妹に気に入られた

 家へ上がると両親は不在だった。

 テーブルの上に置手紙があった。読んでみると『今日から新婚旅行に行く。しばらく家を空ける。湊、お前ひとりでがんばれ。おこづかいは十万円を置いておく』と書かれていた。

 親父のヤツ、母さん連れて旅行に行っちゃったのかよ。

 まあいいか。

 丁度いい、さすがに女の子を二人も連れてきたところを見られたら、親父も母さんも卒倒するだろうからな。


 リビングへ案内した。


「気楽にしてくれ」


 楓も風花も座布団に腰掛けた。

 ……凄く違和感。

 こんな光景、今までなかった。

 引退するとはいえ、憧れのアイドルが目の前にいるとか。しかも、妹さんまでいるという異常事態。


 いかん、意識したら心停止しそうになった。

 気を紛らわす為に茶でも淹れにいこう。


 台所へ向かい、俺は玉露を用意。集中してお茶を淹れていると、おかげで冷静を取り戻すことができた。そうだ、落ち着け俺。

 楓とはもう、そこそこの付き合いじゃないか。

 今更なにを緊張する必要がある。


 湯飲みを持ち、俺はリビングへ。


「おかえり、湊くん」

「こんなものしかないけど、お茶」

「ありがとう」


 風花の分も渡す。

 彼女は、楓よりも気が強いのか「ありがと」と少しツン気味に礼を言った。そういえば、性格は似てないな。

 さすがに性格まで一緒だと、それこそドッペルゲンガーだ。


 いや、そんなことよりもこの状況だ。

 もともとは楓と二人で今後のことを話すつもりだった。それがまさかの妹さんも付属するとは予想だにしなかった。


 なにを話せばいい……。


 うーん……。そうだ、重要なことを忘れていた。


「えっと、苗字で呼ぶよりも名前の方がいいよね?」


 風花に確認すると、彼女はうなずいた。


「そうだね。安楽島って呼ばれると、どっちか分かんないし、あたしのことは特別に風花って呼んでいいよ」

「それは良かった。じゃあ、よろしくね、風花ちゃん」

「呼び捨てでいい」

「りょ、了解」


 やっぱり楓とは少し違うらしい。でも、特別に許しを得たし、そんなに悪い印象はないようだ。


「ところで、風花はなんで日本に? 海外にいたんじゃ?」

「海外? ああ、あれね。あれは合成だから。ほら、今そういう技術って凄いし。グリーンバック合成とか」


 まさかのグリーンバックだったとは。編集だったのかよ……!

 そのことは楓も知らなかったようで唖然としていた。


「風花、そういうことだったの!?」

「あのね、お姉ちゃん。いくらなんでも短時間で海外に行くとか無理だから」

「そ、そっか。ごめんね」

「謝らなくていいよ。お姉ちゃんの為だもん」


 ほぅ、どうやら風花は姉思いらしい。


「おかげで助かった」

「いいのいいの。それよりさ、湊くんだっけ」


 ニヤっと笑い、こちらを見る風花。

 なんか企んでいるな。


「な、なんだい?」

「あたし、お姉ちゃんのお気に入りの男子がどんな人か気になっていたんだ。ちょっと予想が外れたっていうか、うん、面白いじゃん」


 それって好印象ってことでいいのかな。

 でも、こうして普通に話してくれているし……今のところは合格点っぽいかな。

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