
そう、本当は下の部屋に一人でも良いから返事ができる奴を置けていれば、バレる事は無かっただろう。しかし、誰もが一人で居たくないと言う心理的な部分を補えていなかったのだ。
「ガチャリ」
扉は勢い良く開き、もう彼らが逃げ延びる事は不可能に近かった。そう思った瞬間、先生と入れ替わるように人影が扉から出てきたのだ!その人影はゆっくりと亀の様に動きながら、静かに別の部屋へ入っていった。私とB君は笑いを堪えるので必死だっだが、この偉業を成し遂げたのは私と共に白熊クラブに入っていた黒人のE君だった。その日は特に暗く、先生の位置からは彼の事に気付けなかったのだろう。やはり白熊様の加護だったのだろうか。しかしこの様な奇跡は一回きりと言うのがお約束である。女子を含めて残りの生徒はこっぴどく先生達に絞られる事になり、わざわざ教頭先生が学校からくるちょっとした騒動になった。
この事件の後から私とB君は敬意を込めて「不可視のE」と彼を呼ぶ様になった。
ドイツ学園物語 U.N Owen @1921310
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