怪しいハイエース
そんな話をほのぼのとして――ゲームセンターでも行くことにした。
せっかくの二人きりだ。
デート気分でも味わいたい。
しかし、公園を出たところにハイエースが止まっていて、その中から目出し帽を被った怪しい男が出現。屈強な大男が楓の腕を掴み、車へ押し込めた。
って、人さらい!?
「た、助けて!!」
「楓!!」
俺は楓を救出しようとしたのだが、背後から現れたもう一人の男に気づかなかった。警棒みたいなもので殴られ――俺は意識を失った。
「…………馬鹿な男め」
そんな声が聞こえた。
「うぅ」
見えない。
なにも聞こえない。頭がガンガンする。このまま死ぬのか俺は。
しばらくして体を揺らされていることに気づく。
『……起きて。起きてください、東山くん』
「ハッ!?」
目を開けると、目の前に前川さんの顔があった。って、あれ!? 俺、前川さんにひざまくらされてるぅ!?
「気づいたようですね」
「前川さん!? ここどこ!?」
「公園ですよ。東山くんは公園の前で気絶していたんです。誰かに殴られたんですかね、頭にコブが出来ています」
……殴られた?
そうだ!!
「楓が連れ去られた! ハイエースに押し込められて……それで」
「本当ですか……? だとしたら大変です。直ぐに警察を」
「そうだな。すぐに通報しよう」
スマホを取り出すと、すぐに着信があった。なんだこれ、非通知?
出てみると。
『……小僧、気づいたか』
機械音声だ。
まさか、楓を連れ去った男達か。
「女の子は無事なんだろうな」
『ああ、今のところはな』
「要求はなんだ」
『身代金だよ。一千万用意しろ』
んな、むちゃくちゃな!!
俺個人で用意できるわけがない。学生だぞ俺は。
「そんな大金どうしろっていうんだ」
『学生には無理だろうな。だが、この女はアイドルの安楽島 楓のはずだ。事務所に連絡して出させるんだ。さもないと女の命は保証できない』
なるほど、楓がアイドルと知っていての犯行というわけか。ずっとつけられていたのか。
とにかく、救出するために取引に応じるしかない。
「分かった。一千万円だな」
『そうだ。この街の港にあるB倉庫へ来い。そこで取引だ』
「B倉庫……そこへ行けば――」
そこでガチャっと通話が切れた。
くそっ!
「なんだか危険な香りがしますね」
「前川さんは帰った方がいい」
「いえ、私も手伝いますよ」
「しかし……」
「こういう時は人手が多い方がいいでしょう。それに、一千万円が必要なのでしょう?」
「お金はないよ……。手ぶらで乗り込むしか」
「大丈夫です。私に任せてください」
「え!?」
どこかへ連絡する前川さん。少しすると公園の前にリムジンが現れ、黒服がこっちにやってきた。今度はなんだ……。
黒服は、アタッシュケースを開けた。
その中にはぎっしり詰まった札束が……嘘でしょ。
「これ、私のお金」
「ちょっと待て。前川さんって何者だよ!」
「今は言えないですが、この事件が解決したら真実を話しましょう」
「きちんと話して貰うからな!」
「ちなみに、黒服の方達のコードネームはお酒だったりします」
どこかで聞いたような設定だな!!
まあいいや、それよりも今は楓の救出だ。
前川さんのリムジンで移動させてもらえることになった。
俺は人生ではじめて高級車に乗ってしまった。こんな形で経験することになろうとは。
港へ向かい、B倉庫へ。
すると見覚えのあるハイエースが止まっていた。
きっとこの倉庫の中に楓が……。
「行って来るよ、前川さん」
「分かりました。なにかあれば助けますので」
「……悪いな」
アタッシュケースを受け取り、倉庫内へ。
てか、一千万が入っているんだよな。
前川さん、よく貸してくれたものだ。
半開きになっているシャッターをくぐると、そこには――。
「よく来たな、小僧」
怪しい仮面を被った男が立っていた。
な、なんだこいつ……。
しかも銃を向けてきた。
本物か?
「フカヒレ……」
「馬鹿! これは
「……」
「早くしろ!」
渋々俺はアタッシュケースの中身を見せた。
中身はもちろん本物の札束だ。
「約束通り身代金は用意した。楓は無事だろうな!」
「ああ、無事さ」
指を鳴らす仮面の男。
すると奥からロープで縛られ、目隠しされた状態の楓が連れてこられた。……良かった、無事だ。
「楓、今助けてやるからな」
『……!』
仮面の男に俺はアタッシュケースを手渡した。次に楓を。
「楓!」
「湊くん……! 助けに、来てくれたんだね……」
怖かったのか、涙目で楓は俺に抱きついてきた。ほんと無事でよかった。
「当然だろ。それより、直ぐに帰るぞ」
「うん」
シャッターの方へ向かおうとすると、仮面の男が立ちふさがった。
「ちょっと待て」
「な……なんだよ。約束の一千万は渡しただろ」
「確かに受け取った。だが、その女が本物の安楽島 楓と分かった以上は返すわけにはいかない」
男は仮面を脱いだ。
すると、見覚えのある顔で俺はビックリした。
この男、あの記者の……。
ピックアップ・芸能ニュース記者!!
そういうことだったのか。この男……!!
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