第12話
扉番に案内され、国王陛下と王妃殿下、そしてちゃんと出席した当事者の王太子殿下が揃う、一般の人なら恐れ多くて怯んでしまいそうな場所に、彼らは堂々と座った。
「陛下、王妃様。
お時間を作って頂き、誠にありがとうございます。」
敬語を連ねる宰相に国王陛下は語りかけた。
「サーシア、そうは思ってもいないのだろう?
怒りが顔に出ておる。」
国王陛下にとって、この婚約は大切なものだった。
学生時代からの友であり、有能な宰相であるサーシア・ダリアと縁を結びたかった。
…聖女が現れるまでは。
聖女と王族との繋がりは国家にとって重要なこと。
だけど、この婚約も重要だったのには違いなかった。
国王陛下はこの婚約について思いを馳せた。
◇
《国王陛下視点》
その昔、聖女がこの時代に現れるとは思わなかった私は、幼い2人の婚約を進めることにした。
息子の気持ちも知っていたから。
だから、大事な友に嫌な顔をされても、王命として婚約させた。
オフィーリア嬢は息子を慕ってはいなかったかもしれないが、とても厳しい王太子妃教育もこなし、この2人になら国の未来を任せられると思っていた。
これまで社交界にあまり多くは姿を現すことが無かったオフィーリア嬢。
だけど、やっと彼女が学院に入学し、これから学院内でも2人の交流を持っていくだろうと、親としても楽しみにしていた。
だけど、あの日、森に彼女が現れて、全てが変わってしまった。
王家に伝わる聖女との話。
本当に抗えないものなのか。
周りの、特に王家側の貴族から、王太子と聖女との繋がりを求められていた。
それでも息子は私に何度も訴えてきた。
どうにかしてオフィーリア嬢と結婚したいと。
ある日、切羽詰まった息子から、「父上、私を廃嫡にして下さい」と頼まれた時には、もう覚悟しているのだなと感じた。
だから、私は本気でアルフィンでは無く、第2王子のウォルドに聖女との婚姻を了承させなければと思っていた。
別に王太子と結ばれるとは決まっていない。
王族と結ばれればいいのだからと。
幸い、3つ下のウォルドには婚約者がおらず、聖女候補のモモとウォルドの当人同士もお茶会で会話をしているようで、悪くない未来だった。
アルフィンが王位を継げるかは貴族達の手前、微妙な気配だったけれども。
全て順調に進むと思っていた矢先、あの暗殺未遂事件が起き、聖女の力が発現した。
それから、息子も聖女も変わってしまった。
「あなた、アルフィンが変なのよ。」
王妃から息子の様子を聞いて驚いた。
廃嫡してまでオフィーリア嬢と結婚したいと言っていたのに。
王妃が話を続ける。
「アルフィンがね、お披露目会の衣装を作るらしいのだけれど、私の贔屓にしているマダムから、彼が揃いの衣装を作るように頼んできたって。」
「オフィーリア嬢とのではないのか?」
「違うわ。
マダムが採寸したのは聖女様だって。」
その言葉に頭がクラっとした。
まさか、あの書物のようなことが息子の身に起こっているのでは…。
確かめるように王妃に問う。
「誠なのか?
アルフィンの指示なのか?」
「えぇ、王宮でもとても噂になっているわ。
ウォイドだって私に尋ねてきたくらいだもの。」
「…やはり、あの光のせいかもしれんな。」
国王陛下には覚えがあった。
曾祖父の時代、現れた聖女。
その時も同じようなことが起こったと王家に伝わる書物に記録があった。
「虹色の光…か。」
まさかアルフィンにも同じ事が起こるなんて。
だけど、オフィーリア嬢だけを想ってきたアルフィンの心は…。
そして、無理に婚約を了承させてしまった友の顔も浮かぶ。
「はぁ…。
サーシアに何と伝えたらよいか。」
大事な友に合わせる顔が無いと頭を抱えた。
◇
~両家の話し合い~
この話し合いでのことは、国王も王妃もダリア公爵から謁見の申し込みを受けた時点で、全て王家に非があるとして受け入れようと決めていた。
「我が娘、オフィーリアと王太子殿下の婚約について、本日、当人同士で話し合い、同席した息子とガーデニア伯爵令息から報告書を受け取り、持参しました。
このような事態になったこと、ご説明願えますか?」
「サーシア、かしこまらなくていい。
国王と宰相ではなく、アルフィンとオフィーリア嬢の親として話をしよう。」
「…わかった。
正直に話す。
私は見損なったよ、レイファント。
大体、私は初めから、そして何度も拒否していたではないか。
それを王家がどうしてもというから、愛娘を婚約者とすることを了承したのに。
それが何なんだ?
この結果は公爵家も、そして友であると信じた私のことも馬鹿にしているのか?」
友にこんな顔はさせたくなかった国王。
レイファントとて、サーシアのことを無二の友と信じている。
なのに、何も出来なかった自分の不甲斐なさが悔しい。
「国の為とはいえ、オフィーリア嬢には悪いことをした。
このように、少女の心を傷つけ、そしてサーシアにもそんな顔を…、言いたくも無いことを言わせてしまった。
すまなかった。」
「父上、正しい形になっただけですから、謝る必要などは…。」
「黙れ、アルフィン!」
頭お花畑状態から抜け出せない王太子は国王が頭を下げる状況に、自分は悪くないという態度で、口を開いてしまった。
「サーシア、本当にすまない。
あの日、聖女が現れてから、国の為にどうすることが大切か、そして息子のことも…。
色々と悩んでいた。
もっと早くサーシアに相談していれば良かった。
相談せずに、どうにか出来ないかと、そう考えていたのに、その間に、あの光が…。」
その言葉の中の「あの光」に心当たりがあった。
「やはり、あれか。」
「あの光の後、私の曾祖父も、愛し合い自分達で結んだ婚約を一方的に破棄している。
そして、曾祖母と結ばれた。
あれは、人の心も…。」
父が何を言っているかわからないという顔をした王太子。
そして、同席していた兄も父の反応に疑問を持つ。
「アルフィン。
本当はお前の心を守りたかった。
だが、曾祖父と曾祖母はお互いを慈しみ、とても幸せそうだったと父から聞いたことがある。
きっと、光が原因だとしても、心から愛することができるはずだ。
すまない、アルフィン。
どうしても運命はお前たちを逃がしてくれないようだ。」
父の言葉に、少し表情を曇らせる王太子殿下。
その様子を見ていた宰相は、王家の抱える秘密が、この現状を作り出したのだろうと察したが、こちらの用事も済ませないといけない。
「レイファント。
では、正式に婚約破棄でよいのだな?」
「あぁ、了承するよ。
書類は準備している。」
ジョシュアはもう少し浮気者を懲らしめられないかと父の顔を見たが、きっと何かわかったんだろう。
これ以上は事を荒立てようとしていない父。
ここは父上にお任せしようと、一歩引いた。
彼らは2人の子どもの親として話をしているから。
ちゃんと2人のことを考えてくれている。
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