第6話

私は思わずため息をつく。逃げ切れない恐怖と同時に私の中には奇妙な気持ちが生まれていた。この手が私の肌に触れるとどうなるのだろう?この手は氷のように冷たいのかもしれないし、肌を焦がすような熱を持っているのかもしれない。この手に触れられた瞬間、私は消えてなくなるのかもしれない。恐怖と矛盾した危険な好奇心が私の心を満たしていった。

異形の手は、私を異界へと手招いている。私は、ますます逃げ出せなくなった。

その指は私の足元を彷徨うようにしてゆっくりと蠢いている。私は、初めてハリガネムシを見たときの気味悪さを刹那に思いだした。

切れるような痛みを足首に感じる。私の足首には、黒い指から生える薄茶色の爪がめりこんでいた。

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