第4話
◇
《オフィーリア視点》
どうしても避けられないゲームの強制力。
何か肝心なことを思い出せない。
だけど、大切なことだと思う。
このゲームに関する、とても重要なこと。
皆が寝静まった夜。
眠っていた私は、夢の中に溢れた前世の記憶にうなされた。
これは…悪役令嬢オフィーリアの感情?
王太子殿下を愛しいと感じる気持ち。
そして、私の手を離して聖女と手を取り合う王太子殿下の姿に心が締め付けられ、聖女が憎くて堪らなくなる醜い気持ち。
「私のアルフィン様よ!」と泣き叫ぶ私を、何故だか遠巻きに見ているもう1人の私。
泣き崩れるオフィーリアに誰も手を差し伸べることは無かった。
オフィーリアを冷たい目で見る攻略対象者達の中に、愛するお兄様もいた。
そんな悪夢にうなされて、声を出す。
「…アルフィン様!!」
自分ではどうしようも出来ない未来に苦しくなって起きた。
汗だくになりながら、この先の未来が怖くて、手は震え、心臓はドクドクと音を立てており、不安で仕方なかった。
私が「この世界での現在」をいくら頑張っても、結局は実際にヒロインが現れたように、ゲームの強制力が働くのであれば、やはり、私は彼と会わない方がいい。
先日の入学式で、久しぶりにお顔を見る王太子殿下に、避けてはいたけれど、やっぱりこれでも婚約者。
初めて会った日の王太子殿下の可愛らしい姿を思い出し、懐かしい気持ちになりながら、私は殿下の祝いの言葉を聞いた。
「新入生の諸君、入学、誠におめでとう。」
新入生へ対する言葉を紡がれる姿は堂々とされていて、この国を引っ張って行くであろう王太子としての威厳が見える。
皆が彼の言葉に拍手する。
立派な国王になられるんだろうな。
あんなにも可愛らしい男の子だったのに、今は皆様のお手本として存在されているのね。
…ヒロインが現れた今、1日も早く、婚約者という肩書きを返上しないといけませんわね。
きっと、王宮もそう動いているはず。
私は婚約を早く無かったことにしてもらい、2人を祝福していると伝えなければいけない。
だって、邪魔者だもの。
うん、チクチクする痛みも感じる気もするけど、どうやったって私はこのゲームの物語を害する邪魔者だから。
こうして王太子殿下の…、婚約者からの次の夜会の誘いも丁重にお断りして、私は2人を応援することを誓った。
「公爵家令嬢として、彼とヒロインの結婚式には参加できるように、真摯な態度で…ね。
決してゲームのように虐めたりしないわ。」
王太子殿下とヒロインの邪魔はせず、家族を巻き込んでの断罪を避け、できるだけ穏便に婚約破棄をしていただいてとブツブツ言いながら、私は今後の策略はと考えていた。
◇
そう考えを巡らせていたある日、私は夢を見た。
えっと…、夢?
なのかしら?
妙にざわめく心。
そしてそこに、とても低い、だけど甘い声が聞こえる。
この声、聞いたことがあるわ。
だけど、誰だか思い出せない。
頭も急にズキズキと痛くなる。
前世の記憶を辿り、その何かを思い出そうとしているのに、どうしても掴めないわ。
そんな私のすぐ側で声が聞こえた。
「フィア。」
え?
どなたかしら?
戸惑う私に、その声は続いた。
「フィアは、いつまで待たせるのだ。
そなたは私の元へ来る運命。
運命に従い、闇にのまれてしまえばよいのだ。」
誰?
頭に響く甘美な声。
えっと…、闇って言った?
闇って言葉に心当たりがある。
思い出せないモヤがかかった部分。
だけど、私はこの先のことを知っている。
何度もプレイしている。
この声の持ち主であるシークレットキャラのルートを好んで攻略していたはず。
だけど、どうしても思い出せない私にまた話しかける声。
「そなたを招けるのであれば、この世界の女神とやらに好きにしてもらおう。
フィア。
さぁ、早くこちらへ来い。」
その瞬間、脳裏に、暗く光も無い所へ足を進める私が見えた。
あれは、私…なの?
はい?
何が起きているの?
怖いのに、でも、何だか心がざわめく声を聞きながら、このゲームについて、私の未来について、何か肝心なことを忘れているような感覚に再び陥った。
私を求めるのは、一体誰?
手を伸ばしたら掴めそうなのに、知ることが出来ない存在。
「私の未来は、断罪されるだけじゃない?」
断罪された後、あわよくば修道院に行こうと思っていた。
だけど、今の私にはわかる。
そんな未来は来ないと。
あのゲームの世界でオフィーリアの断罪後に何が起こったのか。
きっと、お兄様に殺害されるルート以外にもいくつかあった未来。
…あ。
逆ハーレムルートのオフィーリアって、どんな最後だったっけ?
特定の攻略対象とだけ結ばれる未来なら、自分だけの断罪や、追放が決まってからお兄様に殺害される未来があったことはわかっている。
だけど、ヒロインが全攻略対象者を攻略したとしたら…、その先の未来の私は?
頭が痛いわ。
その先を思い出そうとするけれども、頭を押さえつけられるような感覚。
再び声が聞こえる。
「フィア。
全部投げ出して、ここへ来い。
そなたの世界では、そなたの管理は出来ない。」
私がいる世界と声の主の世界って、違うってことなのかしら?
だけど、この声の持ち主が誰なのかもわからない。
そして、気配は消えた。
すぐに私は起き上がり、机の中のノートを出した。
オフィーリアの未来をちゃんとまとめてみよう。
あの声の主以外は、何故だか今まで以上に思い出せるキミワタの世界。
私、オフィーリアに関係のあるルート。
まずは、王太子殿下をヒロインが攻略するルート。
これは一番に避けたい断罪。
ヒロインを虐めて、それでも殿下との距離が縮み、婚約破棄されてしまう。
そして、…そうだったわ。
全てをヒロインに奪われて憎しみに満ちたオフィーリアは毒殺未遂するんだった。
大罪を犯した妹を惨殺する兄。
没落する公爵家。
これだけは嫌。
次にお兄様のルート。
そうだったわ。
このルートはまだ私だけの断罪で済む。
だけど、妹を二度と見たくないと兄から修道院送りにされる、その途中で野盗に襲われて死ぬ。
これも、お兄様から嫌われるのね。
だけど、私が死ぬだけで済むじゃない。
だったら、このルートも良しとしましょう。
家族が救えるのだったら、私は何でもいいのよ。
それから…。
あと私が関係あるのは、逆ハーレムルート。
これって、実際出来るのか疑問だけど。
ヒロインが全ての攻略対象者の心を掴み、みんなで幸せってことになる、実際に起こる出来事として考えてみると、何ともアホらしいルート。
この時のオフィーリアは…。
婚約破棄される夜会で、攻略対象者全員から心も身体も痛めつけられる。
そして、絶望し、断罪が行われた夜会からも、帰れなくなった家からも姿を…消すんだった。
これもなかなかのものね。
だけど、ここまでしかわからない。
この後、オフィーリアが死んだのか、生きて平民になったのか、投獄されたのか、それを思い出そうとしてもまた頭が痛くなるだけ。
シークレットキャラが関係するのかしら?
痛む頭に、ノートを片付け、溜め息をついた夜だった。
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