魔法少女世界にいる文化部どもが悪ふざけした結果、スーパーヒーローが爆誕してしまった。

鳩胸な鴨

第1話 イカれ文化部どもの悪ふざけ

「私たちが力を合わせれば、スーパーヒーローを作れるのでは?」


そんなことを言ったのは、放送部の擦れに擦れ、捻くれに捻くれた少女だった。

この世界には魔法少女とよくわからない怪物、そして悪の組織が存在している。

毎日のように変死体が見つかるし、毎日のように摩訶不思議な事件が起きる。

そんな日々に被害者として振り回され、疲れ切った少女による、頭のネジが根こそぎ吹っ飛んだとしか思えない提案に、悪友たちは引き攣った笑みを浮かべた。


「……どうした?頭イカれた?」

「そうかもしれません。

そうじゃないかもしれません」

「ンな文学的な返し求めてない」

「そもそも魔法少女がいるのに、スーパーヒーローなんて要るのか?」


少女2人…ボーイッシュな格好の演劇部に、大和撫子とでも呼ぶべき黒髪の美少女である科学部が、放送部にツッコミを入れる。

放送部はそれに対し、呆れを徐にするかのような深いため息を吐き、肩をすくめた。


「その魔法少女とかいう『私ちょー可愛い』って言いたげなフリッフリ衣装を恥ずかしげもなく着て人前に出るクソアマどもがロクに成果出せてないのが腹立つから作るんじゃないですかアホですか?」

「うん。救急車呼ぼう急患だ。

深刻な病にかかってる。頭の」

「あ、あはは…」


洋画チックに皮肉をかます演劇部に、苦笑を浮かべる少年…工学部。

その隣で、科学部がヒソヒソと耳打ちした。


「おい、なにがあった?

幼馴染のお前なら、放送部がなんでこんなポンチな発言してるのか知ってるだろ?」

「君も幼馴染のはずだけど。…言うなら、昨日で通算32回目の自宅崩壊。ゲームデータまでぜーんぶパァ」

「…戦闘による損壊は魔法少女…もとい国が直すと聞いたが?」

「企業が持ってる機密情報とかならまだしも、個人で所有してるゲームデータとかになると対象外みたい」

「……なるほど」


魔法少女と悪の組織の戦いは熾烈を極める。

それこそ、「ここいらの建造物は軒並み豆腐で出来ていたんじゃなかろうか」と思わせる程の被害が毎度の如く出る始末。

中でも放送部が住まう地域はその頻度が多く、彼女はこの2年で32回も自宅が壊れるという悲惨な目に遭っていた。

いくら魔法少女が持つ力で即直せるからと言って、限度がある。

メラメラと怒りの炎を燃やす放送部に、科学部は疑問を投げかけた。


「で。作るはいいが、トンデモパワーで理不尽ばら撒く超常戦線に割って入れるようなスーパーヒーローをどうやって作るんだ?

コンセプトやそれに沿った規格がなきゃ、机上の空論にもなりゃしない。

そのくらいは考えてるよな、放送部」

「は?それを考えるために集まったんじゃないんですか。

なんのためにウチの頭おかしい文化部代表どもを集めたと思ってんですか?」

「堂々とこっちに投げてきたな」

「うん。知ってた」

「人にモノ頼む態度じゃないね」


凄まじい唯我独尊っぷりである。

呆れながらも提案自体には乗り気なのか、文化部たちは机に画用紙を広げ、意見を出し始めた。


「作るってことは、機械的なアプローチでいいのかな?生物部としてはどう?」

「流石に改造人間とかホムンクルスとかは技術的にも予算的にも無理じゃの。

…悪の組織様に情報流して作らせて、それを横から掻っ攫うとかどうじゃ?妾はそういう展開大好きじゃが」

「それじゃ時間がかかりすぎる。

生物の仕組みを弄るよりか、機械で魔法少女の力を再現する方がやりやすい」

「演劇部の素人意見だけど、不思議パワーをなんにも搭載してないパワードスーツとかでもいけそうな気がするけど?」

「それじゃ魔法少女の劣化だろ、却下。

どうせ作るなら魔法少女よりも強いヒーローの方が燃える」

「じゃ、パワードスーツかロボットで決まりだな」


方向性はものの5分で決まった。

文化部たちはそれぞれ役割を分担し、スーパーヒーローを作ることに注力し始めた。


「魔法少女に対抗するために不思議パワー組み込むって書いてあるんですけど、あの不思議パワー解明できるんです?」

「ある程度の再現性があるんだ。科学の領域まで落とし込むことなど、造作もない」

「原理さえ突き止めてくれたら、あとは仕組みを機械にするだけだからね。

原理追求は科学部にお願いしようかな」

「原理自体は掴めてる。それをどうやって再現しようかで躓いてるんだ」

「ちょっと見せて。…うん。これならこっちにエネルギーの流れを変えて…」


科学部と工学部により、心臓部となる部分が完成する頃には、2週間が過ぎていた。

その後、3日ほどはパワードスーツにするか、ロボットにするかで若干意見が割れたものの、結果としてパワードスーツとして運用することが決まり、美術部によるデザイン案を元に試作品の作製が開始された。

そんなある日、ふと我に返ったのか、工学部が放送部に問いかけた。


「…ふと思ったんだけどさ。

僕らがやってることって、なんらかの法に触れてない?大丈夫?」

「ウチの文化部に関しては今更では?

…あと、引き返せない段階になってソレ聞きます?」


彼らの眼前には、ほとんど完成した銀と黒の鉄塊が佇んでいた。


♦︎♦︎♦︎♦︎


「……で。帰宅部の俺にソレを着ろと」


腐れ縁である工学部にそんな経緯を聞かされた少年…帰宅部は、がしがしと頭を掻く。

目の前には、完成したパワードスーツが佇んでおり、その相貌にあたるバイザーが真っ直ぐに帰宅部を見つめていた。


「当初は放送部に着せる予定だったんだけど、『オペレーターやりたい』ってゴネにゴネてさ。

体型的に着れるのが君しかいなかったし…」

「声だけが取り柄の女に押し負けんじゃねぇよ、文化部集団」

「面目ない…」


返す言葉がないのか、苦笑を浮かべ、視線を右往左往させる工学部。

帰宅部はそんな彼をよそに、仁王立ちするパワードスーツをまじまじと観察する。

余計な装飾が見当たらない、なんともシンプルなデザインである。

帰宅部の素人目で見ても、機能美を追求したということだけは理解できた。


「なんていうか、最近の特撮とかじゃまず見ないシンプルさだよな」

「ホントは特撮みたく、要素盛り盛りにしようかと思ったんだけど、『試作機だしオプション付け過ぎない方がいいんじゃ』ってマジレスされて」

「やっぱ頭おかしいよお前ら」

「褒め言葉?」

「ニュアンスでわかれ。ドン引きしてるんだよ」


帰宅部は呆れを吐き出すと、パワードスーツの側に置かれていた冊子に目を向ける。

「マニュアル」と書かれた分厚いソレをパラパラと捲り、ざっと流し見ると、「うげっ」と声を漏らした。


「…魔法少女と同じ不思議パワー使えるし、ソレ抜きでもタメ張れるってマジ?」

「マジマジ。超頑張った」

「超頑張ったで済ますなよ。

普通にノーベル賞いけるんじゃね?」

「いや、流石に無理だと思うなぁ」

「イヤミか貴様」


そんな会話を交わし、もう一度、マニュアルに目を落とす。

恐らくは科学部と文芸部によってまとめられたのだろう。

子供でも理解できるように、非常に噛み砕かれた説明がされている。

文字量は流石に多いが、あまり苦に感じない。

ある程度読み込むと、帰宅部はパワードスーツの胸を、こんっ、とノックした。


「面白そうだ。やってやるよ、中身。

セリフは演劇部、放送部がやるんだろ?

命の保証もされてることだし、中に入るくらいだったら協力してやる」

「わーい!やったー!」

「…コレならもう、ロボットにしたほうが良かった気もするが」

「ロマンに理屈求めるなんてナンセンスだよ」

「…文化部全員、そういうとこあるよな」


♦︎♦︎♦︎♦︎


『ボクの名前は…、まあ適当に「ペルセウス」とでも呼んでくれ』

『この謎の存在について、ゲストの魔法少女…ビューティ・ルビーさん。

どのような見解を持っておられますか?』

『そうですね…。私としては…』


数日後。

ニュース番組にて取り上げられた映像に映り、キザったらしい台詞を吐くパワードスーツに、帰宅部は顔を引き攣らせた。


「……あれ?俺、思ったよりヤバい橋渡らされてる?」

「中身役が1番ヤバい橋渡るのなんて、わかりきったことでは?」

「身バレ=死だと思ったほうがいいんじゃない?」

「他人事みたく言ってるけど7割くらいお前らのせいなんだわ」

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