前哨戦
樹海某所。
日本屈指の鬱蒼とした大森林。
その奥に巨大な地下施設がある。
分厚いコンクリートの壁に囲まれ、国防軍の爆撃に耐える為、地下深くに作られた。
周辺には自殺者の霊体が徘徊しており、徒歩での進軍を拒んでいる。
この鉄壁の要塞を本拠地とする秘密結社ーー形代連盟。
異形物対策庁が結成される前より、日本各地に跋扈していた小規模超常組織の連合体だ。
この地下施設の会議室に代表者12名の姿があった。
「前哨戦は我々の大勝だ。日本の超常戦力の半減に成功した」
そう口を開いたのは和装の老人だ。
「これもかれも、霊魂を司る神を喰らった
そう言い放ったのは、初老の女だ。
彼女の視線の先には、背広を纏った青年がいた。
「だが、これで俺の支配している悪霊どもは殆ど消えてなくなった。後は知らんぞ」
浅田と呼ばれた男は、そう言い捨てる。
「そんなもの直ぐに補充が効くだろうにーーまぁ、それまでの間は大きくは動けんかもな」
形代連盟は正直言って国家相手に戦えるほどの戦力はない。
あれらと戦うには相応の工夫と、極大の運が必要となる。
「対策庁及び関係者、死者行方不明者数四千名弱、向こうも直ぐには立て直せまい」
「だが、国防軍が出張ってきた。奴らと正面から戦うのは分が悪いな」
「それゆえに我々のヤサは多くは隠蔽してあるのだ」
などと今後の方針を話し合っている。
「既に我々傘下の組織が四つほど壊滅させられている、やはり国防軍を敵に回すべきではない」
そう言い放ったのは、筋骨隆々の大男だ。
彼は
「敗北主義者か? たかが末端組織が幾つか潰された程度で狼狽えおって」
「そうだぞ、負けることなど考えるな」
彼の発言に反発する声が上がる。
「まだ開戦して1週間だ。これから被害は数えきれなくなる。やがて離反する者たちも現れる。悠長に話す時間などない、もっと迅速に打撃を与えるしかない!!」
確かに宮金の言う通りだ。
形代連盟が国家転覆を狙う唯一のチャンス。
それは短期間で圧倒的な打撃を与えて国家機関を麻痺させて乗っ取る事くらいだ。
「問題はない、我々には増援のあてがある。欧州を震撼させた吸血鬼の一族が全面的に味方してくれると言うのだぞ!」
その発言に、この会議を後方で聞いていた二人の吸血鬼に視線が向く。
リタとリアスだ。
彼女たちは最上位に分類される吸血鬼で、あの真祖の眷属だ。
どちらも伝説や伝承で語られるレベルの強者だ。
「やっほー」と気さくに手を振るリアスと、リタは対処的に冷めた顔で暇そうにしていた。
「おれらは利益で繋がっている関係だ。そう期待しないでくれると嬉しいんだけどな」
「ユキノちゃんの命令できてるだけだからねぇ」
と、全くこの会議には興味なさそうな雰囲気だ。
「それでお前達は増援をよこしてくれるのか?」
そう二人に問いかける。
「近日にユキノ様、その他何人かの幹部連中が来るさ」
「炎狼のエリンシュは来ないのか?」
「極東の島国にそこまで兵力は集中できない......おれ達の本拠地はヨーロッパだ。極東に派遣できるのはこんくらいが限度だ」
リタとリアスが所属する組織ーー"首無し"は東欧の大部分の裏世界を制圧しつつある。
とはいえ、ケルン聖会をはじめ超常宗教組織や他団体と抗争状態にあり、日本決戦に全力を投じ得ないのだ。
「しかし貴方方の主人が日本人とはな、それまた驚いた」
宮金がそう言った。
「おれ達もユキノ様の過去話なんて殆ど知らない、ただ日本人なのは分かる。なんで海を渡った先で吸血鬼になったかなんて知らないし、聞けるわけもない」
リタ達の主人は過去の話を殆どしない。
故に聞いては行けない雰囲気というのを薄々感じているのだ。
「ともかく、次は政府の公的機関に全力攻勢を仕掛ける。国防省、内務省、外務省、国会議事堂あたりだ。狙いは霊体による第二次攻撃の時間稼ぎ......」
少なからずこれらに打撃を与えれば、多少なりの損害は必ず出る。
「国防省への奇襲は宮金を主力にし、柊家の陰陽師を数人派遣したいと思っている。構わないな?」
それを聞いた宮金は首を縦に振る。
「構わないさ、適当に殺しまわればいいのだな?」
「勿論それで構わない。特に対策庁の生き残りを優先的に、奴らは少しばかり面倒だ」
「わかっている」
最優先目的は敵の弱体化だ。
殲滅ではない。
「吸血鬼のお二人方は協力してくれないのかね?」
リタとリアスはそう問いかけられる。
「ユキノ様からの命令でない限りおれ達は動かない」
「そうだねー。余計な事はなるべくするなって言われてるし」
二人は他人事のようにそう言ってみせた。
「でも日本で量産した眷属達なら使っていいよ!」
リアスはそういう。
とりわけ彼女は吸血鬼由来の能力に長けている。
日本で、彼女が作り出した吸血鬼は既に100人を超えている。
「じゃあ、襲撃箇所にそれぞれ20人ずつ送り込むよ、それでいい? まぁ期待はしないでね、全員雑魚吸血鬼だからさ」
下級でも吸血鬼は吸血鬼だ。それなりに役に立つだろう。
特殊能力が無くても、こちらには密輸した銃火器が余るほどある。
彼らにそれを装備させれば、かなり強力だ。
「ではリアス殿、ぜひお願いする」
「りょーかいっ」
リアスはそう軽いノリで返す。
かくして、第二次奇襲作戦が決行される事になった。
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