第32話

痛みを遠くの方で感じる。

私は、痛みの元を探して、指で肌をなぞった。傷を見つけた瞬間に痛みが現実のものだと気がつく。オンナ……、私の足首の傷は、いったいどの女を指しているのだろう。計り知れない魅力のマダムか。どこか不思議な存在感のあった祖母か。私の心を満たした里菜か。そして、記憶の底に優しい声を残したままの母か。

私は、どの女も私を残して消えていることに気が付いた。


「おい!七哉しっかりしろ」

あきれるようなケンの声が頭の端で聞こえる。私は、ケンに返事をすることができなかった。

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