これからどうしよう
直ぐに電話に出た。
『湊くん、今大丈夫かな』
「もちろんだ。てか、楓の方は大丈夫なのか?」
『今、事務所に止められて学校へ行けないんだ。ごめんね』
やっぱりか。
前川さんの情報は正しかった。
なぜ知っているか企業秘密で聞き出せなかったけど。
「いつ来れそうなんだ? 会えたりしない?」
「学校はしばらく行けないかな。会うのは出来ると思う。……ていうか、会いたい」
なんだか寂しそうに楓は言った。
俺もだ。
俺も楓に会いたい。
「どうすればいい?」
「放課後、駅に来て。そこで会おう」
「分かった。必ず行く」
「うん。じゃあ、電話バレるとまずいから、じゃあね」
そこで通話は切れた。
そうか、無理して電話をかけてくれたんだ。見つかったらきっと事務所の関係者に止められるだろう。それなのに楓は俺に会いたいと言ってくれた。
こんな嬉しいことはない。
今はただ、時間が経つのを待つしかない。
午後の授業を淡々と受け、けれど俺は楓のことを考えていた。そう、授業の内容なんて入ってくるわけがなかった。
そうして、やっと放課後を迎えた。
「ちょっと待ってください」
立ち上がろうとすると前川さんが声を掛けてきた。
「すまん、急ぎなんだが」
「分かっていますよ。安楽島さんに会いに行くのでしょう?」
「なんでもお見通しか」
「ええ、まあ」
否定しないとか、どんな魔法を使っているんだか。……もしかして、盗聴されてる?
「じゃあ、俺は行くから」
「ちょっと待つのです」
「どうして止める?」
「私の連絡先、教えておきたいのです」
スマホを目の前に突き出される。画面にはQRコードが。なるほど、友達登録しろってことか――って、マジか!
これは想定外すぎる。
しかも前川さんからお願いされるとは……明日は嵐か?
「わ、分かったよ。確かに、前川さんと連絡できると何かと便利そうだし」
「そういうことです。困った時は株式会社・前川にご連絡を」
そんな会社名なのか……。
なんだかウソ臭いけど、俺は前川さんの連絡先をゲットした。
学校を飛び出して駅へ向かう。
ひたすら前を走っていく。
普段運動なんてしないから、息が上がってくる。苦しい。でも、楓はもっと苦しいはずだ。
最近、事件が起き過ぎた。
しかも学校も行けないとか、相当なストレスを抱えていてもおかしくない。
俺なんかで少しは気分を晴らせてもらえればいいのだが。
横断歩道を渡り切ると、駅前にある
「楓、だよな?」
「あっ、湊くん!!」
立ち上がる楓。サングラスにマスクという怪しい変装をしていた。服装も夏前にしては厚着で暑苦しいぞ。
「約束通り会いに来た」
「うん、きちんと約束を守れる人は尊敬する」
上機嫌に笑う楓は、隣に座るように促してきた。俺は従い、楓の横に腰掛けた。
「世間は安楽島 楓の動きが気になって仕方がないようだぞ」
「知ってる。ニュースサイトで連日話題になってるもん。でも今は妹が上手くやってくれているから……多分大丈夫」
ああ、そういえば楓には双子の妹がいるんだった。そっくりすぎて見分けがつかないんだよな。
「これからどうする?」
「もちろん、アイドルは辞めるよ。秋には引退になると思う」
「もうちょい先か」
「直ぐってわけにはいかないからね。事務所との都合もあるし」
それもそうか。まだライブが残されていたり、これから発売する写真集とかCDもあるようだし。
「分かった。いつでも俺を頼ってくれ」
「ありがとう。じゃあ、さっそく頼っていい?」
「え?」
油断していると楓が俺の手を握ってきた。
小さくて細い指が絡んできて、心臓がバックンバックンと高鳴った。……楓の手、こんなに小さいのか。
「ど、どうしたんだよ……」
「元気を吸収中~」
「そ、そうなのか。俺のエネルギーとか闇属性だと思うぞ」
陰キャ的な意味でな。
「大丈夫。湊くんから貰えるパワーは、わたしにとって高魔力だからね」
「楓はそういうゲーム系やるんだ」
「アプリゲームでね」
「そういうことか」
そこで話が止まった。
手は握られていて……まるで恋人みたいだ。
こんな風に二人きりの時間を平和に過ごせるだなんて夢のようだ。
けれど周囲はそうではなかった。
次第に変装している女子が安楽島 楓であるとバレはじめていた。変装しているのに……ウソだろ?
「あれ、安楽島じゃね?」「うんうん、あの独特なオーラは間違いない」「そうだよな。隣は彼氏?」「噂の?」「え、マジかよ」「うわ~、小さくて可愛い」「サングラスしていても、あの大物感は隠せないよな」「ちょっと確認してくる!」
楓のオーラってそんな凄いの!?
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