復帰-2


芹は、国防省内の診察室で精密検査を受けていた。



「セリさん」



妙齢の女医が芹に話しかける。




「貴方の体、酷い有様なんだけど。身体中綺麗なところを探すのも難しかったわ」


「そうですか、知っております」




芹は淡々と答える。



「内臓のダメージも非常に危険。幾つかの臓器は機能不全に陥ってるし......なんでこんな身体がボロボロなの? 事情なんて全く知らないけども」


「さぁ、なんででしょう」



芹はのらりくらりと回答をはぶくらかすだけだ。




「それに......貴方、目あんまり見えてないでしょ」



それを聞いた芹はハッとした表情を浮かべる。




度重なる身体への高負荷のせいか、視力が異常に低下していた。



遠目では輪郭しか見えないし、近距離でもぶっちゃけよく見えない。



「心不全、不整脈、低体温症......その年齢でこんな酷い身体見たことない」



確かに芹の身体はガタがきている。


そんなの本人が一番わかっている。




「眼鏡を作りましょう。裸眼だと大変でしょう」


「そうでしょうか。なんとかなっていたのですが......」



視界がぼやけていても、なんと無くで把握はできる。


そこまで、問題はないと思っていた。


 


「いや、普通になんとかならないから」



そういうと、女医は懐から数種類の薬が入った袋を渡してくる。



「また、追加の薬ですか?」



毎日検査を繰り返すたびに、怒鳴られては処方箋が増えていく。




「そうよ。これは朝と夜、これは食後に毎回、これは夕食の後に一錠ね」



女医はそう薬の説明を始める。




(めんどくさい......)




芹は内心そう思ってしまう。


どうせ、飲まなかったところでそう簡単に死なない身体なのに。




「貴方の治療に最低限必要な薬の量。なんでこうも沢山処方しないといけないのやら」



女医は深いため息を吐く。



「腕の血管潰れてて注射できないし......」


「痛み止めの打ちすぎでそうなってしまいました」


「痛み止めって......それ絶対違法な奴だからね」




上層部から、痛み止めと称した薬品と注射器を貰う事がよくあった。



恐らく、芹に対する嫌がらせで送られたものなのだろうが、特に気にせず使っていた。



使うと頭がふわふわして、何処か幸せな気分になれる。多分まともな痛み止めではない。




この話をした時、女医は何故か、激怒して平手打ちをしてきた。



痛みには耐性はあるが、急に暴力を振るわれると少し傷つく。




「ともかく依存症の診断もやらないとね。後は栄養のあるものは毎日食べてる? あれなら部屋に食事を持ってくるように......っ」


「カップラーメンなら毎日食べてます」


「馬鹿かっ」




そう答えた芹は頭を軽く叩かれる。




「なんでカップラーメンなのよ。食堂に行けば、健康的な食事がタダで食べれるのに!」


「動くのが面倒で......」



そう言ったが動くの以上に、食べるのがめんどくさいーーと言うよりは辛い。



一つのカップ麺を1日に分けて、やっと食べるくらいには食欲が湧かないのだ。




「毎日、別な病室に出かけてるくらいなんだからそんなわけあるか」



目を覚さない湊の元へ毎日通ってはいる。


なんだか、毎日様子を見に行かないと不安になる。




「兎に角、部屋まで食事を持って行くようにするから、食べれる範囲で、必ず食べてね」


「わかりました。努力はします」


「努力じゃ無くて、やれ」



これから無理にでも食事を取る羽目になりそうだ。




「また明日も診察やるから来てね。あとカウンセリングも受けて貰わないと.....薬はちゃんと飲むのよ?.」


「わかりました。そうさせてもらいます」




芹はそう言って、診察室を後にした。






ここ1週間毎日これの繰り返しだ。




どうやら先の襲撃で上層部は全滅したらしい。



そのおかげか人間らしい扱いをしてもらえるようになった。





今更全部遅いなのに。



こんな終わっている人生どうにもならない。




だから何にも思わない。何にも考えたくない。

  

  

診察が終われば、湊の様子を見に行く。




それが日課になっていた。






なんでこんな湊に対して、謎の執着心があるのだろう。


よくわからない。





芹は湊のいる病室へととぼとぼと向かう。



いつも眠っている湊を一目見て、東雲に喋りかけられるまでが概ねの流れだ。




病室の扉を開けると、そこには湊のいないベットがあった。



いつも眠っているのにいない。




「......セリ?」



その時だ。



カーテンを開けて、湊が姿を現す。



「ミ......ナト、起きてる」




この1週間の変わり映えしない生活が、少し変わった。

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