異形の霊群



対策庁の一本道の廊下。



ところどころに転がる惨殺死体。




「あっ、ひ、ひぃぃ!!」



一人の男が、廊下を逃げ惑っていた。



鉈を持った白装束の首のない霊体が男を追い回していた。




霊体の移動速度は、男以上に早くやがては捕まってしまうだろう。



男と霊体の距離が数センチまで近づいた瞬間。





霊体の身体がバラバラになり吹き飛んだ。




「な、なんだっ!?」




男は背後を見ると、そこには一人の少女が立っていた。



「あんた、霊能者か!?」


「えっと、霊体は外までは追ってこないみたいなんで外に避難してください」




少女ーー湊はそういうと、返答もせずにかけていってしまった。



湊には時間がない。



体力が続くうちにできるだけ多くの霊体を処理しないといけない。



微かなに感じる霊の気配を頼りに、一直線に進んでいると、異様に首が長い女の霊体と、常人の数倍はあるだろう体躯の日本人形の霊体が姿を現す。




湊の存在を視認した2体の霊体は、こっちに襲いかかってくる。




湊は襲いかかってきた日本人形に回し蹴りを喰らわせる。



真っ二つに折れて、霧になって消えていく。



「ァァァァァ」




もう一体の首長女が飛びついてくるが、湊は素手で掴んで捻り伏せる。



そのまま首長女に拳をねじ込んで、撃破する。




「これで7体目......ごほっ」



その瞬間、口から大量の血液が溢れ出した。



もう身体は限界に近い。



だが、まだまだ霊の気配はあちこちから漂っている。



せめてもう一体だけでも倒してしまいたい。




限界が近づく身体に鞭打って、前に進もうとする。




そのときだ。




湊の目の前に、頭が鐘の形に変形した少年が立っていた。




「霊体?」



少なからず人間ではないだろうし、霊気を放っていた。



恐らくは霊体だろう。




湊が駆除しようと思い立った瞬間。







      ジリリリリリ!!!






頭の鐘がけたたましい音を鳴らして、震え出したのだ。



「うるさっ」




鼓膜を突き破るような、騒音に思わず、頭に蹴りを繰り出してしまう。




意外と耐久力は低いのか、身体は宙に四散して霧となり消えていく。





だが、壁や床をすり抜けて何体もの霊体が現れる。




「こいつ、今ので呼び寄せた!?」




恐らくはあの音のせいだ。



音で霊体を呼び寄せたのだろう。





出現した二体の霊体を、すかさず粉砕する。




「痛っ!!!?」




だが、背後から思い切り殴りつけられ湊は壁に激突する。




湊の背後には、筋骨隆々の顔のない人形霊体が立っていた。




肋骨あたりに激痛が走る。



今ので骨が折れた。



半霊状態では、霊体からの攻撃を無効化できない。




「うぐっ!!?」




湊は壁からすり抜けてきた枝のように細い腕に首を絞められる。



うっすらとした腕からは想像できない怪力で、ギチギチと音を立てている。




湊は、その腕を強引に引きちぎりると、前面にいた顔なし霊体を蹴り上げる。




腹部に風穴を開けた霊体はその場に倒れ、霧になっていく。




背後を振り向いて見れば、十体以上もの霊体がこちらに向かってきている。




「流石に捌ききれないっ......!」




あの数の霊体と乱戦になれば、単独の湊には絶対な隙が生まれる。



そうなれば、湊言えど無事では済まない。



というよりは死ぬ可能性が高い。





その場から湊は逃走しようとするが、突然身体の力抜ける。




立てない。とてもじゃないが立っていられない。




急激に意識が混濁し、その場に倒れ込んでしまう。




「ごほっ...ごほっ、ごほ」




激しく咳き込むと同時に、凄まじい量の血を吐き出してしまう。



身体が痺れて力が入らない。視界がだんだん暗くなる。




「能力......使いすぎた」




半霊化の使いすぎだろう。



身体が限界を迎えたのだ。




指先一つ動かない。




(あぁ、死んだ、これ。まだやりたい事沢山あるのにな)




霊体の群れはすぐ目の前に迫ってきている。



きっと弄ばれて殺されるのだ。



普通に死ぬのより何倍も辛い。



あいつら悪霊の手口はよく知っているからわかる。





だが。




その時だ。




湊の脇を何が通り過ぎていった。




早い。



何が何だかわからなかった。





次の瞬間、前方から迫ってきている霊体達は身体を細切りに切り刻まれ、消滅する。




(なにがあったの?)




湊は視認できなかった。



ただ一つ、湊の視線の先にはある青年が立っていた。




「ありがとう、霊を一箇所に集めてくれて。助かった」



男は身の丈ほどもある鎌を持っていた。



漆黒の背広を纏ったその姿は、まるで死神のように見えた。



「俺は袴田京之助ハカマダキョウノスケ、対策庁の人間だ。全部片付いたら助けてやる......それまで持ち堪えてろ」




ハカマダと名乗った男がそう言った瞬間、辺りからまた数十体の霊体達が溢れ出てくる。



彼の姿がまた消える。



次の瞬間、霊体の身体が粉々に粉砕られる。



また一体、もう一体と次々と切り刻まれていく。




(消えてる? 違うーー高速で移動しているの?)



目を凝らしてみると、あちこちに残影らしきものが見える。



かなりの高速で動き回っているのだ。




その動きに翻弄されて、霊達は何もできないまま消滅させられる。




「うっ、もうむり、かも......」



その光景を見ながらも、強烈な眠気に襲われる。



次は目覚めないかもなーーそんなことを思いながら、睡魔に抗えずと遠くなって行った。

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