第8話

私は仕事から帰ってきた父にすぐに詰め寄った。


「…お父様。

お話があります。」


「フィア?

そんなに怖い顔をして、どうしたん…

「お父様、聖女様の力が認められたんですか?

候補では無く、聖女様になられたんでしょうか?」


父の言葉を遮るように矢継ぎ早に尋ねた。


すると、一気に父の顔色が変わった。


「そうか。

もう、フィアの耳に入ってしまったのか。」


やはりお父様は知っていらしたのね。

だけど、きっと私を心配して黙っていらした。


「知っていたのは私だけだ。

マリーリカもジョシュアも知らないよ。

これは国家の機密事項だからね。」


そこへ、執事に呼ばれた母と兄がやってきた。


「2人にも話さなければいけないな。

座ってくれ。」


父は私達に着席を促した。


「…実は、聖女様が力を発現された。」


父のその言葉に、母は驚き、兄はやはりそうかという表情をした。

母は宰相としての父に尋ねる。


「…これからどうなるのですか?

婚約は?

フィアが悲しむようなことは?」


私を心配する母。


「父上。

ただでさえ、フィアもわかっているように、殿下とあの女との噂が学院中に広まっています。

フィアのことだって、あること無いこと吹聴されています。

その上、聖女の力までとは…。

きっとまたフィアの居心地が悪い学院になってしまいます。」


お兄様は私の学院での居場所を守りたいと父に話す。


でも、あの女呼ばわりとは失礼ですわよ、お兄様。


家族の言葉に、苦虫をかみつぶしたような表情の父が口を開いた。


「皆に話していなかったのだが、実は先日、殿下の暗殺未遂が起こった。」


「え?」


驚く2人と、スチルを思い出す私。

これは、やはり王太子ルートだ。


「フィアに知らせがいかなかったのは、色々な事情で箝口令が出たからだ。」


暗殺未遂だけなら、本来ならば婚約者である私も呼ばれたはずだ。

でも、聖女の力の発現を確認中であれば、王宮以外の者を入れるわけにもいかないし、知らせることすらできない。

2人が揃って休んでいたことの理由がこれだったんだ。


父は続けた。

「その時、殿下は本当に危なかったらしい。

でも、その場に居合わせた聖女様が強い光を放ち、殿下のお命を救った。

明らかな光の力だ。

私はその場に居なかったが、居合わせた者達によると、殿下が意識を取り戻された瞬間、二人を虹色の光が包んだ…と。」


それは、きっと運命だと、ゲームの力が働いた証拠の光。

白い雪と虹色の光がそれは美しかっただろうな。


「そして、今度、王宮で聖女様のお披露目会が開かれることになった。

もちろん私は公爵家主として、宰相として、絶対に参加しないといけない。

これっぽっちも行きたくないが。

だけど、フィアは無理せずとも良い。

これまで通り、体調不良としたらいい。」


そんなこと本来ならば許されるわけないのに、精一杯私を守ってくれようとしている父が愛しかった。

お披露目会での居心地の悪さを心配してくれた家族。


だけど私は知っている。


「…お父様、私は招待されませんので、大丈夫です。」


「何を言っているんだ?

お前は婚約者だろう。」


静かに父の話を聞いていたお兄様が私に聞く。


お兄様、だって事実だもの。


「本当のことです。

私は今日、学院の中庭でお2人が一緒に居るところを偶然見ましたの。

明らかに以前までのお2人とは雰囲気が違いました。

だから、あの噂は本当なのだと。

そして、お披露目会では殿下は聖女様をエスコートなさりたいと、揃いの衣装を贈るとお約束されていました。」


「はぁ?!」

3人揃って驚く姿に、「まぁ、似たもの家族ですのね」と、不謹慎にも思ってしまった。


でも、そう言いたくなるのもわかる。

揃いの衣装を贈るというのは殿下が聖女にご執心だと誰もがわかる行為だ。


「なっ…。

この前まで煩わしいほどにフィアに愛情を向けていたくせに、婚約者を蔑ろにして、変な光で頭がおかしくなったのか?」


こーら、お兄様。

煩わしいって、思ってても言っちゃダメですよ。


「フィアをずっと想って下さっていると信じていたから厳しい王太子妃教育にも目をつぶっていたのに。

私とフィアの時間を返して頂きたいですわ。

あんな男の母との交流は今後一切致しませんわよ。

王宮へは2度と行きません!」


あんな男の母とは王妃様のことでしょうか、お母様。

それに、王宮で開かれる夜会にお父様だけで行かせるつもりなのでしょうか。


「あんな男の父親を支えていく自信は私も無くなったよ。

いっそ、隣国へ移住して商会でも開こうか。」


おっと…、お父様まで。

それは、もしかして国王陛下のことですか?

さらりと不敬罪。

宰相であるお父様が隣国へ行けるわけ…って。

まぁ、でも、隣国で商会を開くって、それはちょっと魅力的ですわね。


「私はきっと婚約者ではなくなります。

わかっていたことではないですか。」


聖女様候補が現れた時、家族で話したこと。

それが現実となっただけ。


「フィア。

ひとまず、兄である私があいつらの言い分を確認する場を設けよう。

学院長に頼んで、場所を用意するから。

フィアは、自分のしたいようにしたらいい。

聞きたくもなければ参加せずともいい。

その場合は私と、証人として、お前の信頼しているギルバート伯爵令息と共に話を聞こう。

フィアはどうしたい?」


何か普通にギルバート様、巻き込まれてまーす。

まぁ、家族だけでは無く、証人としては伯爵令息の彼以上に信頼できる人はいないわね。

ごめんね、ギルバート様。


「お兄様、私も同席したいです。

他人ごとでは無く、私のことですので、きちんと対応したいです。

お父様、お母様、そんなに心配しないで下さいませ。

だって、私はダリア公爵家の娘ですわ。」


「わかったよ、フィア。

ジョシュア、今回は2人の言い分というか、現状を確認するだけだ。

正式な婚約破棄ともなれば大人同士の話し合いになる。

国王陛下にも謁見しないといけない。

…学院内のことはお前に任せる。」


「かしこまりました。

きちんと報告書を出しますので。」


母も私を心配してくれる。


「聞きたくないような話になったら、外に出ていいのよ。

ジョシュアが冷静に話を聞くでしょうから。

ね?」


「母上、ちゃんとわかっていますよ。

報告する以上、冷静に聞きますので。」


溺愛する妹のことになると冷静さを失ってしまう兄に釘を刺すことを忘れない母。


「ありがとうございます。

お兄様が一緒にいて下さるので、きっと大丈夫ですわ。」


ニコリと笑うと、ダリア家の気持ちは一致団結した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る