アイドル声優

 雰囲気も和やかになり、少し慣れてきた。

 時間はもう二十時を回った。


「楓、こんなに遅くて大丈夫なのか?」

「まだ平気。門限とかないからね」

「そうなのか。あんまり遅いと事務所の人に言われるんじゃ」

「今日はお休みだから」


 そういうことか。

 だから余裕があるんだなと、俺は納得した。


 風花の方も実家にいるかのように、くつろいでいる。今はスマホをいじっているみたいだし、放っておこう。


「なら、いいか」

「うん。そういえば、湊くんの家族は?」

「あ~、二人とも旅行に行ってしまった。しばらく帰ってこないらしい」

「それは大変。じゃあ、ご飯とかどうするの?」

「出前とかね」


 近所のコンビニでお弁当とか、外食もありだな。栄養は確実に偏るけど、仕方あるまい。


「それじゃあ、作ってあげよっか!」

「え? 楓って料理できるんだ」

「これでも家庭的なんだよ」


 自身満々に胸を張る楓。

 マジか、意外すぎる!

 今までアイドル業で忙しかっただろうに、料理が趣味とはな。


「頼んじゃっていいの?」

「いいのいいの。任せて」

「そこまで言うなら」

「うんうん。じゃあ、台所借りるね」


 楓の料理かぁ……楽しみだ。


 しばらく待っていると、良い匂いが漂っていた。

 これは期待できそうだ。


 そんな中、風花が俺の方へ寄ってきた。ち、近ッ。


「ねえねえ、湊。お姉ちゃんとはどこまでいってるの?」


 いきなり呼び捨てされ、俺はドキっとした。

 てか、どこまでって……!?


「いや、俺と楓はそういう関係じゃないよい。今のところは……」

「そうなんだ。でも、今のところ?」

「……告白はしてないからね」

「そーゆーこと。じゃあ、あたしが湊を取っちゃおうかな~」

「んなッ!?」


 な、な、なんだこの距離感。楓と違い、風花は大胆というか、積極的というか。てか、俺狙われてる!? なんで!?


「ちなみに、あたしもある意味ではアイドルかな~」

「ど、どういう意味だ?」

「声優やってるから、アイドル声優的な?」

「凄いな。声優さんだったのか」

「まあね~」


 透き通るような声だと思ったら、そういうことね。

 ということは姉妹でアイドルだったわけだ。


「風花も凄いな」

「悔しいけど、人気や知名度はお姉ちゃんの方が上だけどね」

「だろうな。でも、声優でも凄いよ。その若さで」

「ありがと。ねえ、湊はどうしてお姉ちゃんに気に入られてるの?」

「どうしてって……。そういえば、考えた事もなかった」


 どうしてだろうな。

 自然というか、成り行きというか。

 気づいたら友達みたいになっていた。


 二人でいるのが当たり前の光景になっていたんだ。でも、もっと昔からこうであったような気さえしていた。運命とは不思議なものだな。


「きっかけは?」

「子供の頃らしい。俺は覚えていないんだけどね」

「そっか。でも、恋愛に過去なんて関係ない。ねえ、とりあえず連絡先交換しよ」


 まさか、ここまでぐいぐいくるとは。

 けど悪い気はしない。

 むしろ嬉しいっていうか。


 俺は風花と連絡先を交換した。


 メッセージアプリにまた女の子が増えてしまった。


 ……よしっ。

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