上位吸血鬼
異形物対策庁。
その地下倉庫には、幾つもの呪いの道具や、禁書、その他世間には公表できないアーティファクトが大量に眠っている。
だが、その地下倉庫は今真っ赤に染め上がっていた。
何人もの銃器で武装した人間の死体の山が出来上がっていた。
「嘘だろ......完全武装の連中を一人でっ」
最後の生き残りの男は、尻餅をついて後ずさる。
地下倉庫の分厚い鉄扉を素手で粉砕して侵入してきたリタを排除するため、完全武装のエージェントが攻撃を開始した。
だが、結果はこの有様だ。
一人の生き残りを除いて他は皆殺しにされてしまった。
圧倒的な戦闘能力だ。人間が勝てるわけがない相手。
「言っても人間の集まり......」
そうぼやいたリタの腕には、真っ黒な小さな箱が握られていた。
これがリタ達が欲していた呪物だ。
「た、助けて、ころ、殺さないで!!」
男は後退りながらも、命ごいをする。
だが、次の瞬間。
血液で造られた槍が、男の頭部を貫いた。
リタを殲滅するために相対した対策庁が誇る精鋭部隊は一方的に殲滅された。
「これならまだ欧州の宗教屋の方がよっぽど強かった......」
国営の異形達への対策期間と聞いて身構えてはいたのだが、とんだ予想はずれだ。
目的の品であるこの箱も余裕で回収できた。
後はリアスと合流して撤退するだけ。
そう思っていた時だった。
発砲音と共に、リタの心臓と額を銃弾が貫いた。
攻撃を受けた方向に目を合わせる。
そこには、女がいた。
拳銃と短機関銃、日本刀らしき刀を思っている女だ。
片目に包帯を巻いており、赤い血が滲み出ていた。
「お前が主犯か?」
女ーー東雲はそう声をかけてくる。
「主犯......ではない。ただの火事場泥棒だ、見逃してくれるならもう帰るさ」
リタがそう言ったと同時に、額と胸から銃弾が排出される。
傷口は殆ど回復していた。
「その口ぶり、何が知っている? 聞かせろ......動けないようにした後からゆっくり聞いてやる」
東雲は鬼のような形相で迫ってくる。
「怖いな」
リタはそう苦笑を浮かべた。
「その気なら、こっちもやらせてもらう」
そう言ったリタも臨戦体制に入る。
腕あたりを爪で傷つける。
流れ出た血液は、そう時間もかからずに剣の形になる。
血剣をもったリタは、地面を蹴り上げる。
東雲はそれに的確に銃弾を放ってくる。
リタの身体能力を持ってすれば、銃弾くらいならいくらでも避けれる。
勿論、銃弾程度の傷では致命傷にもなりはしないが、一応体力は温存しておきたい。
リタは高速で接近しながらも、全ての銃弾いなしたと思っていた。
だが、5発。
実に半分程度の弾丸が、リタの身体を貫いていた。
狙いはバラバラで、足や横腹を抉っていく。
恐らくは、東雲の狙った位置には当たってはいない。
(こいつの攻撃、避けづらい。なんで......?)
本来は全て交わさていなければ行けない攻撃だ。
それなのに、この女の攻撃は嫌なほど避けにくいのだ。
だが、攻撃を喰らいながらも東雲の眼前まで辿り着く。
それと同時に振り下ろされる血剣。
東雲は大きく身体をのけぞられて、間一髪で攻撃を避ける。
(普通の人間が、おれの攻撃を避けた?)
この女の身体能力は普通ではない。
怪物の領域だ。
東雲はそのまま、腹部に蹴りを入れてくる。
「うっ」
体制を崩して後方に吹き飛ぶ。
そのまま何事もなかったかのようにリタは立ち上がった。
(蹴りの力も人並み外れてる......少し面白い)
リタはにんまりとした笑みを浮かべると、腰を少し下げて、獲物を追うような獣の目つきになる。
リタは再び地面を蹴り上げて、速度を早める。
それと同時に、東雲の射撃が始まる。
床や天井を蹴り上げて、より弾道を交わしやすくする。
それでも2発の銃弾がリタの身体を貫いた。
「なんでこれでも当たるんだよ。人のできる技じゃないだろ」
そう言い捨てたリタの血剣が東雲を袈裟斬りにする。
血液が宙を舞う。
(致命傷与えたと思ったのに、また背後にのけぞってダメージを和らげた)
致命傷じゃないにしろ相当な深手だ。
しかし、東雲の目は戦意を失ってなかった。
東雲は拳銃が空になったことに気づくと、放り投げ短機関銃を手に取る。
そうすると、リタに向けた乱射した。
乱射と言ったが、その一撃一撃が嫌なほどに正確でリタの身体の急所を貫いていく。
(こいつの連射武器は避けられない!!)
そう悟ったリタは、正面から東雲に突っ込んでいく。
頭や心臓を何発もの銃弾がその身を削り取っていく。
それを補うほどの速度で身体が再生していく。
とは言え、この再生も永遠ではない。
肉体が粉々になる攻撃を2回ほど受ければ、身体の再生能力は当分失われる。
だが、そうなる前にこの女は殺せる。
リタは銃弾の雨を突き抜けて、再び剣を振り下ろす。
首を目掛けて、振り下ろされた血の剣は突然身体を前のめりにしてきた東雲により、肩辺りを切り裂く事になった。
東雲が背後に避けるだろうという軌道修正を含めての、斬撃だった。
予想外に前に出られた事により、急所を外してしまった。
しかし、リタの視界を埋めるほどの血飛沫。
どのみち出血死は免れない。
リタがそう思っていたの瞬間、血飛沫に塗れた視界の中から、鋭利な刃が飛び出してくる。
「うっそ!?」
それはリタの下腹部を横長に切り裂いた。
東雲はあの状況下で反撃してきたのだ。
リタの腹下に熱い感覚が走る。
だが、吸血鬼たるリタにはこの程度なら問題はない。
はずだった。
「うっくっ......」
嫌な感覚だ。
身体から何かが抜け出ていく感覚。
痛みはない。だが、その感覚は不愉快極まりなく、大切な何かが奪われていく不快感。
もう一度、あの斬撃を喰らえばただでは済まない。
そう確信する。
「嫌な武器......」
幸い血は大量に流れた。
空中で飛散したリタの血液は、鋭利な槍の形になり、東雲に降り注ぐ。
彼女の二の腕を、太ももを、腹部を、肩を貫いていく。
「いっ......!!」
東雲は、身体を固定させられ動けなくなる。
「殺すつもりでやったんだけど......どうやってこれ避けたのさ」
東雲は、槍が当たる直前で身体を動かして急所から槍の軌道を外していた。
普通の人間にはできない反応速度だ。
もしかしたらその一芸だけならリタに匹敵するかもしれない。
「くっ......そっ」
磔にされた東雲は、抜け出そうともがくがいたずらに傷口を広げ、血が溢れ出るだけだ。
「リタねぇ、やっと見つけた」
背後から声をかけられる。
振り向くとそこにはリアスがいた。
身体中が血で染まっており、身に纏っている衣服のほとんどが破けてしまっている。
怪我は完治しているようだが。
「ズタボロにやられたな」
「誰かに窓から突き落とされた。クソムカつく」
その時だった。
階段の方から、無数の人間の足音が聞こえてくる。
流石の吸血鬼でも、数の暴力で殺されてしまう事もある。
もう潮時だろう。
「リアス、目的のものは回収した。帰ろう」
「了解ー」
そう言われたリアスは、身体が半分ほど影に飲み込まれる。
そのままリアスは、腕を差し伸ばす。
「その人間は殺しとかなくていいの?」
「構わないさ。どうせ死ぬ」
リタはリアスの腕を掴む。
そうすると、二人の身体はどんどんと闇の中に消えていく。
「また生きてたら、今度こそはーー」
リタはそう言い残すと、影の中に飲まれて消えていった。
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