第2話 また家を壊された放送部「全然効果無ぇじゃねぇか!!」

この世界には魔法少女が存在する。

フリルやらリボンやら、可愛らしい意匠が施された衣を身にまとい、拳やら剣やら、とても近代で通用するとは思えないような武器で悪の組織「魔神軍」と日々戦っている。

その美貌から、一部で絶大な人気を誇っている上、揃って「趣味はボランティア」と堂々と言ってのけるほどの善人であり、表立った批判はほとんどない。


ただ。一部で不満点はある。

魔法少女になれるのは、思春期の女子のみ。

これは彼女らが纏うエネルギーの関係上、絶対条件である。

そう。絶対条件で「あってしまった」のだ。


思春期。それは誰もが体験する、最も多感でいて、最も不安定な時期である。

そんな時期に強大な力が目覚めればどうなるか。

それはもう酔う。大人になって思い返したら死にたくなるほど酔いしれる。

幸い、魔法少女らは往来の気質により、そこまで深刻な状態までは陥っていない。

が、しかし。力に酔っていないとは言い難く、「あとで直る」と分かっている戦闘による周囲の被害を気にすることはなかった。


もうお分かりだろう。その煽りを最も喰らったのが、放送部なのである。


彼女が持つスマホには、自分の家が戦いに巻き込まれ、豆腐のように崩壊していく様が映っている。

これで33回目の自宅崩壊である。

放送部は首に深く筋を浮かべ、ステンレス製である水筒を握りつぶした。


「……怖っ」

「…試作機だけじゃ足りませんね、スーパーヒーロー」

「今はあっちで出たやつを対応してるから、仕方ないと思うんだけど」


潰れた水筒から放たれたお茶をモロに喰らった工学部は、タオルで顔面を拭きつつ、窓の外を指差す。

そちらをよくよく見ると、蠢く巨影をあっという間に解体していくパワードスーツがうっすらと見えた。


「やっぱり、改造人間かなんかを大量に作る方針で良かったのでは?」

「無理じゃと言うとるじゃろ。

機材が揃えば出来るが、バカみたいに時間は食うし、コストもかかる。

放送部。お前が思うような成果はまず出んぞ」


と。放送部の前でサンドイッチを頬張っていた生物部が指摘する。

彼女の頭頂部にて、ぴょこん、と揺れる狐耳を見やり、放送部はため息を吐いた。


「…なんか、こう。クローンとかでなんとか出来ないんですか?」

「出来とったら妾、家でぐうたらしとる」

「流石は『人の子など孕みとうない!』と言いたいがためだけに、自分の頭にマジモンの狐耳を生やしたサイコパス。

人間社会で生きていく上で必要な道徳倫理が丸ごと抜け落ちてますね」

「お前に言われとうないわ、ウルトラハイパーデラックス自己中」


道徳倫理が抜けてるのはお互い様では?

工学部はその一言を飲み込み、新しい設計図を机に広げた。


「やっぱオプション削ると、思うようなスペック出せないね。

どんな状況にも対応出来る器用貧乏をコンセプトに開発したけど、やっぱ形態変化は搭載しとくべきだったかな」

「分身能力とか付け足せません?」

「今科学部と共同開発してるサポートロボットでなんとか…なんとか、なるといいなぁ」

「無人機とかは?」

「また1から作り直しじゃん。ある程度の規格は出来てても、勝手が違うよ。

それに、サポートロボット、試作機、あと今作ってる『拡張強化型』で資材も予算もほぼ尽きるよ」

「科学部がたまたま作った特殊合金を使用してませんでしたっけ?」

「アレ作るの時間かかるし、機械動かすのもタダじゃないんだよ」

「もう会話が工業の世界じゃな」


誤解のないように言うと、彼らが通っているのは普通科の高校である。

ただ、「バカと天才は紙一重」という諺にそのまま足が生えたような生徒たちがたまたま集まっただけの、どこにでもある普通の高校なのである。

工学部はため息を吐き、窓の奥にある、バラバラにされた怪獣が放り投げられ、天に向かって放たれた極太ビームによって消し飛ぶ景色を見やった。


「…あんなん付けたっけ?」

「今朝方、科学部がウッキウキで付けとったぞ」

「僕には『オプション付けるな』って言ったくせに?」

「今に始まったことではないじゃろ。

…あーあー。妾もあんなビームブッパ出来る改造人間作りたいのう。

……妾をこれ以上改造したら、それこそ狐耳の神様とかにならんかの?」

「それもう悪の科学者のセリフじゃない?」


♦︎♦︎♦︎♦︎


その頃、日本国中の魔法少女が集う協会本部にて。

進行役を務める壮年の男性が、呆れを込めたため息を吐いた後、声を張り上げた。


「一部欠席が目立ちますが、時間も惜しいので緊急会議を始めます。

議題はもうお分かりでしょうが、『ペルセウス』と名乗る謎の機械怪人についてです」


彼の眼前には、数人の少女が席に座し、そのほとんどが神妙な面持ちを浮かべている。

ペルセウス。悪の組織…「魔神軍」が繰り出す怪獣をあっさりと下した、謎の生命体。

機械的な見た目をしているものの、ところどころ筋肉のような器官が剥き出しになっており、一部では「地球外生命体ではないか」という説も上がっている。


…その実は、イカれた文化部たちが悪ノリで作ったパワードスーツを着た帰宅部なのだが。

そんなことなど知らない彼らは、真剣になって議論を展開する。


「ペルセウスに倒された怪獣は、既に20を超えました。

そのどれもが圧勝と呼ぶべき成果であり、目立った被害はありません」

「……これ、私たちの信頼を失墜させようとしてる魔神軍の企みじゃないかしら?」

「いや、多分ソレはないと思うよ。

『よくも私のデータを』とか、『データの仇』とか言ってたし、魔神軍幹部のメデューサも、ペルセウスのことを把握してなかった。敵対関係にあるのは間違いない」

「…アイツが言う『データ』ってなんの話だろ?」

「さあ?宇宙人らしく、なにか地球に関するデータをかき集めてたんじゃないかしら?」

「宇宙人説ね。…別の組織が存在していて、魔神軍によってそのデータが破壊されたとも考えられない?」


いいえ、ただのゲームのセーブデータです。

ポンチ文化部の1人がこの場にいれば、馬鹿正直にそう答えたことだろう。

会議は踊らず、されど進まず。

結局、議論を交わしたところでアホが極まったような真実に辿り着けるはずもなく、無意に時間を潰しただけであった。


ちなみに。直った放送部の家は、会議の間に再び現れた怪獣によって秒で壊れた。

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