第21話 帰宅部「世界最強の悪ふざけ、スゲェだろ」
「…なるほど。貴様の正体がペルセウスなら、私相手に『遊び心』などとふざけたことを宣えるわけ、か!!」
リヴェリアが叫ぶや否や、即座に距離を詰め、連撃を放つ。
スーツを纏った帰宅部はソレを軽くいなすと、小声で「口出しすんなよ」と演劇部らを牽制した後、声を張り上げた。
「いや?こりゃあ性分でなァ。
人生が楽しく無さそーなヤツ見ると、ついつい説教したくなっちまう。
なんせ人生ってのはド級のクソゲーだ。
そんなら、そのクソゲーを神ゲーって言えるほどにエンジョイした方がいいだろ?
人生ってのは、楽しくなきゃ価値がねぇんだよ」
びきっ、と音を立て、リヴェリアの腕に筋が浮かび上がる。
反応を見るに、地雷を踏み抜いたのだろう。
先ほどとは比べ物にならない速度で剣を振るうリヴェリアに、避けに徹していた帰宅部は「うぉっ」と声を漏らした。
「私の人生は、この国の発展のためにある。
この作り物の空を捨て、本物の空の下に立つために、私は身を捧げる。
…私の人生を、勝手に価値のないものと貶した以上、無事で済むと思うな」
「そーかい。主義主張はご立派だが、言わされてる感すげぇぜ?
要するにお前、ただこの『作り物の空』ってのが大嫌いなだけだろ。
初めてここに入った俺でも気が滅入るって思うわ、こんなクソみてぇな解像度の空。
や、空ですらねぇか。これ、映像だもんな。
産業発展進みすぎて逆に退廃極めたディストピアかよ」
言って、空を指す帰宅部。
彼の言う通り、この空間の空は、ただびっしりと並ぶ機械たちによって再現された、偽物の青空であった。
本物の空を知る身からすれば、あまりのクオリティの低さに驚くことだろう。
ところどころ、映像らしい掠れも存在しており、一眼見て作り物とわかる。
帰宅部の言葉に、リヴェリアはさらに怒気を強め、口を開いた。
「………私をどこまで貶せば気が済む」
「貶しちゃいねーよ。ただ、クソつまんねーしがらみを必死こいて我慢してるクソみてーな人生送ってるやつに、人生エンジョイ勢なりの説教入れてるだけだ。
お前、見たとこ15かそこらだろ?
なんでそんなクソつまんねー人生選んだ?」
「私の…、誇りだからだ」
その言葉を、帰宅部は鼻で笑う。
共に放たれた斬撃を軽く手で弾き、帰宅部は子供に諭すように続けた。
「テメェの誇りってのは、語るときに熱がこもってるモンだ。
俺の知ってる人間は、ソレを語る時、『カッケェ』って思える熱がある。
つまるところだな…。
嘘が下手だな、お前。なんっにも感じねぇほどに冷てェぞ」
「…私の何がわかる」
「あー出たよ、そのセリフ。『自分のことわかって欲しい』って言ってんじゃん。
お前、現状に全然満足してねー…いやぁ?
不満だらけで逃げ出したいって言ってるよーなモンか。
本音が出てきたな、カタブツ」
帰宅部が笑みを浮かべるのとは対照的に、憎悪と憤怒を表情に宿すリヴェリア。
彼女は剣を握った手を胸元に添え、不思議な紋様が走る鍔に指を当てた。
「お前の御託は、聞くに耐えん…!!」
「お!お前も変身するタイプかぁ!
いいね。楽しいぜ」
『…変身前に叩けばいいのに』
(ンなマネしねーよ。楽しくねーし)
警告音と共に、おどろおどろしい音楽が鳴り響く。
恐らくは動作確認のための音声なのだろうが、趣味を入れすぎてはいないだろうか。
そんなことを思っていると、途端に剣から溢れ出した泥…、否。
機械の群れが形を成し、竜へと変貌した。
「こういうのは私の趣味ではないが…。
今だけは、貴様の口上を少し借りよう」
────星を砕け、魔神武装。
がっ、と地面に剣の鋒を落とす。
瞬間。それに伴うように竜が舞いあがり、リヴェリアへと突っ込んだ。
どういうシークエンスだ、と帰宅部が訝しむのも束の間、竜の体が展開し、リヴェリアへと覆い被さる。
完成したその武装に、蛍光色に近い青のラインが走ると、目元だけを覆った仮面に、青の光が宿った。
「コレは試験的に作られた武装でな。
本国がお前とアメジストを参考にして開発を進め、実用化に至った物だ。
一般兵には使い熟せないほどにスペックが高いのが難点だが…、私であればその制限はない」
(…アレの開発者、趣味が完璧にアメちゃんに似てんよな)
『めっちゃカッコよかった…!!
私も人型じゃなくてあんなんがいい…!!』
『ヤダよ、パクリのパクリになるじゃん』
アメジストが猛烈に感動している。
感動に咽び泣くアメジストの声を聞く傍ら、帰宅部はものの1秒足らずで距離を詰めたリヴェリアの斬撃を避ける。
先ほどよりも重く、速い。
生身の手芸部以上だろうか。
そんなことを思いつつ、帰宅部は続く斬撃を避け、距離を取ろうとする。
が。リヴェリアはソレを許さず、彼に肉薄した。
「中身のスペックがヤベェから型落ちでもそこまでやれてんのか?
いいね…!ようやく楽しくなってきた…!」
「『楽しい』などと言える余裕がいつまで続くか、見ものだな!!」
「お生憎!死ぬまで続くぜ、俺の『楽しい』はよォ!!」
ぎ、ぎ、ぎんっ、と数回、金属が擦れ合う音が響く。
リヴェリアの放った斬撃を全ていなした帰宅部は、隙のある胴体を刈り取るように、拳をめり込ませる。
そのまま剣を振るうまでの隙を与えず、地面へと体を叩きつけた。
リヴェリアは追撃に備え、防御姿勢をとりかけるが、帰宅部の体が一切動いていないことに気づく。
「ぐっ…。何故、追撃しない…?」
「俺は楽しくねーモンに時間も金もかけねーけど、楽しいことにゃあ、いくらでも時間も金も溶かすんだよ。
わかりやすく言うと、アレだ。
こちとら、本気出せばお前を二撃でブッ倒せンだよ」
「ふ……っ、ざけるなァッ!!」
立ち上がると同時に、目視すら不可能なほどの速度で切り上げを放つリヴェリア。
が。帰宅部はそれを軽く身をずらすことで避け、剣を掴んだ。
「ほむほむ…。ほーん。
あ、これ指紋認証で武装展開してんのな。はー、凝ってるわー」
「離せっ!!」
「ごめんごめん。ちっと気になってな」
リヴェリアの怒号に剣を離し、距離を取る帰宅部。
どこまでも舐め腐った態度である。
「……私が、無価値…?
いやっ…!違う、違う…!
違う、嫌だっ、違う、違う違う違うッ!!
私には、地位も、力も…っ!!」
が。リヴェリアが何よりも気に食わないのは、帰宅部にとって「敵とすら認識されていない」という事実だった。
まるで、自身が積み上げてきたものが無価値だとでも言わんばかりの言動に、リヴェリアの苛立ちと焦りが募っていく。
ソレを吐き出すリヴェリアを前に、帰宅部は深いため息を吐いた。
「はーっ。『本物の空の下に立ちたい』って夢すら霞むほど、手にした地位と力に押し潰されそうじゃねーか。
俺がその荷物、ブッ壊してやらァ」
『……まさかとは思うけど、連れて帰らない、よね?』
アメジストの問いに、帰宅部は高笑いを上げ、拳を握った。
「なぁに!ちっとブチのめして誘拐して、本物の空の下でクレープ食わせるだけだ!!」
『でーすよねー…』
『敵の基地乗り込んで女攫うって、やってることゲームの魔王では?』
『こいつの場合、完全な善意でやってくるからね。
人によっては秒でオチるけど…、このクソカタブツ具合だとどうかなー…?』
『えーっ…と。連れてこられたら、私どんな顔して会えばいいの?
一応は敵対関係だったんだけどもさぁ…?』
『諦めなさい。コイツはこう言ったら絶対やります』
そんな会話を聞き流しながら、帰宅部が手の甲に嵌められたジェネレータを軽く叩く。
瞬間。そこから機械が放たれ、両腕を覆い尽くしていく。
ソレを前に、隙ができたと思い込んだリヴェリアが、剣の指紋認証に指を当てる。
「消えろ、消えろ…!!
私の前から、私の記憶から、私の心から…、跡形もなく消えてしまえッ!!」
「さぁさぁお立ち合い!キャスト、ギャラリー共々心に刻め!!
最後のお楽しみだァ!!」
リヴェリアの握る剣から、青紫色の光が立ち上る。
ソレに対し、帰宅部の両腕に完成したガントレットに、赫い光が駆け巡る。
一瞬の沈黙。ただの風の音ですら止んだかのような緊張感が、両者の間を流れる。
────ケイオス・ドライブッ!!
先に動いたのは、リヴェリアだった。
地面すら融解させてしまうほどの速度で帰宅部へと迫り、禍々しい光が迸る刃を振るう。
ソレに対し、帰宅部は左手のガントレットで剣を叩き折ってみせた。
リヴェリアがソレに驚く暇もなく、帰宅部は握った右拳を引き絞り、思いっきり左足を踏み込む。
────メテオ・ハルパァアッ!!
その刹那。世界が割れるような音が響き、リヴェリアの体が空を舞う。
拳を振り抜いた帰宅部は、その場に倒れ伏し、鎧が解除されていくリヴェリアを前に、武装を解いた。
「世界最強の悪ふざけ、スゲェだろ。
テメェらみてぇな悪ふざけの足りねーモンなんざ、相手にならねーよ」
帰宅部は言うと、リヴェリアの体を持ち上げ、インカムを叩いた。
「さ、回収よろしくなー」
『……本当に連れて帰るの?』
「こんな気が滅入りまくるとこで社畜させるよりか人道的だろ。
それに、だ。優秀な指揮官様を失ったってのは結構な痛手じゃねーか?」
『…わかった、わかった。回収するよ』
瞬間。帰宅部たちの体が、光へと分解され、魔神軍基地第三支部から消えた。
その日。魔神軍に「不落のリヴェリアが落とされた」という伝令が駆け巡り、震撼が走ることになったのは、言うまでもない。
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