第3話


《アルフィン王太子目線》



その頃、王太子のアルフィンは1学年下の生徒達の入学式に向かう道がこんなにも足取りが軽くなるものかと浮き足立っていた。


これでやっと君に会える。

誕生会などと理由を付けなくても、いつでも君の姿を見ることが出来る。


「今日から、いつでもフィアに会えるのか。」


いつもは部下すら怖がる無表情の王太子殿下が、婚約者殿の入学が嬉しすぎて表情が崩れるなんてあり得ないと、側近でも信じられない様子だった。


「殿下、在校生代表としてのご挨拶だけは気を引き締められてお話し下さいませ。

ちゃんと壇上で、ですよ?

どうか、宜しくお願い致します。」


「…わかっている。

そう不安視するな。

何もフィアの目の前まで行って挨拶しようなどとは思っていないよ。

…まぁ、近くに行きたいのは認めるけど。」


「それと、国賓でいらっしゃる聖女候補者のモモ様もいらっしゃいますので。」


「あぁ、それも…、ちゃんとわかっている。」


自分でもわかっているんだ。


あの日のことを思い返す。

1週間前、突然王宮の森に現れた聖女様候補のモモ。

もしも異世界から聖女様現れた場合、王家との繋がりを持つ為、直径の王族との婚姻が慣例だということも。

そして、彼女と同年代で一番相応しい相手は自分だということも。


だけど、こんなにも想ってきたフィアとの、やっとの想いで勝ち取った婚約は?

彼女との未来を現実にするには、うん。

…まぁ、廃嫡しかないかな。

彼女の実家の公爵家に婿入りするかなと、真剣に考えていた。

幸い、私には弟もいるから、国王の座も聖女様も任せたらいい。

だって、私にはフィアだけだから。

そう考え、ふと側近に尋ねた。


「…あのさ、フィアは私がこの学院にいることは?」


「そのことでしたら、知っておられますよ。

大丈夫です。

タイミングさえあえば、きっとお話もできるかと。」


「そうだな。

うん、楽しみにしておこう。」


側近の言葉を聞きながら、幼い頃より恋い慕うフィアへの気持ちを確認する。

愛していると毎日でも伝えたい。





アルフィンはゲームの存在も知らなければ、ヒロインなども知らない。

オフィーリアが心配することは何も無かったはずだった。

彼は、これまでで一番近くに婚約者を感じることの出来る喜びで溢れていた。

その時はまだ、アルフィンの想いは真っ直ぐにフィアに向いていたのに。


だけど。

そうはいかない。

だってここはゲームの世界。





《モモ目線》



アルフィン王太子殿下の胸中なんて知らないし、オフィーリアが懸念する未来を実行しようなどとも思っていないヒロインは今後のことを考えていた。


ヒロインのモモは、自分が知っているこのゲームの世界で、最推しのオフィーリアをどうやって断罪エンドから助けるかを真剣に考えていた。


「私は別に誰かを攻略したいと思っていないわ。

そう。

私の目的はオフィーリア様の幸せを見守ることだけだもの。

だから、王太子殿下とオフィーリア様が幸せな結婚をされる未来にしなければいけない。

…その為に進むべきルートは、私が誰とも恋に落ちない、友情エンドだけだわ。

そうじゃないと、高確率でオフィーリア様が断罪されてしまうから。」


日本人である、このゲームが大好きだった自分が異世界に転移してしまって、最推しの大好きなオフィーリア様に入学式のあの日、助けて貰った。

王太子殿下の気持ちも王宮にいたら耳にすることがあり、あのゲームとは違って婚約者様を溺愛されているとのこと。


まぁ、現実だもの。

多少違うところはあるよね。

それに、お2人がうまくいくのであれば、それは喜ばしいことだよね。

この世界のヒロインだとしても、オフィーリア様の不幸は見逃せません。

そう考えるモモ。


そのモモの現状はというと、異世界から転移してきたモモは知っている人も居ないし、家も無い。

聖女候補として、特別に王宮に部屋を用意して貰い、そこから同年代の人と交わることができるようにと、特別に入学を認められた学院へ通うようになった。

この世界での必要な教育も少しずつ受けていた。

どの先生だかわからないけれど、言われた言葉に「私はそんなの望んでいない」と反抗したくなった。


「今後、聖女様と認められたら、王太子殿下と婚姻し、王妃様へとなられるかもしれませんのですから、最低限のマナーは身につけて下さいませ。

あの厳しい王太子妃教育をこなされたオフィーリア様から王妃の座を奪われるのであれば、それ以上になって下さいませ。」


そう言い放った彼女は、きっとオフィーリア様に思い入れのある方。

1番厳しい侯爵婦人だった。

モモは別に、オフィーリア様から王妃の座を奪いたいなんて思っても無いのに。


私だって、オフィーリア様の幸せだけを願っているのに。

私の最推しはオフィーリア様なんですからね!と言いたくなった。

教育やら学院での勉強よりも、私は悪役令嬢の断罪を防がないといけない。


入学式の日に、偶然にお会いしたオフィーリア様はゲームの悪役令嬢と私が大好きな容姿はそのままだけど、王太子殿下につきまとうわけでも、嫌われているわけでもない。

理不尽なことも言ってないし、我が儘でも無い。

とても美しく、凜とされた方。

きっと、この世界で幸せになれるはずだ。


だから、私が関わってはいけない。

私が関わってしまったら、ゲームのようになってしまうかもしれない。

どうしても、彼女の未来を守りたい。


最推しであるオフィーリア様と仲良くしたいし近くで存在を感じていたいのをグッと我慢して、極力彼女と接触しないようにした。

だって、私が関われば、あのゲームの世界のようになってしまうかもしれない。


でも…、だけど。

「でも、姿を目に焼き付けるのはいいよね?」

私はオフィーリア様を遠目に見つめ、そっと見守ることにした。





私達の感情など、そんなことはどうでもいいというように強制力が働くなんて思っていない王太子殿下とヒロイン。

そんな2人ともがオフィーリアを想っていた。

だから、モモも王太子殿下と恋に落ちたいとか、オフィーリア様から奪いたいとか、そんなことは少しも思ってもいなかった。

オフィーリアを大切に想っている王太子殿下のことをオフィーリア様親衛隊の同志だとすら感じていた。


だけど…。

このゲームの強制力は登場人物を逃がさない。


王道ルート。

王太子殿下とのハッピーエンドに向けて、世界が動き出す。


ジワジワとゲームの強制力が2人の感情を飲み込もうとしていた。

どうしても抗えない未来。

…それは、モモの聖女の力の発現と共に。


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