第9話
仲良し家族が隣国移住まで視野に入れ、王家と対峙すると決めた夜、私はまた夢をみた。
ううん。
夢じゃない?
部屋に漂う、ただならない雰囲気を感じ、ウトウトと眠りにつこうとしていた私は一気に現実に引き戻された。
夜風が吹き込み、音を立てながらカーテンが大きく揺れ、大きな黒い影が見えた。
寝ぼけ眼に、ぼんやりと見ていた私の頭がまた痛み出した。
痛いっ!
え、何?
そして、部屋に響くあの声。
「そなたは何をしたいのだ。
隣国へ移住だと?
そなたが来るべき世界は決まっているぞ、オフィーリア。」
これは現実だし、あの黒い影の方から聞こえているから、そこに存在しているだろう人物に尋ねる。
「だ、誰ですの?」
自分の部屋の中なのに空気が急に重く、冷たくなり、ゾクリと全身が震えた。
「フィア、そなたはいつまで私を待たせる。
あの変な女に力を与え、多少は展開も早くなっているはずなのに、もたもたと何をしている。」
窓側に大きく広がった、真っ黒な影は次第に人の形へと変化していった。
すると、途端に距離を詰められ、目の前に人がいる。
叫びたいのに、その人が纏う圧倒的なオーラに、とてもじゃないけど声が出ないし身体は竦む。
「我が愛しのオフィーリア。」
私の顎に手を添える人。
リアル顎クイ、ヤバいって。
っていうか、愛しのって言った?
ゴクリと息を飲むほど、その人は美しい。
今まで、お兄様や王太子殿下にとイケメン耐性は出来ているはずなのに、誰も少しも敵わないほどに美しい人物。
「…ま、魔王様?」
私はそう自然と口にしていた。
そして、全てを思い出す。
今までモヤがかかっていた部分のスチルが頭に浮かぶ。
あっっっ!!
思い出した!!!
シークレットキャラは魔王様よ!!!!
「早くそなたの世界のことを片付けて来い。
とうに出迎える準備は整っている。
心より愛している、フィア。」
おでこにキスを落とし、また影となり消えた。
キスされたおでこを撫でる私へどんどん流れ込む記憶。
そうだ。
ヒロインが逆ハーレムルートを選んで、上手く全員を堕としたら現れるシークレットキャラ。
それは、とても麗しい魔王様。
そして、ヒロインは対峙するうちに何故だか魔王様の心を癒やして、大満足のハッピーエンドを迎える。
…王太子殿下や他の攻略対象者は当て馬?
私、悪役令嬢オフィーリアは夜会で全員から断罪されて、心を病んで、嫉妬に狂って、闇墜ちしてしまうのよ。
夜会からも公爵家からも居なくなったオフィーリアを魔王様が見つけ、力を与え、オフィーリアは絶望のまま闇墜ちする。
そして、魔王様の手先となり、魔王様の力と反対の光の力を持つヒロインと対峙し、邪悪な存在になり、ヒロインの聖なる力と、そのヒロインを守るお兄様達に殺される。
このルートもお兄様が私の殺害に加わるのね…。
そして、その後はヒロインの思い通り。
だってヒロインの…ゲームをプレイする私達の狙いは魔王様だもの。
魔王様を浄化して、愛し合うようになり、2人は幸せに暮らしましたとさって、ゲームしながらも、ちょっと引いてしまうようなヒロインだったわね。
だって、他の攻略対象者達はその後、2人に仕えるようになって、一生みんなで一緒に暮らしましょうって、そんなのあり得ない。
一緒に暮らしているのに、ヒロインは魔王様とイチャイチャしてる幸せスチルまであったし。
まぁ、魔王様の緩んだお顔も大好物だったけど…。
だけど、悪役令嬢は?
オフィーリアは、王太子殿下を愛しても、お兄様にも愛されようと媚びを売っても、魔王様に助けて貰ったからってだけで邪悪な存在になって、その魔王様の為になろうと頑張っても、どうしても破滅する運命。
それに、ゲームの中のオフィーリアは、家族仲すら最悪だから、父からの愛情も得られない。
そこにはお母様もいないし。
悪役令嬢は愛を求めていただけなのに。
…ってかさ、バカみたい。
何で悪役令嬢だけ、どうやっても罪を負うの?
闇落ちするほど、周りに誰も助けてくれる人はいないの?
それに、今現在の私、オフィーリアもよ。
愛してるって言ってくれてたのに、王太子殿下はモモにご執心だし。
ドレスも私に贈ってくれてたのに、今度はモモに贈ろうとしてるし。
お兄様は…。
今のお兄様からは考えられないから、信じたくは無いけれど。
もしかしたら聖女の力(なーんか光る虹色のやつ)で懐柔されちゃうのかもしれないし、そうしたら私を殺すのよね。
あと、何があっても、闇墜ちとかしたくないし。
闇墜ちしたとしても、魔王様も最後はヒロインを選ぶってことでしょう?
今は、なんでだか私を「愛しのオフィーリア」って言ってくれているけれど、それも浄化されちゃったらわからないもの。
どうして私に近づいてくるのかもわからないし。
…でもさ。
もーーーーーっ!
悪役令嬢にとって、この世界は敵ばっかりじゃない!!
…私は穏やかに暮らしたいだけなのに。
お父様は慰める為に言って下さっていただけかもしれないけれど、私はできることなら隣国で商会を開いて、ずっと家族団らんしたかったのに。
別に王妃の座なんて望んでいないもの。
ただ、愛する家族が幸せで、その中に私も存在しているっていう未来を目指して行動してきただけだもの。
もう、誰を信じたらいいのか、わからない。
結局は強制力ってご都合主義の力が働くのなら、一緒じゃない。
何よ、虹色の光って。
私をこんな環境に連れてきたのは誰?
どうして…。
無駄にイケボの顔面最強な魔王様にドキドキし、そして、自分の境遇にモヤモヤして眠れぬ夜を過ごした。
久しぶりに取り出したノートに新しく書き込んだ現状。
どうやっても婚約させられて、勝手に婚約破棄されるようです。
あの、はにかむ笑顔の可愛らしかった王太子殿下は、成長して、助けてくれたヒロインとイチャイチャしていました。
そして、どうやら魔王様は私をどこかに連れて行きたいらしいですと、そう記した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。