たこ焼き



湊と芹は、マンション前に停まっていた東雲の車に乗り込む。



「ごめんねー、急で悪いね」



車に乗ると東雲がそう声をかけてきた。



「いえ、こっちもわざわざ迎えにきてもらっちゃって」


「別にそんくらいいいよー。されに芹ちゃんは元気にしてた?」


「はい、特には問題はありません」  


「そっか、それならよかった」




東雲はそういうと、車を走らせる。




「燕はどうしてるの?」


「燕は家にいるよ。最近、個人で除霊師やるんだーとか言って、サイトとかブログとか作ってみるみたい」


「なんだかんだで......元気なの、かな」


「まぁ、表向きはねぇ。湊が会いに来ないって文句は言ってたけど」


「その、ここ数日忙しくて......」




確かにスマホで連絡を取り合うくらいで、会いに行っていない。



先日の任務や書類の処理でそこそこに忙しかったのだ。





「東雲さんは目の調子どうなの?」


「んー、まぁ不便としか......変に頭動かすと痛いし、からだも」



傷だけで言えば今回この中で一番重症だったのは芹か東雲だろう。



「でも後悔はしてない。この仕事するからには覚悟できてたし」


「そうなんだ......」


「てか、あの吸血鬼次こそはぶっ倒す。絶対。」




そういう東雲の目には、戦う意志が見受けられた。


もし湊が同じ傷を負ったとしたそのモチベーションは維持できるだろうか。




東雲は暫く車を走らせて、郊外の住宅地についた。



そこにある一軒家に車は停まる。



他の住宅に比べても大きな家だ。



広々とした駐車場には、東雲の趣味であろう高そうな変わった車が数台並んでいた。



「ここが私の家だよ」



そういうと、東雲と書かれた表札がついた玄関の扉を開ける。



後に湊達が続くと、玄関の奥で燕が待ち受けていた。




「湊ちゃん、芹ちゃん久しぶり」



松葉杖を使ってはいるが、一応は立って歩けるようだ。




「久しぶり、ごめんね......本当はもっと早くに会いにくるつもりだったんだけど」



「まぁ、湊ちゃん達も忙しいもんねぇ。形代の連中とやりやってるんでしょ? 聞いたよ、推定幹部を二人倒したって」


「実際倒したのは私じゃないんだけどね......」



実際にあの形代連盟の殺し屋二人を殺したのはレイスだ。


もし湊が単独だった場合、向こうが対霊戦術を保有していると仮定すると、かなり厳しい戦いだったと思う。




「いや、絶対湊だけでも勝ててたよ。私は湊の強さを知ってるもん」


「そうでもないよ、上には上がいたし」

  


実際に、湊は自分よりも強い霊体と神も人間も魔女知っている。


 

確かに生まれ育ったちんけな田舎町と周辺では最強の存在だったかもしれない。


でも外に出てみれば、上には上がいたのだ。





そう思いながら、湊はふと玄関見渡すと、一枚の写真立てが目に入る。



写真立ての中にある写真は、卒業式の写真だろうーー制服を着た東雲と両親らしき人物のものだ。




「......っ」



そういえば、東雲の両親の話は聞いたことがなかった。



というか、この家に住んでいたりするのだろうか。




「その写真気になる?」



東雲は湊の視線に気づいた。



「いや、まぁ、少しね」


「もう居ないんだ、お父さんとお母さん。殺された」


「殺された......?」




殺されたーーどういうことだろうか。




「私の家系って元々は妖怪とか実体のある怪異の駆除を生業にしてたらしくて、その流れで対策庁に組み込まれたんだーーだから私も、お父さんもお母さんも......対策庁のエージェントだった」



東雲は少し表情を繕って、言葉を続ける。




「まぁそんなお金の稼ぎ方してたら、誰からか恨まれて殺されちゃったってこと。多分、死体の有様からして、吸血鬼に殺されたと思う」



東雲は、言葉を続ける。



「こんなつまらない話は置いといて、早く中に入ってきてよ。同時に百個焼けるたこ焼き機買ったんだー」


「ごめん、聞きづらいこと聞いて......」


「いいのいいの、別に隠してないし」



東雲はそう微笑んだ。



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