転落-2




「みんな、きをつけっ......!?」



ミナトは辺りを見渡す。



凄まじい勢いで崩落した壁の破片が周囲に飛び散っていた。



特に白和と伊上が居た場所は霊体に踏み潰されている。



霊体のいる瓦礫の下からは赤い血が滲む。




「うっ......いたっ!?」



燕は片足を瓦礫に挟まれていた。



「うっ、くっっ」



東雲の顔あたりに鉄骨の欠片が突き刺さっており、頭を中心に血溜まりができていた。





「っ......!?」




湊は咄嗟に身体を半霊化させる。




「アァ!!」



霊体は未だに無傷の湊を絞殺しようと両手を伸ばす。




湊はその隙間を掻い潜って、霊体を蹴り上げる。





「ヤァァァァァァ!!」




首のない赤子のような霊体の身体に風穴が開く。



それでも、尚動こうとする霊体に何度も蹴りを打ち込む。




数発の蹴りを喰らわせると、霊体はぴくりとも動かなくなり、霧になって消えていく。






「大丈夫ですか!?」




湊は自身の身丈ほどはある瓦礫を払いのけて、白和と伊上を掘り起こす。





「......うそ」




しかし二人にもう息はなかった。



頭や胴体がぐちゃぐちゃに潰れており、おそらく生きてる見込みがない。




「っ......」




その時だ。



東雲がゆっくりと身体を起こす。



右目に刺さった鉄骨の破片を引き抜く。



赤い血液がとばとばと溢れ出す。



誰がどう見ても、東雲の右目は失明しているのは明白だ。





「な、なんでっ......」



二人の死体によろよろと近寄って、近くで倒れる。




「う、うそ、し、死んでるの?」




東雲の震える声が、部屋に響きた渡る。



二人からの返答は永遠にない。



東雲の残った方の左目から涙が溢れる。



「ねぇ......何があったの」



「霊の襲撃です......襲撃を受けました」




霊体を感知できない東雲にとっては何が起きているのか全く分からないのだろう。




それを聞いて放心状態の東雲を横目に、燕も元へと駆け寄る。



湊は燕の足を潰していた瓦礫を払いのける。




燕の足は酷い有様だった。


足の腱周りの肉がぐっさりと抉れていた。



「足が動かないっ......痛い痛いっ」



燕はそう悶え苦しんでいる。


もしかしたら、燕の足も歩行不能レベルの重傷かもしれない。




不味い。



自分以外が、とてもじゃないが動ける状態じゃない。



 


「空イタ空イタ」




その時だ。




干からびた老人のような霊体が姿を現す。



「オ、弁当ッ」



霊体はこちらを視認すると、一直線に襲いかかってくる。




湊は再び肉体を半霊化させ、霊体を殴りつける。




湊の規格外の殴打を喰らった、霊体は頭を吹き飛ばされ消滅する。




「ここは危ない、また霊体に襲撃された!!」




と言うものの、まともに動ける人間は自分以外いない。




だが、それを聞いて東雲が立ち上がったのだ。



頬を伝う涙を拭うと、よろよろとおぼつかない足取りで、燕を抱き上げる。




「とりあえず、外まで逃げないとね......」



「......ふ、二人はっ シノノメ、ねぇ?」




燕の問いに、東雲は暫く返答ができなかった。




「二人は、もう駄目だよ......」


「そ、そんなっ」



燕は、二人の死骸へと腕を伸ばすが、ゆっくりと東雲がその場を離れる。



「ナグモちゃん、セリちゃんのこと助けにいってあげて......」


「わかった、シノノメさんも気をつけて」


「大丈夫、このくらいの怪我大した事ないから」




東雲はそう言うが、どう考えても大したことがないわけなどない。



だが、それでも彼女は燕を抱きかかえて外へと一直線に向かっていく。




東雲達の姿が見えなくなった瞬間だ。



湊の鼻から血が垂れてくる。



(これ身体持つかなーーいや、持たせて見せる)




どうせ半霊化の反動は1、日休めば完治する程度のダメージだ。


問題はないだろう。



湊は、芹がいるであろう自室の方へと向かっていった。

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