刺客



四人はトンネルの外へと出る。



天気は晴天。



眩い太陽が大地を照らしている。



「暑いの」



葬狐は眩しそうに太陽を手で遮る。



時期的にも夏だ。



鬱陶しいほどに暑い。





「やっぱりおるやん、辺りを変に封鎖してるからいると思ったで」


「対策庁の残党一人につき、300万。まぁ、割は悪いが簡単な仕事だな」




関西弁の法衣を纏った男、日本刀を構えている筋骨隆々な男。日本刀を持っている男の顔には7つのあざがある。



二人が眼前から此方に向かってきていた。




日本刀を持っている方の男は、刀にベッタリと血がついていた。



辺りを封鎖していた警備員を殺したのだろう。




湊達は一瞬で彼らを敵と認識する。




「おお、妖狐もおるなぁ、ほんま珍しい。生け捕りにして闇市で売り払おか」



法衣の男は、葬狐まじまじと見つめる。



「妖狐ごとき下級のものと同一視するではない」



そう言った葬狐の背後に、二足歩行の獰猛な狼ーーいや、獰猛な狐らしき怪物が姿を現す。


恐らくあれも眷属なのだろう。




「貴方達は形代連盟?」



湊は男達に問いかける。



「まぁ、そうやな。精密に言えば、形代連盟傘下の殺し屋や......お前ら対策庁のせいで肩身が狭かったからなぁ、利害の一致や」



法衣の男はそういうと、彼の背後に体長25メートルはあるだろう木や草、蔦をごちゃ混ぜにしたような人型の化け物が姿を現す。




「何あれ?」



ミナトは前方に現れた得体の知れない化け物に身を半歩後ろ下げる。



「式神じゃ、随分と変わっておるが」


「じゃあ、あいつは陰陽師?」



湊は男に視線を向ける。




「せや、占いでお前らの場所当てたんやで」 


「いつもは外れる占いが偶々当たっただけだがな」



刀の男は、そうツッコミを入れると助走を長けて飛びかかってくる。




狙いは一番前方にいた芹だった。




芹は咄嗟に刀を抜いて、斬撃を防ぐ。




「くっ......!」




凄まじい衝撃が芹を襲う。



「今の斬撃を防いだか。随分と強いガキだ」



芹はすかさず、刀を振り反撃する。



男はその斬撃を容易く防ぎ、横薙ぎを繰り出す。




芹はその攻撃も防ぐが、体格差からか吹き飛ばされてしまう。



「うっ......!」



そのおかげかある程度の距離ができる。




咄嗟に懐から拳銃を取り出して、発砲する。



パァンという炸裂音と共に銃弾が、男に降り注ぐ。




だが、その男は身体中に穴を開けながらも直進してくる。



「そんな、なんで避けなっ」


「死ぬがよい」




芹は攻撃を避けようとするが、ギリギリ間に合いそうにない。




「せりっ!!」



だが、その間に湊が入り込んだ。




「うぐぉ!?」



男はミナトの蹴りを腹にもろにくらい数メートル後方に吹き飛ぶ。



今の一撃で内臓は酷く損傷したはずだ。




「芹、大丈夫?」



湊は芹に問いかける。




「すいません。ご迷惑をおかてして......怪我はありません」



「なら、よかった」




芹は特に怪我をしたわけではなさそうだ。




男達の方に視線を戻す。




「なんという馬鹿力ーー何かの異能か?」



男はむくりと起き上がった。



銃弾で受けた傷が、みるみる再生していく。



そして顔のあざが一つ消えてなくなった。



残りは六つだ。



恐らくあれが異常な回復能力と身体能力に関係しているのだろう。




「なに苦戦しとんねん」


「お前こそ、みてるだけでなく動け」




そうへらへらと笑っている関西弁の男は、「そら、そうやな」と呟くと手をかかげた。




そうすると、背後にいた植物の怪物が無数の蔓を伸ばしてくる。




だが、それは地面から生えてきた無数の手によって掴まれてしまう。



葬狐が、先ほどの腕だけの眷属を召喚したのだ。




「なんや、そのキモい式神。だるいなぁ」


「式神ではない、妾の眷属じゃ」


「まぁ、どうでもええわ、こらくらいでとまらんぞ」




式神の身体から更に無数の蔦を伸ばしてくる。



葬狐の眷属だけでは抑えられそうにない。




だが、その時だった。




レイスの片手の中に小さな火の玉が乗っていた。



「えい」




レイスがそれを軽く投げると、宙をふわふわと漂いながら式神に着弾する。




そうすると、式神の全身が一瞬で燃え上がった。



「な、なんや、なにが起こった!? 空爆か、いやんなアホな!!」



関西弁の男はそれを愕然とした様子で見ていた。



軍側による空爆を想定したが、それにしてはあまりにも早すぎる。



男達の背後に天まで登るような巨大な火柱が出来上がる。




「あ、あつ!?」




辺りに火の粉が飛び散り、関西弁の男に降り注ぐ。



男は咄嗟に燃え上がる式神から距離を取る。




だが、それが命取りになった。




「ほい」




レイスが再び手の中で、火の玉を作り出しており、安易に目の前に飛び出した男に直撃したのだ。




「あぁぁつつつっ!!!!」




男は一瞬で燃え上がり、火だるまになった。




「たっ、た、助け......っ」




男は暫く悶え苦しんでいたが、数秒もすれば動かなくなってしまう。



炎の中に見える、男の黒い影が酷く痛々しい。





「くそっ!!」




不利なことを誘った残りの男が逃げ出そうとする。



だが、その退路には葬狐の二足歩行の眷属が立っていた。




「な、なにっ!?」




眷属は鉤爪を振り下ろす。



男は刀でそれを防ごうとしたが、刀ごと粉砕し男の頭を吹き飛ばした。



「すごいじゃろ、妾のあの獣人は短距離の転移ができるのじゃ」




どうやら、あの眷属は転移とやらができるらしい。




「うっ......」




だが、男は急速に再生して新しい頭が出来上がる。



そこには顔のあざが五つあった。



またしても一つ減っていた。




「あの男、私がとどめを刺してもいいわよね」




レイスはそういうと、ゆっくり男に近づいていく。




「ま、待ってくれ、降参だ、降参する」



男はそういうものの、レイスは構わずゆっくり近づいていく。




「えぇ、どうしましょうか、ねぇ湊?」



レイスは男の前まで近寄っていた。




「戦う意志がないなら、拘束して連れて行こう」


「あら、優しい」




戦闘する意思を喪失したのなら、殺してしまうのは少し残酷な気がする。




「馬鹿め、武器を失ったと思って油断したな!」




だが、男はそう叫んで懐から隠し待っていたナイフを抜いた。



それは湊に視線を向けていたレイスの心臓を突き刺した。




「魔術師め、死んでしまえ」




男はレイスを殺したーーそう思っていたようだった。




「随分と手癖が悪いのね」



「な、なに!?」




だが、レイスは平然とした様子で胸に刺さったナイフを抜いて男の身体に触れる。





「う、うぐあぁぁぁ!!!?」



その瞬間、男の全身が燃え上がった。




「い、あ、熱い、く、くそ!?」




男は悶え苦しみながらも、火を消そうと辺りを転がり回る。



「貴方、致死量の攻撃を受けるたびに顔のあざが減っていたわよね。それ、そういう能力なんでしょ? あざを消費する代わりに身体を回復させるーーなら死ぬまで燃えていればいいわ」



「う、おおっ......!」




だが、男は最後の抵抗と言わんばかりにレイスに抱きついた。



レイスの身体にも火が燃え移り、彼女も燃え始める



「れ、レイス!?」




湊が心配して駆けつけようとするが、レイスはそれを手で遮る。



「大丈夫よ。このくらいなら、魔力を変換して肉体を蘇生すれば、死ぬ事はないわ」




レイスが心臓を刺されて平然としていたのは、そういうカラクリがあったようだ。




それどころかレイスは、抱きついてきた男を抱き返した。



「刺される痛みも燃える痛みも随分と慣れてるから怖くないの、せっかくなら一緒に燃え上がりましょうか」



レイスはそう言って狂気的な笑みを浮かべていた。



「狂人じゃな、やはり西洋の妖術師は頭がおかしいのじゃ」



それを見ていた葬狐は呆れたようにぼやいた。




結局、男が燃えて消し炭になるまでレイスは男と抱き合っていた。



やがて、男が消し炭になり動かなくなると、レイスはそれを乱雑に払い除ける。



結局、そこには無傷のレイスが立っていた胸あたりを刺された傷も無くなっていた。


 

「服が焼けてなくなってしまったわ。なにが着れるものを貸してほしいだけど」



レイスは、まるで何事もなかったかのように、そう語りかけてくる。



「私のでよければ、使ってください」



セリはそう言って、羽織っていた上着をレイスに渡す。



というか、こんな熱い時期に渡せるような服を身につけているのは、セリくらいだが。


「ありがとね、助かったわ」


「いえ、お構いなくーーそれよりも素晴らしい魔法でした」


「そうでしょ、私結構強いのよ」




どこか芹は、レイスに感服しているようだった。



確かにレイスの魔法ーーあるいは妖術、魔術は素晴らしいものだった。




だが、同時にこの四人の中で、一番ヤバいのは間違いなくレイス。


湊はそう確信した。


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