復帰



湊が目を覚ますと、知らない天井が目に映る。


辺りを見渡してみると、ベットに横たわっているようだ。



腕にはいくつかの針が刺されており、点滴をさせられていた。



「いたっ」



身体を起こそうとすると、胸元に激痛が走る、肋骨は折れていたみたいだ。





「やっと目を覚ましたの。1週間も寝てたから不安だったよ」




隣のカーテンが開けられる。



そこにいたのは、東雲だ。



眼帯をつけており、身体中に包帯が巻かれていた。



「シノノメさん、その怪我......それに私1週間も? それにここは?」



「吸血鬼と交戦した。結果はこんなザマ......肉はグサグサ、骨はバキボキ、内臓はボロボロ。死んでないのが奇跡だよ」



東雲はそう言い、苦笑を浮かべる。



無理やり貼り付けたかのような、作り笑いだ。



「それとここは国防省内の医療施設だよ。対策庁は壊滅状態で、国防省に残党が合併された扱いになったみたい」



「他の人達はどうなったんですか?」



「イガミとシラワは死んだ。セリちゃんは無事、ツバメは足に障害が残った......」



そう語る東雲の表情は辛いものだった。



それを聞いた湊は身体を無理やり起こす。



腕に刺さった注射針を無理やり引き抜く。




「ツバメとセリはどこにいるの? 様子を確認したい」


「ツバメは隣の部屋、セリちゃんは別棟にいると思うよ。動いて大丈夫なの?」




体は痛むし、ところどころ痺れや感覚がなかったりするが、動けなくはない。




「大丈夫、それより二人が心配......」



湊は部屋を飛び出て、隣の部屋へと向かう。




「おぉー、ミナトちゃん。起きたんだ」



部屋に入ると、ベットの上から燕が手を振ってくる。




「ツバメ......」




湊は燕にかかる言葉を詰まってしまう。



「ははっ、私の右足もうダメみたい」




燕の乾いた笑い声が嫌に耳に残る。



彼女の足には包帯が巻かれていた。




「ツバメ......あの、そのっ」



「この仕事はもう辞めないとねー、退職金もらって個人で霊媒師やってこうかなっーって」



そう言葉を重ねるごとに、だんだんと燕の声が震えを帯びていく。




「別にお祓いくらい、足が動かなく無くてもねぇ。それに左足無事だし、松葉杖使えば余裕で歩けるし......歩ける......し」




その瞬間だ。



燕の頬に大粒の涙が伝う。



「だめだな......自分を説得させようとしたらまた辛くなっちゃって。イガミさんとシラワも死んじゃって。嫌だよ......自分の足で歩きたいよ......これからずっとこんな身体なんて嫌だよぉ」




そう言って燕はわんわんと泣き出してしまう。



それはそうもなる。



まだ若いのに一生足が動かないというのはショックだろうし、同僚が二人も死んでいるのだ。







「私もシノノメさんもそばに居る。不自由な事は手伝うから......元気を出してなんて言えないけどさ、側にはいるからさ」



その言葉を聞いた燕は、泣きながらも言葉を発する。



「私、実家から嫌われてて......出来損ないだって......学校で気色悪い一族の子供っていじめられてっ」




霊能者の家系の人間が、一般人から嫌われるのはよくある事だ。



霊の存在を知らない人間が見れば、オカルト的な事を盲信する狂人。変人。詐欺師。なんて思われる。



湊も親しい友人がいたとは言え、それなりの風評被害にはあってきた。


それで苦しんで自殺する霊能家系の子供は多いと聞く。




「それで対策庁に就職して......やっと見つけたんだっ、居ても良いんだって思える場所っ、私をなんとも思わない人達っ、と、友達も、先輩も......みんな無くなっちゃった」




同じ爪弾きにされる側の人間として、燕の気持ちには共感できる。




「......ミナトっ、私がこの仕事辞めても、友達でいて、一人は嫌なのっ」




燕はそう泣きついてくる。



「当たり前でしょ、ツバメを見捨てたりなんてしない。それに、これからも東京のこと教えて貰わないと困る」



それを聞いた燕は、湊に抱きついて声を殺して泣いていた。 




「お取り込み中だった?」



その時だ。背後から声をかけられる。



振り向くと、扉の先に東雲がいた。



ボロボロの身体を無理やり起こして、壁を体の支えにしてここまできたようだ。




「帰る家ないんだったら、私の家に来ない? 一人暮らしでは前々から狭いと思っててさ、燕が嫌じゃなきゃだけど、ね?」




どうやら東雲はある程度、燕の事情は理解していたようだ。



「シノノメぇ一緒に住もうっ、この足じゃ一人暮らしはむりだよぉ」



燕は泣きじゃくりながらもで、返答する。



「言うの遅くなってごめんね。言い出し辛くてさ......私なんかで良ければ、一緒に住もうかなって」


「シノノメが言い出してくれないから、一人で生活しないとって思ってた。辞めたらもう関わってくれないと思った」


「流石にそこまで薄情じゃないよ」



燕は大分落ち着いて、段々と泣き止んできた。



「もう大丈夫......」



燕の声を聞いて、ゆっくりと抱擁する手を離す。



後は芹のことだけだ。彼女も随分と重症だった。


この後様子を見に行こう。




「それでシノノメさん、一体なんで霊達があんな大量に?」



「まぁ、話すと長くなるよ。あとあと詳しい説明あると思うからそっちから聞いてもらうと助かるな」




一体あの襲撃はなんだったのだろうか。



あの吸血鬼が主犯なのだろうか、それとも別な何かなのだろうか。




湊には想像もつかなかった。

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