第11話

言いたいこと言えて、これで決まりましたわねと晴れ晴れとした私。

でも2人は違った。


え??

何が起こっているの??

喜んで受け入れるはずの2人は予想外の反応を見せた。


「…待って。

ねぇ、オフィーリア、待って…。」

そこには、今にも泣き出しそうな王太子殿下。


そして、何故か殿下の隣で、同じように泣き出しそうなモモ。

「あのっ!

ち、違うんです。

オフィーリア様。

私は…。

ただ、オフィーリア様の幸せを願っていたはずなのに…。」


ん?

何でこんなに2人して青ざめているの?

だってあんなにラブラブイチャイチャモード出してたじゃん。

困惑していた私に縋るように、殿下に手を握られた。


「…王太子殿下?」


「フィア、嫌だ。

私が愛しているのは…。

…フィ…、フ…。

あぁ。

違う、違うっ…!」


両手で頭を抱え、とても混乱しているような王太子殿下の姿に、強制力という重い現実が浮かび、血の気が引く。

そして、モモも同じように葛藤している。


「私は王太子殿下を好きじゃない…。

誰も攻略しないって決めたはずよ。

…ん?

…好きなのかな。

愛してる…。

ううん。

わかんないよっ…!」


何よ。

何なの…この状況。

ゲームの強制力って、こんなにも人を人として扱ってくれないものなの?

人の感情を、気持ちを何だと思っているの?


固まってしまった王太子殿下。


「…えっと。

アルフィン様?」


腕を捕まれた。

そして、彼の目を、やっと真正面から見た。


「フィア。」


そう、最後に一度、私だけを見てくれていた頃を思い出すような顔をした後、すぐに別の顔になり、王太子殿下は変わってしまった。

手を離された。

それに次いでモモも、一瞬で、王太子殿下しか見えないような、私の知らない人になってしまった。


ひんやりと。

空気が変わった。

次に聞こえた王太子殿下の声は冷たかった。


「いいよ、オフィーリア嬢。

君の希望通り、この場で婚約を破棄する。」


人が…、変わったわね。

その事実にショックを受けたけど、でも、精一杯の感謝の気持ちを込めて、殿下にお辞儀をする。


「ご理解頂き、誠に嬉しいです。

不出来な婚約者でしたが、今までどうもありがとうございました。」


先ほどとは違う雰囲気を纏うモモが話す。


「オフィーリア様。

今までフィンを支えて下さりありがとうございました。

今後は聖女たる私が彼を支えますので、ご心配なく。」


何が起こったのか、私達3人にはわからなかったけれど、これがきっとご都合主義なゲームの強制力なんだろう。

何かに取り憑かれたような2人だったけれども、家族へ断罪が無いのであれば、これで良かったのかな。


…良かったの?

本当に?

あんなに優しかったアルフィン様を…、彼の心を守れなくても?

お慕いしないように避けていたけども、少なからず婚約者として好意はあったと思う。

断罪エンドなんか無い、ゲームとは関係ない世界に生まれたとしたら、ずっと穏やかに暮らせるのであれば、彼との未来もあったかもしれない。

私がどうにかできる世界だったのであれば、王太子妃教育同様、頑張れたかもしれない。

どうにもできない悔しさ。


目の前の愛し合う2人から離れるように、私はお兄様とギルバート様の後ろにいた。

もう私を見る事も無い、王太子殿下とモモが学院長室から出て行った後、兄は私を心配していた。


「両家へは私から報告するから、フィアは心配するな。

こんな浮気者の弟が出来なくてよかった。

そろそろこの場をもうけて下さった学院長が来られる頃だ。

…悲しくとも顔を作れ。

ダリア公爵家令嬢だろう。

一緒に感謝を申し上げよう。」


兄は小さな声できちんと守るからという意思を伝えてくれて、家に恥じないように、公爵令嬢らしく、今を乗り切ろうと背中を押してくれた。


それから、その場へ来られて、大体のことを察して下さっていた学院長から、ねぎらいの言葉を頂き、幼い頃から続く、私の長い攻防戦は終わった。

そして、学院長に場所の提供の感謝を伝えたお兄様は、疲れているだろうと、私に帰宅を促し、自分だけでお父様がいる王宮へと向かわれた。





~王宮~


コンコン

宰相の執務室をノックする音に、決着がついたのだなと悟った父。


「父上、入ります。」


執務室に入ってきたジョシュアに確認する。


「…無事に終わったのだな?」


「はい。

全て王太子殿下側に問題有りだと報告書を作成し、ガーデニア伯爵令息が証人としてサインしてくれました。

あれは…、あの2人の様子は、何か見ていて恐ろしい感じがしました。

ですが、結果的にフィアに少しの落ち度も無く婚約破棄できたので、私としては満足です。」


「そうか。

その…、フィアは大丈夫か?」


聡明に育ったと自負している娘だが、婚約者に裏切られるという、あってはならない状況。

それにも自ら対峙して解決するという娘を心配していた。


「はい、私が後処理をすると伝え、家に帰しました。

王太子殿下と聖女様のあまりにも失礼な態度に、フィアの方から婚約破棄のお願いを申し出たくらい、強かったです。

こちらが心配になるほど、凜としていました。

兄としてはもう少し頼ってもらいたかったのですが。」


泣きもせず、ただ状況を見て、凜と強かったオフィーリア。

これもあの厳しい王太子妃教育の賜だろうか。


「フィアらしいな。

…さて、陛下への謁見の申し込みはしておいた。

その場に、当事者の王太子殿下が出席されるかはわからないが、我がダリア公爵家として、婚約者の父として、正式に話をつけよう。」


「はい、私もお供致します。」


2人は王宮の奥の一番豪華な部屋へ向かった。

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