第2話

魔王と取引をした女神。


この世界の公式ストーリー、…いわゆる設定っていうものをチェックしながら、この世界の登場人物達を見守っていた、その人。

そして、目に見えて目立つ悪役令嬢オフィーリアの行動。


「あの子、何で自分の身に起こる危機を…自分で回避しているのかしら?」


女神はヒロインを転生させる前から、ちゃんと皆が役割を達成し、何とかポイントクリアまで辿り着けるように願っていたのに設定とは違うように生きている悪役令嬢。


「全然、この世界の設定通りの悪役令嬢にならないじゃない!」


死んでしまうはずの母親も産まれる前だったくせに助けていたし、後にヒロインの攻略対象となるはずの兄にも嫌われないように上手いこと懐柔してる。

っていうか、彼女、家族みんなから溺愛されちゃっているわ。


そして、次はキミワタのメイン攻略者である王太子との婚約の問題。

だって、彼は彼女と婚約するはずだもの。

なのに…。


え?

何で、すんなりと婚約者にならないの?

何で彼女も、そして彼女の家族もこの婚約を拒否しているの?


王太子は婚約を望んでいるのに、上手くいかない。

それに対し、王太子は初めての我が儘を国王である父に言っている。

彼女と結ばれたいと、そう願っている。

その婚約…、壊さないといけないことはわかってるから、彼の気持ちを思うと何だかやるせない。


色々と変わっていることが気にはなったけれど、それでもちゃんと婚約させて、婚約破棄という事実を作らなければいけない。

国王も息子の気持ちを優先し、友との関係よりも息子を優先させようと動く。


「アルフィン、もう少し待ってくれ。

サーシアにまた頼んでみるから。」


「あの…父上、私はそんなにも嫌われているのでしょうか?」

今にも泣きだしそうな王太子。


っていうかね、ヒロインと結ばれる設定なんだから、そもそもの話、王太子には悪役令嬢を嫌っていて欲しいのよって言ってるじゃない。

何で好き好きオーラ出しまくってるの?

婚約者を蔑ろにするのもあなたの役割なのよ?


まぁ、何にしても、早く婚約成立させなきゃ。

国王陛下が王命を出すように、それとなーく、力を使った。

あの悪役令嬢を溺愛している変な魔王様の魔力、貰ってて良かったわ。


さぁ、次はヒロインを転生させなきゃね。

今までのヒロイン達の酷いことと言ったら…。

思い出したくも無いほどよ。

それはそれは我が儘な子だったり、性格に難のある子だったり、男性へ媚びることだけを考えていたりと…。


お願いします。

どうか、私が任された最後の世界には…。

今度こそ、まともなヒロイン来て!


その強い願いのお陰か、はたまた魔王の力のお陰かわからないけれど、その日、王宮の裏の森に、今までで1番素直そうなヒロインを転生させることができた。


よっしゃ!

やれた!

できたわ!


性格が素直なだけで成功って言えるもの。

聖女であるヒロインは控えめでいいのよ。


…まぁ、ちょっと、少し…。

彼女が向けている愛の方向が違うような気はするけれど。

あなたは王太子と結ばれるべきなのに、どうして、自分と敵対する関係になるはずの悪役令嬢に興奮してブツブツと…、何を言っているの?


いやいや、王太子ともちゃんと交流してよ。

っていうか、どうしてこの世界の人達は彼女を…、悪役令嬢のことを好きになるのかしら?

…どうせ、役割を終えたらあの方に連れ去られてしまう運命なのに。


そしてもう1つの問題。

ヒロインと王太子…、出会っても、お互いに何とも思ってないみたい。


何で?

運命の出会いじゃないの?

それどころか、王太子、悩んじゃってるじゃん。

廃嫡?

悪役令嬢と結ばれる為に?

ヒロインに本当に何も…、これっぽっちも愛情を感じていないってこと?

やめてよ、そんなこと。

婚約破棄できなかったら、また私は失敗しちゃうじゃない。


というか、そんなに悪役令嬢が好きなの?

いっぱい誘いも断られているのに、彼の目は悪役令嬢を愛しく想っている目だわ。

…少し、引き離すのは可哀想だと思ってしまう。

どうせ手紙送っても、数回に1回ぐらいしか返事返ってこないのに、大事そうに宝箱にしまう姿なんて見たら、同情しちゃうじゃん。

もう少し、返事の頻度を多くしてあげてよって、そんなこと考えちゃうぐらいよ。


それに、ヒロイン。

素直そうだなって安心していたのに、あれは度が過ぎるほどに素直過ぎる。

というか、お前も悪役令嬢溺愛してんのかーい!

しって何よ。

最推し?

は?

違うでしょうが。

あなたはヒロインなのよ?


そんな主人公であるヒロインと王太子を観察しながら、悪役令嬢の現状も見て、改めて考える。


何であの子、あんなに愛されまくっているの?

悪役令嬢なのに。

どうして?


まぁ、ちゃんと…いえ、とっても努力しているみたいだから、私だって本当は自由にさせてあげたいのよ?

もしも私に権限さえあれば、このまま順調に王太子と結婚させてあげたいし、婚約破棄となったとしても断罪も無く幸せに過ごして欲しいと考えている。

でも、あなたの婚約破棄もこの世界の均衡の為に必要なことだもの。

だから、心を鬼にして私は私の仕事をやらないといけないの。

ほんの少し、物語よりは早くなってしまうけれど、魔王様にも急かされているし、やらなきゃいけない。

王太子の暗殺未遂からの虹色の光。

…半年ぐらい早い気もするけれど、これ以上は魔王様の機嫌を損ねることは出来ない。

魔王の力…、もうすでに貰っているからね。

そして、王太子の暗殺未遂事件が起きて、あの光を出せた。


やった!

うまく光らせられた!

素敵な虹色よ!

魔王様、魔力ありがとう!


でも、ちょっと…。

王太子にとっても、何も知らない聖女にとっても可哀そうだったかも。

残された力で、2人の幸せを願おう。

せめてもの罪滅ぼし。

ちゃんとポイントをクリアしたから、報酬としての力も貰えるはず。

その力は、今後のキミワタの世界の平穏に使おう。


そして、もう1つのポイントは婚約破棄。


でも、あれ?

…あ、彼女、自分で婚約破棄お願いしちゃってる。

同席している彼女の兄も友人も驚いているじゃない。

それ程までに、彼女はこの婚約を無かったことにしたかったとはね。


ちょっと…、彼女のことを好きな王太子が可哀想な気もするけれど、これは仕方ないことですもの。

えっと…、この世界を保つ為には、婚約破棄さえできたらいいのよね?

罪も無い彼女を…、彼女の家族までも断罪とか、さすがにできないわ。


そう考えている時に響いたアナウンス。


≪おめでとうございます。

この世界の均衡は保たれました。

ポイント、全てクリアで~す!≫


やった…。

やったーーーー!

私、初めて世界を守れたのね。

なんか、ストーリーはちょこちょこ違うとこあるけど、でも、無事にクリアできたからオッケーよ!


えっと…、この世界から彼女を解き放つことを待っていた魔王様に連絡しなくちゃ!

…って、連絡って、どうやって取ればいいかな?


それにしても、彼女は…あの変な溺愛魔王のとこで、ちゃんと幸せになれるのかな?

ちょっと不安になってきたわね…。

とりあえず、彼女に謝ろうと手紙をしたためる。


そして、魔王様にどうやって連絡を取ろうか考えていたら、また勝手な魔王様に振り回されることになる。

婚約破棄が実行された日の夜、眠りについてしまいそうな時刻だった。

それは、悪役令嬢になるはずだったオフィーリアの元へ忍び寄る気配。

それを感じた女神は急いで彼女の様子を確認した。


すると、連絡を取ろうとしていた相手である魔王が、あろうことか、彼女の前に姿を現していた。

そして、魔王が行動を起こした。

この世界から彼女が解き放たれることを待っていた魔王様の行動力に、女神は驚き、でも…諦めもした。


こんな…当日に現れるなんて…と、溺愛って怖いわねと考えていた次の瞬間、女神は彼女が連れ去られるのを見てしまった。


あ!

また勝手に!

あーあ、もう連れて行っちゃった。

これは…、

女神が手を出せるもんじゃないもの。

だよね?

もう、知らない。

私じゃどうしようも無いもの。


オフィーリアさん、どうにか幸せになって!

一応、あなたの大事な家族のことはこれからも見守るからね。


女神は、キミワタの世界から連れ去られた悪役令嬢になるはずだったオフィーリアの幸せを願うしか無かった。


「今後のことは魔王様には口出し出来ないし…。

あんなに溺愛しているんだもの。

きっと愛されて幸せになるはずよね。

…でも、まぁ、全て終わったし、私お疲れ様!ってお祝いしてもいいよね?」


のんきな女神は1人、初めての達成感に祝杯をあげていた。

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