第3章 シークレットキャラに掴まった悪役令嬢 第1話

魔王様…いや、ジャスル様によって、ここ、魔界に連れて来られてから、私は「キミワタのゲームの世界って…、そもそも何なんだろう?」と考えていた。


すると、「難しい顔をするな。」と、急に頬を撫でられる。

頬を撫でるその人。

いくらね、私にイケメン耐性が出来ていても、息を飲むほど美しすぎる魔王様を目の前にすると、心臓が飛び出そうになるから、こんな風に急に触れてくるのとか、ましてはこんなにも近づくのとか、本当に止めて欲しいなぁ。


この、あからさまに私を甘やかしてくれる彼は、私達の想像の世界の王である、魔王ジャスル・マグノリア。

あのゲームとは違い、実際には、ヒロインがかなりのくせ者でも無い限り、攻略できないシークレットキャラ。

だって、逆ハーレムルートという全攻略対象者をたぶらかすなんてできないでしょう?

(浮気しまくり聖女なんて嫌よ)

全員攻略した後に現れるシークレットキャラなんて、今、実際にここに生きている私達には絶対に会えない人だもの。

だから、きっと、この現実でヒロインと彼が出会うことは無い。

そして、そんな有りもしないはずの存在の彼が私を手に入れようとずっと画策してくれていた事実に驚く。


「あの、ジャスル様?」


「ジャスルでいい。」


「えっと、じゃぁ…、ジャスル。

あの、何故私なのでしょうか?

私、悪役令嬢であって、ゲームのヒロインじゃないですよ?」


「まぁ、正確には、この世界の姿のそなたにでは無いな。

理由は、そなたの前世だ。

前世のそなたの信仰心に俺は…、そしてこの魔界は救われた。」


前世?


魔王様を思い出した時、ゲームの内容だけでなく、前世の自分のことについてもとてもハッキリと思い出していた。

その前世の私?

えっと…。

陰キャの?

オタクの?

薄い本…というね、同人誌も作ってたけど…。

え、あの残念な前世?

思いがけないことに目をパチクリさせている私にジャスルは話を続けた。


「そうだ、フィアの前世だ。

…我々魔族が力を失う時、自身に対する信仰心が大切になる。

あの時、ちょっとばかり魔界がもめていてな。

魔界を立て直す為に、だいぶ力を使ってしまっていた。」


信仰心で片付けていいのかしら?

まぁ、同人誌も、勝手に作るグッズも、信仰心っちゃそうなのかもね。


彼はキミワタの魔王様ではないらしい。

本当の魔界の王様。

だけど、偶然にもゲームの中の魔王様と容姿が似ていたことで、「魔王様、最推しです!」と日々活動していた私の愛の力が、同じ容姿の彼への信仰だと受け取られたそうだ。


っていうか、それって、私の推しへの愛が誰よりも重かったってことよね。

魔王様、それ、勘違いです…。

まぁ、そもそも動いている魔王様なんて知らないから、容姿が激似なら、力もその顔の人のところに行くものなのかも。

少し、都合良すぎのような気もするけど。

ともかく、私からの愛について嬉しそうに話してくれるジャスルを見ると、何だか可愛く見えちゃって、気持ちが温かくなる。


そして、彼は続ける。


「そなたの信仰心という愛に力がみなぎった。

だから、あちらの世界でそなたが命を落とし、転生し生を受けたと知った時、あの馬鹿そうな女…。

もとい、キミワタとかいう世界を任された女神に話を持ちかけたのだ。」


馬鹿そうな女って何?

え、キミワタの世界の女神?

何、そのダサい人。

パチクリと目を瞬きながら、彼の言葉を聞く。


「あの無能な女に世界を保つ為に力を貸してやると言ったらすぐに飛びついてきた。

その代わりに、そなたが欲しいと言ったら、まずはこちらの世界で婚約破棄されて落ちぶれなければとほざいたから、だったらそのようになる為に満タンにしてもらっていた魔力を分けた。」


え、婚約破棄前提の話?

ってか、満タンになってたのね、私の重い愛。


「婚約破棄をクリアしなければ、そなたをその世界軸から解き放てないと。

何やら、その前にヒロインとやらと王太子が結ばれる時に力が発揮されて、世界が保たれるとか言っていたな。

だから、待ったんだぞ。」


え、何その可愛い「待ったんだぞ」って。

推しが可愛い。

っていうか、こんな私をもらい受ける為に行動するなんて、本当に魔王様のやること?


「あの…。

私は悪役令嬢でヒロインでは無いし、聖女でも無いし。

魔界の王様の為には、聖女であるヒロインの方が良かったのでは?」


彼が結ばれるべきは私じゃないのかもと、おずおずと尋ねた。

だけど、違ったらしい。

あからさまに不満の表情を見せ、話す。


「はぁ…。

ヒロインや聖女やらに興味は無い。

俺を馬鹿にするな。

俺は我が妃に相応しい人物を見極めている。

フィア、そなたが欲しい。

だから、そちらの世界の都合に合わせた。

フィアが手に入るのであればそれで良いと。

それにあの2人が結ばれなければ、そなたの大事な家族がいる世界は無くなってしまっていたんだぞ。

感謝していいぞ。」


彼は事の真相を話してくれた。

私の魔王様への信仰心。

それによって生まれた私への重たすぎる気がする愛情。

そして、キミワタという世界に関わる彼女のこと。

女神と名乗る彼女の心情は…。





《キミワタの世界の外で》



「失敗したら、この世界は無くなってしまって、私はクビですよね?」


女神である彼女は神々の集いで最終通告を受けた。

クビということは天界から追い出されて路頭に迷う。

ただでさえ出来損ないなのに、どの世界に放り出されても上手くやっていけるなんて思えない。

これは、どうにか頑張ってポイントクリアしないと。

次に任された「君の世界に私の花束を(キミワタ)」の世界を失敗して失うことはできない。


彼女は今まで何度も世界を任されては、物語の重要な問題【ポイント】をクリア出来ずに、何度も駄目にしてきた。

だって、召喚する聖女って事前審査出来ないじゃん。

悪い子ばっかりって、それこそクジ運じゃん。

それに、断罪されるべき悪役令嬢も縦ロール大好きなゴテゴテ衣装の、いかにも頭悪そうな、男に媚びる子ばっかり。


そしてたまにいるのよ。

悪役令嬢なんだからさ、ちゃんとヒロイン虐めてよー。

無駄にいい子ちゃんしないでってば。


それから、攻略対象の王子達も、すんなりヒロインを受け入れてよ。

誰だよ、婚約破棄するって気弱で言えないやつ。

ちゃんと役目果たさないとポイントクリアできないんだってば!


ねぇ、まともな人はいないの?

異世界転生とか、転移とかの世界なんて、私には荷が重すぎますってば。

だったら問題がダンジョンクリアぐらいの、冒険系のやつにしてよ。

冒険だったら進めばいいんでしょ?


経験値も無いのにさ。

恋愛なんて知らんわっっ!

でも、今度こそポイントクリアしないと…。

そう意気込んでいた物語の始まりをチェックしようとしていた時、彼は現れた。


「お前がこの世界を動かしているのか?」


「は?

え、何で?

え、魔王?

えっと、まだ出てこないはずだけど…。」


あたふたしている女神に向かって、魔王はとんでもないことを言い出した。


「我が力を保ってくれた女性がお前の世界に転生しているそうだな。」


魔王の力を?


「え?」


「ほら、日本という世界から今日、ここへ生まれている。」


彼が指さしたリストにあったのは、悪役令嬢のオフィーリア・ダリア。


「この娘を我が妃にしたい。」


ちょっと待って。

何だ、この魔王は。

何でピンポイントに悪役令嬢を?


「今は赤子だが、そうだな。

我が城で育ててもよい。

もう、連れて帰ってもよいか?」


え、城で育てる?

妃としたい人を最初から育てるの?

ロリコンなの?

ちょっと、どういうこと?


「えっ!

いやいやいや、困ります!

彼女がいないとこの世界が失敗しちゃいます!

重要な虹色の光、出さないといけないんです!

婚約破棄っていうのも大事なポイントなんです!」


そう、私がクリアすべきポイントは虹色の光と婚約破棄という2つ。

だから、今、彼女は渡せない。

なのに、魔王様は…。


「知らん。」


うわーん、この人、本当に連れて行っちゃう気だ。


「あの!

ちゃんとクリアしないと、婚約破棄される悪役令嬢で居てくれないと、この世界、なくなっちゃうんです。

(私もクビなんです)」


「それが俺に何の関係がある?」


「彼女、何でかわかんないんですが、生まれてくるときからハッキリと意思を持っています。

(ちょっと困ってるのよね)

そして、自分の意志で母親を助けました。

(物語変えないでよー)

ということは、彼女にとって家族が大事なんです。

だから、この世界が無くなったら家族も消えちゃうから、あなた、嫌われちゃうし、恨まれますよ!」


早口で必死に説明した。


「…ふむ。

嫌われるのはいかんな。」


よかったー!

わかってくれて。

溺愛万歳!!


「ちゃんと婚約破棄となれば彼女の役目は終わりです。

あとはその前に虹色の光を…。

でも、私にそんなに力残ってないしなぁ…。」


もう1つのポイントをクリアするには相当な力が必要だけど、これまで成功した世界がない女神には達成した報酬として貰える神の力が無かった。


「ならば、俺の魔力を分けよう。

彼女に満タンにしてもらったからな。

だから、早くオフィーリアを解き放てよ?」


うわ、ほんとに何なの、この魔王。

何でこんなに溺愛しちゃってるのよ。

まぁ、詳しく聞いて機嫌損ねちゃうといけないから、知らんぷりしよう。


こうやって魔王と女神のオフィーリアを条件とした約束は結ばれた。

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