大切な話

 頭が真っ白になった。

 風花からここまで求められては……もう断れない、かも。

 けど、それでも俺は。


「ここでしよっか、大切な話」

「そうだな……大切な話を――って、大切な話?」

「ん? なんだと思ったの?」


 俺の勘違いか。

 風花にその気はなかったようだ。なら安心かな。


「いや、なんでもない」

「そっか。でね、実はお姉ちゃんのことなんだけど」

「楓の?」

「うん。もしかしたら、湊も考えているかもだけどさ……」


「え……まさか」


 確かにそれは考えていた。でも、風花に負担を強いることにもなるから、言わないでおこうと思っていたんだ。


「あたしがお姉ちゃんと入れ替わればいいんだよね」


 喋り方がちょっと違うだけで、容姿も体型も完璧に似ている風花なら、バレることもない。だから入れ替わっていれも分からないはずだ。


 この作戦なら楓と会う時間が増える。


「いいのか? それだと風花が大変だろ」

「そこで提案なんだけどさ」

「お、おう。言ってみ」

「お姉ちゃんとの時間を作ってあげる代わりに、あたしとも遊んでよ。それが条件」


 悪くない条件だ。

 付き合ってとかだったら、ちょっと困ったかもしれなかったけど。でも、それなら。


「いいぞ! いくらでも遊ぶよ」

「良かった。じゃあ、決まりだね」


 安心したのか楓は微笑んで、俺の手を握ってきた。楓と違い、風花はスキンシップ多めなだな。けど、そこがいい。むしろ、もっと触ってくれと願うばかりだ。癒されるからな。


「いつからやるんだ?」

「明日から入れ替わってあげる」

「早いな」

「その代わり、今はあたしと遊んでもらうから」

「もちろんだ。危険な遊び以外はなんでもする」

「良い返事だね。それじゃ、さっそくキスしよっか」


 ぐっと顔を近づけてくる風花は、目の前に無防備な唇を晒す。覚悟はできていると言わんばかりに、ゆっくりとまぶたを閉じた。


 って、やっぱりそういう……!


「ちょ、ちょっと待て。いきなりハードルが高すぎる」

「う~ん、あたしは別に構わないだけどなぁー」

「いいのかよ」

「ちょっとくらいなら」


 ちょっとって、そんなお菓子を少し分けてあげるみたいに言われてもな。

 けど良いらしい。

 もちろん、気持ちは嬉しい。

 けれどここで欲望に堕ちれば全てを失う予感がしていた。


 我慢だ、俺。

 耐えろ俺。


「それはいいとして、ゲームでもしようぜ!」

「……なんか誤魔化された気が。ま、いっか」


 再びリビングへ戻るや否や、ソファでべったりくっついてくる風花。

 まるで恋人みたいな超絶ゼロ距離。

 小さな頭をこちらに預け、視線は40インチの液晶テレビに。


 ゲームを起動し、コントローラーを握るが――これは集中できないッ。


「ふ、風花……とても近いんですが」

「だってこのゲーム初めてやるんだもん。優しく教えて」

「わ……分かった」



 しかし、結局ゲームに集中できるはずもなく……。しかも気づけば風花は俺にもたれ掛かって寝ていた。……う、動けん。

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幼馴染がアイドルやめた 桜井正宗 @hana6hana

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