新生活ー2



「あー、疲れた......」



部屋に戻った湊はソファに倒れ込んだ。



あの後、後続の隠蔽部隊と現場を入れ替わる形で、東雲の車に乗って対策庁まで帰ってきた。



後々、湊の部屋に燕がやってくることになっている。



帰りに燕が駄々を捏ねて、例の専門店とやらに寄らされるハメになった。



今日買った服を含めて、色々届けにくるはずだ。  



ソファで寝転がっていると、寝室の扉を開けて芹が姿を現した。



「セリ、怪我の方はどう?」


「問題ありません、もう動けます。激しく動くと傷が開くかもしれませんが、任務には支障がないかと」




芹の回復能力は人のそれ以上だ。


よくあんな大怪我をしておいて、動けるのか不思議だ。



「任務って、無理でしょ......いく必要ないし、ゆっくり休んでてね」


「っ......」



セリは無機質な表情をこちらに向けてくる。




「こんなにゆっくり休めたのは、久しぶりです」


「こんな怪我した時も、任務に出かけてたの?」


「はい、このくらいの怪我では休めませんから」



この程度の怪我ーー明らかに命に関わる様な大怪我だった。



湊はこの組織に対する不信感と嫌悪感が、込み上げてくる。




その時だ。



部屋の扉を開けて、燕が部屋に入ってくる。



両手には、今日買ってきた衣服が詰まった紙袋を持っていた。



「今日買ってきたやつ持ってきたよ」



燕は何個かの紙袋をセリに渡す。



「これ、セリちゃん他の服ないかと思って」


「私、お金持ってないですよ?」


「いいんだよ。そのくらい余裕で奢るよ」


「いえ、その、すいません......」


「謝る必要ないって、ありがとうの方が私は嬉しいな」


「そ、そうですか......あ、ありがと、ございます......」


「うん、どういたしまして!」



その時だ。


燕の顔色が変わり、ニタリと笑みを浮かべる。



「その代わりこれを着て写真撮らせてほしいなーって、いいよね? いいよね!」


「まぁ、はい、構いませんが......」



芹は訳もわからず、首を傾げながら承諾する。



「私は少しコンビニに......」



そう言い、部屋の扉の近くまで移動していた湊だったが服の襟を掴まれる。



「いや、ミナトちゃんもだよ?」


「すごく嫌なんだけど」


「だめ、先輩の言うことを聞きなさい」


「ううっ」



こうして、渋々湊も着替えさせられることになった。




湊は渡された巫女服に渋々袖を通す。




「いやー、ミナトちゃん、結構素朴な感じの美人だからこう言うの似合うと思ったんだよねー。こんな感じの巫女さんいそうだもん!」



そう言いながら、パシャパシャと写真を撮る。



「って言うか......元は本職だし」


「そりゃそっか、そりゃ似合う訳だよ」



そう楽しげな写真撮影に勤しむ燕。


出会ってまだ短い関係ではあるが、ここまで嬉々としている彼女は見たことがなかった。





その一方、芹はメイドのコスプレをさせられていた。


湊の撮影を終えた燕は、今度は芹を撮影しだす。


「これ楽しいんですか?」



芹は正気のない瞳をツバメに向ける。


そこそこに露出度が多い服装なせいか、彼女の痛々しい傷跡がよく見える。



「傷だらけな私にこんなことさせても、醜いだけなような気がしますが」


「いや、それがまたいいんじゃない! 可愛いよ」



「うわっ」と小さく声を漏らす芹。


いつも無表情な彼女の顔には珍しく、軽蔑の視線が燕に向けられていた。




(流石にその発言は良くないと思う、ツバメ......)



流石にラインを超えた発言だと思うが、今の彼女は止まらないだろう。



「そう言えば、セリちゃんも敬語使わなくていいよ、私あんまお堅いの苦手だからさ」



「すいません......この喋り方でしか、上手く言葉にできないんです。その、努力はします、どうしてもと言うなら痛みで覚えさせてくれて構いません、それなら割と早くできるようになるとは思います」


「ーーいや、そんなことしないし、できないよ。こんなめちゃくちゃなことしちゃったけど、セリちゃんに絶対危害は加えないし、糞上層部から守ろうと思っ」



その時だ。


部屋の扉をノックせずに、勢いよく開かれる。



部屋に入ってきたのは、東雲だ。



「明日なんだけど、拳銃の扱い方......」



東雲は辺りを見渡すと、湊達の姿が目に映る。


「いや.....何やってんのツバメ」



東雲はそう言うと、冷ややかな視線を燕に向けるのであった。

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