都市伝説の霊-2
「ダァれ、ワラシの、身体切っタの」
一花様は歪んだ声を発しながら此方に歩んでくる。
間違いないーー今まで遭遇した霊体の中で、一番強いだろう。
溢れ出る霊力が並大抵ではない。
「こっちに来てるみたい......」
何故だろう。
足が勝手にすくんでしまう。
今まで、幽霊が怖いなんて思った事なかったのに。
「そりゃそうじゃろう。相手さんも殺意マシマシじゃしの」
葬狐はそういうと手を合わせる。
彼女の背後に、半透明の三つ首の狐が現れる。
その狐は巨大で、ヒグマくらいの大きさがある。
「妾の眷属じゃ。久しぶりに骨がありそうじゃ」
葬狐は、どこか嬉々としている。
「日本の幽霊って怖い見た目しているわね」
レイスはあまり緊張していない様子で、一花様を前に平然としている。
すると、レイスの背後に光の槍が何本も姿を現す。
「本当は、炎で焼き払ってしまいたいけど、トンネル内だしこれで我慢しておくわ」
レイスはそう言った。
まるで大した敵が相手ではないように。
次の瞬間、一花様は駆け出した。
まるで物理法則を無視するかのように、一歩で十歩分の距離を詰めてくる。
「は、はやっ!?」
湊は咄嗟に半霊化して、迫ってくる一花様の顔面に拳を放った。
顔面に攻撃が直撃した一花様は、勢いを殺されてのけぞった。
「痛っイ、許さナい、許サっない!」
並大抵の霊体なら今の一撃で沈む。
しかし、さすが都市伝説級の幽霊だ。
顔面が陥没した程度で、まだ戦闘の意思が見受けられる。
「い、いたっ......!」
首から血液が滴り落ちる。
かすり傷だが、タイミングが一歩遅ければ首を落とされていただろう。
「人間二人はさがっておれ」
そう言って、湊と芹を庇うように前に出たのは葬狐だ。
「悪霊よ。この神たる妾が敵に回った事が運の尽きじゃ」
葬狐そういうと三つ首狐が、一花様に襲いかかる。
だが、それと同時に狐の一つの首が宙を舞う。
動きが異常なほど早く、どのように動いているのか分からない。
残った二つの首で、一花様の両腕を噛みちぎる。
だがその瞬間、三つ首狐の身体が上下に切断される。
手がなくてもーー何かしらであの斬撃が放てるようだ。
切断された三つ首狐は、霧になって消滅していく。
「厄介な......この妾の眷属を滅するとは」
葬狐がそう言い、手を掲げると無数の手が地面から突き出して、一花様を拘束する。
「見よ。これが妾第二の眷属、手だけお化けじゃ」
(そのネーミングセンスはなに?)
とドヤ顔でそう言った葬狐を横目に、特大の疑問符が脳内に浮かんだ。
「イヤァァァぁあ!!」
一花様が奇声を上げると、彼女の口の中から男性のものと思われる腕が飛び出して、葬狐を襲う。
だが、湊は前に駆け出して、腕を蹴りつける。
重たいものを蹴り飛ばしたような痛みが足を襲う。
伸びてきた剛腕もぐりゃりと折れ曲がり、一花様の口の中に戻っていく。
やはり、普通の霊体より強度が段違いだ。タイマンで勝てる気がしない。
「おお、あれしきで妾は死なぬというのに」
「私だって、見てるだけじゃつまらないからね」
まさか、自分より強い霊体がいるなんて思ってもいなかった。
所詮は地方の田舎で、名もつかない霊体を狩り続けていた井の中の蛙にすぎなかった。
だからこそ、戦いに協力しなければ気が済まない。
見てるだけなんて嫌だーーそう思ってしまった。
「あら、だったら私もみてるわけにはいかないわね」
レイスはそういうと、周囲に展開していた光の槍が、一花様に向かって射出される。
光槍は凄まじい速度で一花様の頭部に全発命中する。
「ガァイぃぃ」
それは一花様の頭部を半分ほど吹き飛ばした。
「イぃゃ」
短い断末魔を上げ、一花様はその場に倒れ伏せる。
身体をぴくぴくと痙攣させていたところを、湊が足で思っきり踏み潰す。
一花様の残った頭部を粉砕し、彼女は完全に動かなくなる。
「まぁ、死んだじゃろ。死ぬが適切な表現とは言い難いがの」
葬狐がそう言ったと同時だろうか。
一花様の身体は、段々と霧になり消滅していく。
「倒せたみたい......」
間違いなく、これで消滅したはずだ。
「やりましたね。大した活躍もせずに申し訳ないです」
芹はそう言って頭を下げた。
「いや、最初に動死体を処理してくれたのはセリだしそんなことはないよ」
「そうでしょうか......」
そう首を傾げる。
芹は充分活躍したと思うし、二人も文句はないはずだ。
「っ......!?」
その時だ。
湊の口から血が溢れてくる。
手で押さえるが、隙間から溢れて地面にポツポツと血液が落ちる。
半霊化能力を使うといつもこうだ。
こればかりはどうもなれない。
「吐血してるけど大丈夫なの?」
そう声をかけてくれたのはレイスだ。
「能力を使った反動でこうなっちゃう。次の日には全快してるから大したことは無いんだけど」
実際次の日には、痛みも何もなくなっているので本人は気がしていない。
「お主」
今度は、それをみていたソウコが声をかけてくる。
「力の制御がまるでなっていないようじゃ」
「力の制御?」
「恐らくだが、際限なく力を解き放ってある状態じゃ。消費するエネルギーを必要最低限に抑える訓練もすれば、血を吐くこともなければ力もより強くなる......」
湊は葬狐の話しに深い興味を覚える。
「そんな事ができるの?」
「ああ、お主をみていて思ったが、無駄に霊力を解き放っておる。正しい力の使い方を教えてくれるものはおらんかったのか?」
確かに湊の身内に、半霊化能力の使い方など知るものがいなかった。
湊の能力はイレギュラーな部類で、前例がなかった。だから、独学で力の使い方を理解するしかなかった。
「制御がうまくできていれば、あの悪霊くらい倒せるくらいにはなるはずじゃ」
「それってどうやったら制御できるの?」
「言葉ではちと難しいの。力を発揮しながらも、力を抜く、そして気持ちの平穏と後は感覚とセンス......折角なら妾が教えてやろうか」
湊はその発言に目を輝かせる。
「是非お願いしてもいい!?」
「よかろう。まともに制御できるくらいにはしてやろうに」
この半霊化能力の欠点は、持続力のなさだ。
それが補て、さらに力も今まで以上に向上するというなら、飛びつくのも無理はない。
「まぁ、帰ったら教えてやろうに。ともかくもう眠い早く戻ろうぞ」
「そうね。早く帰りたいのは同感だわ」
こうして四人はトンネルを出ることにした。
ともかく、この半霊能力の持続力を向上できるのは大きい。
訓練とやらをするのを、少し楽しみに感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます