吸血鬼と魔女
* * * *
高速道路が走る高架下。
人気が全くなく、車が通過する音だけが微かに聞こえてくる。
そこに二人の姿があった。
「何のつもりだ、硝煙の魔女?」
白雪のように白い肌と白銀の髪の吸血鬼ーーリタは話しかける。
「あらあら、そうかっかしないで」
それをあしらうように答える魔女ーーレイスだ。
「何でお前が日本にいる?」
「それは貴方達にも言えることよ」
レイスはほくそ笑む。
「まぁ別にそこはいい。対策庁に肩入れしているのは何のつもりなんだ」
「それはーーっ」
レイスは少し間を置いて、薄ら笑みを浮かべた。
「貴方達の
それを聞いたリタから殺意が発せられる。
「日本で何かやらかすってのは知ってたから、先回りして敵対しそうな組織に肩入れしたーーこれが私の全て」
「そうか、なら死ね」
リタはそういうと、手の肉を噛みちぎる。
溢れた血液は、凝固し膨張する。
やがてそれは剣の形となる。
これこそがリタの能力ーー血装だ。
似た能力を持つ吸血鬼も少なからずいるが、ここまで精密に操れるのはリタしかいないだろう。
「やめといた方がいいわ、貴方じゃ役不足よ」
「お前ごときにこのおれが? 冗談でもつまらない......」
「ここで暴れるのはやめにしない? 貴方にはそこまで興味はなくて」
そういうレイスだが、リタは構わず突っ込んでくる。
レイスは背後に避けぞるが、首を半分ほど切り込まれる。
溢れ出る血飛沫が、リタの顔を赤く染め上げていく。
「い、痛っ......ぃわ、ぇね」
レタスは掠れた声でそう言った。
だが、レイスの首の傷は瞬時に塞がる。
「魔力回復ーー面倒だな」
「そうね、貴方達の再生能力頼りの肉体回復より持ちが随分といいから」
リタは手首を引っ掻き、血を噴き出させる。
手を振るうと、無数の血液の飛沫が銃弾のような形に変形し、凄まじい速度に加速して、レイスに降り注ぐ、
レイスに降り注いだ血弾は、身体中に穴を開けていく。
背後にあったコンクリートの橋桁に、拳くらいの穴を開けていく。
その威力は普通の銃弾のそれより上だ。
だが、レイスもすぐに傷口が塞がっていく。
「貴方と戦うのなんて本望じゃないけど、やるしかないわね」
レイスはそういうと、手の中に燃え盛る炎を生み出す。
それをリタの付近に放り投げると、地面を捲り上げて火柱が巻き起こる。
高く舞い上がった炎は、橋の裏側を焦がしていく。
薄暗い周囲を昼間のごとく燦々と照らし上げた。
リタは、その火柱を突っ切ってレイスに駆け寄る。
自身の皮膚が焼け爛れることも意に介さない。
どうせ数秒程度で完治する。
だが、リタが炎の壁を抜けた頃にはレイスは付近に流れる川に飛び込む直後だった。
「お、お前!!」
リタが声を上げた時には、レイスは川に飛び込んでいた。
「吸血鬼は流水には触れられないでしょ。さようなら」
レイスはそう言い残して、炎の光を反射された水の奥へと消えていく。
真祖に近い吸血鬼であるリタは、古典的な吸血鬼の特性を強く持っている。
それ故に、流水に飛び込むことができない。
日光に対しては肉体の再生能力で相殺しているが、それ故に陽の元では再生力がそれなりに低下するのだが。
「最悪......逃した」
東欧三大魔女の一人であるレイスーー彼女が敵対するだろう組織に加担しており、それを取り逃がしたのは痛手だ。
「な、なんだ!?」
「火事だ、火事!! 凄い、炎が巻き上がってる!」
暫く、リタが唖然としていると騒がしい声が聞こえてくる。
騒ぎを聞きつけた一般人が、すぐ近くまで来ていた。
「面倒だな、ほんと」
この状況を見られては、少し面倒だ。
リタは、彼らとは反対側の暗がりに姿を消した。
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