第33話

「まだ意識が混濁している様だな。奴の爪先から注入された幻覚剤の量は、それほど多くは無かった筈だが、、、」

やっとの思いで私は声を絞り出す、舌は乾き喉はガラガラである。まるで老人の様な声だった。

「ケ、ケン、教えてくれ。一体何が起こっているんだ。何故、次々に私の思い出の中の女性達が現れるんだ。そして私は今何処にいるんだ」

「七哉、まあ落ち着けよ。」諭す様にケンが言った。

「お前はさっきの場所から一歩足りとも移動しちゃいないよ。ここは奴がお前の足首を掴んだ砂浜だ。分かるか?毒を打たれたショックでお前はずっと気を失っていた、、、」

「そんな馬鹿な、マダムは何処へ行った?宇宙船は?白衣のアンドロイドの娘は?里菜は?祖母は?母は?全部幻覚だったと言うのか!」

ケンの身体から明らかに殺気が放たれるのがわかった。犬の姿をしていても、険しく目を細めているのが感じられる。

「おい、お前。何で俺の相棒のコードネームを知っている。そして何故、船の中の白衣のアンドロイド娘の存在を知っているんだ」

目の前のコリーは、低く唸ると牙を向いた。


タイムリープ、、、。

デジャブ、、、。

何時か古い映画で聞いた言葉が頭の隅を過ぎった。


次の瞬間、雷に打たれた様な衝撃が身体を走り、私はケンの唸り声を聞きながら三度目の暗闇に落ちて行った。

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