反抗開始
湊は翌日、国防省に出向いていた。
国防省で国防軍及び対策庁での合同作戦が行われるとのことで、その連絡と説明だ。
「湊ちゃん、元気にやってる?」
対策庁職員向けの説明が行われる、大会議室で待っていると東雲が声をかけてきた。
未だに包帯で身体中を覆われているが、問題なく動けるまで回復しているようだ。
「東雲さん、一応元気にはやってるの......かな? その他の人達の癖が強くて」
「まぁ、湊ちゃんの分隊は扱いづらい子達で結成されてるからなぁ」
「そうなの!? いや、そりゃそうか......」
湊は軽くため息を吐く。
「でもすごいじゃん、形代連盟の幹部クラスを二人も撃破したんでしょ、それ以外にも都市伝説級の霊体も倒したみたいだし」
「私はなんもしてないよ。あの二人が強すぎてさーー自分も結構強いと思ってたんだけど」
「そりゃ、神様と魔女と比べるものじゃないよ。私も湊ちゃんも芹ちゃんも、みんな人間としての枠組みで考えないと」
確かに東雲の言うことは正解だ。
あくまで、葬狐もレイスも人智を超えた存在なのだ。
特殊能力を備えた唯人風情が、語り合える相手ではないのかもしれない。
「そりゃそうなんだろうけどさーーそいや、東雲さん第一機動隊の隊長になったんだよね」
「まぁね、と言っても湊ちゃんの分隊含めて、四つしか分隊保有してないんだよねー」
確かにそう聞くと意外と少ない。
ー分隊を四人だとしたら、16人しか第一機動隊はいないのだろうか。
「そう言えば、燕は大丈夫なの?」
「一応ね、大分立ち直ったみたいだけど、昔みたいな元気さはないかな。無理もないよ」
そりゃそうだろう。
燕は身体に強い障害が残ってしまった。
完全に立ち直れないのも無理もない話だ。
「東雲さんの家で、二人で同居してるんだっけ?」
「そうだよ。家事とかやってくれるし助かってるよーー今度遊びにくるでしょ?」
「勿論、東雲さんの家行ってみたいし、燕にも早く会いたいし......芹も連れてね」
「待ってるよ、タコパでもしようか。でっかいたこ焼き器あるんだー」
「タコパかぁ......なんか楽しそう」
二人は、などと他愛もない話を続けていく。
暫く駄弁っていると、二人の近くに一人の男が座った。
湊が彼に視線を向けると、そこにいたのはあの夜の襲撃で助けてくれた鎌使いの男ーー袴田だ。
「あ、ハカマダさんーーだっけ?」
「そいや、湊ちゃん命助けられたんだっけ」
どうやら、東雲は袴田を知っているようだった。
「東雲さんの知り合い?」
「知り合いって程でもないよ。あの人は対策庁で最強って言われてたんだけど......まぁ、特には接点ないかな」
そう言って袴田の方を見つめる東雲。
ふと、袴田と視線があい気まずそうにゆっくりと顔を逸らした。
袴田は、命を助けてもらった恩人だ。
感謝の気持ちと挨拶くらいはするべきだろう。
「一応、助けてもらったしお礼と挨拶してくる」
「湊ちゃんって、結構律義だよね」
そうぼやく東雲を横目に、袴田の元に近寄る。
「あの、あの時は助けてくれてありがとうございました」
湊が袴田に話しかけると、ゆっくりと振り向いた。
「あー、君はあの時の」
袴田は少し思い出すような、素振りを見せた後頷いた。
「君の活躍は聞いているよ。半霊能力者ーー壊滅状態の対策庁にとっては十本指にはいる戦力だ。それに分隊長に無事昇進したみたいじゃ無いか、まぁ俺が推薦したのもあるかもだけど」
「推薦?」
「ああ、如月芹を分隊長に据えるという話もあったのだが、総合的に君の方が優れていると思ったからねーーあの狐神も魔女も信用には足らんし」
この袴田という男、いうことがなんだか嫌な感じがある。
正直好きなタイプじゃ無い。
「俺も第二機動隊の隊長になったわけだ。そっちな少数の遊撃部隊ーーこっちは200名を従える主力部隊。まぁ指揮能力的に東雲じゃ役不足だろうからな、主力はこっちなわけだ」
そう言った袴田の頭に消しゴムのカスがあたる。
背後を振り向くと、東雲が不満そうな表情を向けて消しカスを投げつけていた。
「もうすぐ26だろ。なに子供じみたことしてるんだ」
「歳を言うな。昔から癪に障るんだよ、あんた」
そう言って不機嫌そうに嫌な表情を浮かべる東雲。
「もうすぐ、国防省の連中がくる。そろそろ席に戻ったほうがいいぞ」
「あ、はい......そうします」
湊はそう言われて、席に戻る。
「ね、癪に障る奴でしょ」
そう小声で東雲が耳打ちしてくる。
「なんか......そうだね」
「てか、人のこと26近いとか言ってたけど、まだ半年あるしぃ、てかあいつの方が年上だしぃ」
東雲は年齢を言われたことを気にしていたのか、そのことに関して暫くネチネチ言っていた。
本人も結構気にしているようだ。
暫くしていると、前の壇上に一人の男が姿を現した。
恐らくあの男は国防省の人間だ。
「皆さま、忙しい中お集まりいただきありがとうございます。では、戦時の緊急時ということで手短にお話いたします」
男はそういうと、語りを続ける。
「我々日本政府は、現在超常テロ組織ーー形代連盟から宣戦布告を受けています。状況としては、特殊部隊により幾つかの支部を壊滅させました」
男がそういうと、スクリーンに映像が映し出される。
それは背後を山に、前面を海に囲まれた場所にある巨大な屋敷だ。
「これは資産家一族の山城家の私有地の建物です。偵察によりこの施設が暗夜商会の売買会場であると判明いたしました」
暗夜商会ーー聞いたことがない名前だ。
「暗夜商会ってなに?」
「ああ、湊ちゃんは知らないよね。なんていうんだろうーー日本最大の闇取引組織みたいなやつ、昔から殲滅しようって話だったんだけど、中々アジトが見つからなくてね」
どうやら何かしら対策庁と因縁があるみたいだ。
男は続けていう。
「暗夜商会は現在、形代連盟と締結している、現在最大の取り引き先だろうと推測されます。恐らく銃器類や呪物の類を連盟の連中に受け渡していると思われますーー」
男は、言葉を続ける。
「四日後に大規模なオークションがこの場所で行われる。そこを叩いて、暗夜商会の壊滅及び形代連盟の補給戦を破壊するーーそれが作戦の全てです」
どうやら、それが次の任務のようだ。
「また大規模な戦闘になりそうだね」
東雲がそう呟いた。
「暗夜商会って結構強い組織なの?」
「まぁね、独自の護衛部門とかあるし......負ける気ないけどね」
日本最大の闇取引組織というくらいだ。その程度はあるだろう。
「それともう一つ別件で」
男はそういうと、スクリーンの映像が切り替わる。
それは監視カメラの切り抜き映像だ。
そこには二人の吸血鬼が映し出されていた。
一人は芹を襲撃した吸血鬼ーーリアス。
もう一人は東雲と交戦した吸血鬼ーーリタ。
その二人だ。
「先日の対策庁襲撃事件で、この二人の吸血鬼の存在が確認されました。欧州の協力組織に確認を取ったところ」
言葉を続ける。
「この二人、現在欧州東部の裏世界を掌握している怪異達の秘密結社ーー"首なし"の幹部だと完全に確定しました」
「首なしって詳しくはなんなの?」
「私もこれは詳しく知らない。けど裏で相当暴れ回ってるヤバい組織って聞いたことがある」
これは東雲も詳しく知らないそうだ。
「形代連盟に首なしが協力しているとなるとかなり厄介。幹部連中は小国規模の戦闘力を持っているとも揶揄されている......現在東京付近での吸血鬼の異常発生もこいつらが原因でしょう」
そしてスクリーンが写し変わる。
それは、ヨーロッパの地図だ。
東ヨーロッパのあたりが赤く塗られている。
幾つかの空白地帯はあるが、東欧と呼ばれる地域の殆どが侵食されている。
「これは、首なしの活動範囲です。東欧の諸国は、裏で不戦条約を結ぶくらいには警戒しています。推定される構成員は吸血鬼に類似する人型怪異ーー恐らく数千、下手すれば一万超えになる。我々は彼らにも対策を迫られるでしょう」
ともかく、日本史上でも過去類をみない異常な事態というのは湊でもわかる。
一体これからどうなってしまうのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます