芹と眼鏡



暗夜商会への襲撃は、四日後だ。



急な話ではあるが、それまた仕方ないだろう。




しかし、相手は日本最大の裏物流組織だ。



相手取るのは人間。


恐らく人殺しをすることになるだろう。今更だが、少しだけ怖い。





東雲達と別れた後、湊は自宅のマンションまで戻った。




部屋の扉を開けると、先に帰っていたセリがソファでくつろいでいた。



「ただいまー」


「おかえりなさい、湊」



芹はそういうと、ゆっくりと身体を起こす。



顔をよくみてみれば、眼鏡をしていた。



「その眼鏡はどうしたの?」


「えぇ、この眼鏡は私の主治医の方が作るように言われて作ったものです。今日届きました」



芹の眼鏡姿は意外と様になっていた。


その物怖じしない表情からくるものなのか、どこか知的な雰囲気を感じさせる。




「自覚はなかったんですが目が悪かったみたいでーー実際よく見えます」



そう言ってまじまじと湊の顔を見つめてくる。




「いや、どうかしたの? そんなまじまじと見て......」


「いえ、こんな顔つきだったんだと思って」


「いや、なんか恥ずかしいな」


「いえ、悪い意味ではありませんから」




そう言って顔を遮ろうとしてきた湊の手を押さえてくる。



なんでそこまで顔を凝視してくるのか。なんだか気恥ずかしく感じてしまう。




「それと四日後の暗夜商会? に襲撃仕掛けるって話聞いた?」



湊は話題を作る。



「はい、元々対策庁が掃討しようとしていたーーという事は知っています。怪異の密売、武器の輸入、護衛部門に戦闘部隊もある大組織です......私も一度潜入されられたことがあります」



芹はそう言って、左腕にある銃創の痕に目を向ける。


「その傷はっ」


「身体の傷跡だけが増える結果になりました。毎度の如くしぶとく生き残りましたが」



今回の相手は芹にとってもあまりいい思い出のある相手では無いことは明白だ。



「別に芹はここで待っていてもいいんだよ。そんな無理しなくても」



「いえ、別に無理はしていませんーーそれに、湊が行くなら私も連れてってほしいんです」



「いや、身体な事もあるし......ね?」


「構いません。どうせそう長くはないはずです。もっと盾ように使ってくれてもいいのに」


「そんな事言わないでよ。盾扱いするわけないでしょ」



湊はその発言に、少しだけイラつきを覚えた。



まるで自分のことを考えてない。自分を無碍に扱うような考えが、納得できない。


本当に自分を大切にできるのは、自分自身だけだというのに。



それもまた、これまでの悲惨な生活から来るものなのだろう。


それを考えれば強くは言えない。




「いえ、湊にだけですよ、こんなこと言うのは。感謝しているんです、それこそ命を使っていいくらいには」

 

「ーーいや、その、あの......重いよ、重い!」


「重い? 私の体重はそこまで重くは無いかと......」


「そうじゃ無い、気持ちの重さ!」



芹の発言に戸惑いながらも、彼女の言葉の意味を整理する。

  

感謝というにしては、あまりにも重いのでは無いか。



「ただそばに寄り添ってくれたーーそれだけで凄く嬉しかったんです。だから、貴方の側に居させて欲しいんです」


「それは、勿論いいんだけどさ......自分も大切にしてよね」


「そういうなら善処はします」




そう本人は言っているが、本当にわかっているのだろうか。




「じゃあ、どっか夜ご飯でも食べに行こうか」



「湊が行くなら私も付き合います」




芹はそういうとゆっくりと立ち上がった。



湊の見た感じ、芹は食にあまり関心がないように思える。



湊が食事をとるように促さなければ、一日中食べない若しくは簡単なもので済ませようとする。




だから最近は、自分と毎日同じものを食べさせることを心がけている。




その時、湊のスマホに着信が入る。


東雲からだ。




『湊ちゃん、今時間ある?』


「えぇ、まぁ......」


『じゃあ、私の家でタコパしようよ。芹ちゃんも連れてきてさ』



今日の夜ご飯は東雲の家で済ませることになりそうだ。



「わかった。一応芹にも聞いてみるね」


『んじゃ、お願い。結構遠いし迎えにいくよ』



そう言って、電話が切られる。




「東雲さんが家でたこ焼き食べようだって」


「よろしければお供します」



芹も行ってくれるようだ。



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