二人のアイドル
このままだと周囲の人間が殺到しかねん。
大事になる前に俺は、楓の手を引いて駅を後にした。
……ふぅ、なんとか撒いたな。
「危なかったな」
「変装しても気づかれちゃうなんて」
「ファンの目は誤魔化せないってことかね」
道路を歩き、とにかく人気のない場所へ急ごう。
「そこの公園にする?」
「そうだな。そこならそんなに人も――って、危ない!!」
いきなり軽トラが突っ込んできやがった。俺は楓を抱えて
ていうか、わざと突っ込んできていなかったか!?
軽トラは逃げるように去っていく。
なんだったんだ?
「び、びっくりした」
「楓を狙っていたのかな」
「まさか……」
やはり、楓は狙われやすいようだな。俺がしっかりしないと。
公園に入って、空いているベンチへ座った。
「……今日は楓がいなくて退屈だったよ」
「そう言ってくれて嬉しい。わたしも同じ気持ち」
自然と見つめ合うような形になり、俺はドキリとした。……ヤバい。楓が可愛すぎて胸が辛い。
「と、とにかくこの事態を収める方法を考えないとな」
「アイドルを引退するしかないと思う」
「それしかないよな」
「うん、いいの。湊くんと一緒になれるのなら、惜しくない」
「ありがとう。じゃあ、秋までがんばるしかないか」
「そうだね。共に力を合わせて乗り切ろう」
今できることをしていこう。
それしかない。
その後、少し雑談も交えて今後のことを話した。
「ああ、そうだ。今度、どこかへ遊びに行かないか?」
「いいね。デートしよっか」
「デ、デート!?」
「うん。してみたいから」
まさかのデートのお誘いだと……!
断る理由なんてない。
俺は即返答した。
「分かった。デート、しよう」
「やった! 決まりだね」
そんな和やかな空気の中だった。
茂みの奥からガサガサと音がして、俺はビックリした。
「な、なんだ!?」
驚いて様子を見ていると、そこから人間が姿を現した。男だ。
「……やはり、ここでしたか」
「
楓がその名を口にした。
どうやら知り合いらしい。
誰だよ、このイケメン。
「安楽島さん、そろそろ帰らないと」
「も、もう少しだけ……」
「ダメです。社長との約束でしょう」
楓の腕を掴む尾道とかいう男。
俺はその強引な行為にムッときた。
「楓が嫌がっているだろうが!」
「なんだ、君は……?」
「俺は、東山。楓とは同級生なんだ」
「それで?」
「そ、それでって……。手を離せ」
「君は関係のないことだ。早々に立ち去れ」
鋭い目つきで俺を睨む尾道とかいう男。なんだ、この自信満々な目つき。気に食わねえ。
「断る」
「断る? 馬鹿かい、君は。僕はね、この安楽島さんの専属の運転手なんだよ。仕事の邪魔をしないでくれないかな」
そういう関係か。
「尾道さん、わたしと湊くんは大丈夫です。それに、歩いて帰りますから」
「そういうわけにはいきません。最近、物騒な事件も多いですし」
楓は明らかに嫌がっていた。
なら俺のやるべきことはひとつ。
「やめろと言った」
「……貴様、僕の邪魔をしたいようだな。だが、貴様のような一般人には何も出来ない。所詮、アイドルと一般人では天と地の差がある。そうだ、貴様に彼女は相応しくない。消えろ!」
「なら、こうするしか!」
「なんだ、暴力か? そうかそうか、一般人は直ぐ暴力で解決しようとする。なんて野蛮……! けどな、僕を殴れば直ぐに通報して警察に突き出してやるからな! 覚悟しておけ――ごふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
突然、尾道の顔面がグニャグニャに曲がると、ヤツは地面に何度も体を打ちつけて飛んでいった。
……お、俺じゃないぞ。
確かに、ちょっとグーは出そうになったけど抑えていたし。
いったい、誰が?
「え……楓が?」
「ち、違う。わたしじゃないけど……あれ、まさか」
俺は自分の目を疑った。
目の前には、楓が“二人”いたのだから。
な、なんだこりゃ……!
楓が分身してる!!
「まったく、お姉ちゃんは相変わらず変なヤツに絡まれやすいんだから」
呆れた口調で、その楓は……いや、違う。
彼女はまさか、噂の妹さんでは!
「
やっぱり妹さんか!
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