東雲の回想



思い返せば、自分は恵まれた人間だった。



裕福な家庭。


良好な家族仲。


超常を知る一族。


超人的な動体視力。



それらを持って生まれた東雲柚紀シノノメユズキ




両親に愛され、友人に恵まれ、高校を卒業した。



卒業後は、対策庁に就職することにした。



両親と同じ道、一族の家業。



別に強制された覚えは一度もない。



それどころか、危険な仕事だから普通の職についてほしいとも言われた。



だが、東雲は望んだ意思でこの道を選んだ。






東雲は初任務を終えて、自宅へと帰宅する。




「ただいま!」




扉を開ける。




あの夕暮れの静けさは今も忘れられない。




そうだ。



季節の割には暑かった。



それを思い出した。




「お母さん、お父さん、ハヤト、いないの?」



夕暮れに照らされた薄暗い家の中を進んでいく。



住み慣れた自宅のはずなのに、感じたことがない異様さを覚える。




リビングの扉を開ける。




「えっ......お母さっ、お父っさ、ハヤっト?」





リビングは真っ赤に染まっていた。




血溜まりの上に転がっているのは、変わり果てた両親と弟の亡骸だった。


まるでミイラのように干からびて異質な死体。





「うっ、そっ......」





東雲はその場に倒れ込んだ。




嗚咽が止まらない。状況を飲み込めない。





その後のことは覚えてなんかいない。




気づいた時には、祖母が駆けつけてきてくれていた。



辺りはもう真っ暗になっており、暗闇の中で放心状態だったみたいだ。





東雲の家族を殺したのは吸血鬼ーー。



殺害方法からして間違いはない。





それからは吸血鬼関連の任務に積極的に参加するようにしていた。




目的は、家族を殺した吸血鬼を見つけ出して、できる限りの苦しみを与えてやるためだ。




とはいえ情報が少なすぎて、手当たり次第に吸血鬼を殺し回るしかできないのだが。


 

結局、見つからずじまいで7年近く経ってしまっていた。







* * * *





東雲が目を覚ますと、そこは例のリビングだった。




「嫌な夢見てたな......」



東雲は目を擦る。



昔のことを夢に見ていたせいだろうか、母に涙が伝っていた。




「誰にも見られてないよね?」




東雲は辺りを見渡す。



湊と芹は、肩を寄せ合いながら壁にもたれかかって眠っている。



燕は、寝室に向かったのだろうか姿が見えない。





テーブルの上にはたこ焼き機と冷めているだろうたこ焼きが盛られた皿がある。




「流石に焼きすぎた......めっちゃ余ってる」




たこ焼きをお腹いっぱい食べた後、みんなすぐ寝落ちしてしまった。



今日はもう面倒だ。


片付けは明日でいいだろう。




東雲は徐に、たこ焼きを口に運ぶ。




「......やっぱ、冷めると美味しくないな」




東雲はそう呟いた。

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