第31話
「お帰りなさい、七哉」
冷たい青い水中に響くその声は、マダムでも、祖母でも、愛しの里菜でもなかった。
絶対に聞き間違う筈の無い声。
幼い頃に行方不明となり離ればなれのまま、その生死さえも分からずに、しかし片時も忘れた事の無い懐かしい声。
無意識で溢れ出す滂沱の涙を私は抑える事が出来ない。
視界がぼやける。
水中という事も相まってもう何も見えない。
それは、大好きだった母、淳子の声だった。
「相変わらず、しちや君は泣き虫さんだね」
母の優しい声が耳元で囁かれ、私は幼児の様に身を竦める。
暖かい手の平がそっと頭に乗せられるのを、とても心地良く感じながら、私はまた闇の中へと沈んで行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます