アイドルの秘密
学校を抜け出し、俺と楓は近くの公園へ。
「さて、これからどうしよう?」
「湊くんの家へ行くとか」
そんな提案に俺は驚きを隠せなかった。マジかよ。
いや……悪くはない。
正直、楓を家に招くとか願ったり叶ったり。
それに何か思い出せるかもしれない。
なのだが。
「でもいいのか。ファンに勘違いされるんじゃ」
「確かにまだ完全に辞めたわけじゃないから心配だけど、でも大丈夫。この変装セットがあればバレないから」
ポケットからサングラスを取り出す楓。なるほど、それで変装するわけか――って、怪しすぎ! 制服にサングラスって誰がどう見ても不審者でしかない。
これは補導されてもおかしくない。
「それ、止めた方がいいかも」
「似合わない?」
「かえって怪しすぎる」
「そかぁ……私服の時は似合うんだけど」
そりゃそうだ。
などと思いながらも、俺は自宅へ向かうことを決めた。よくよく考えれば、この公園に留まっていることもリスクでしかない。
楓は有名人なのだから、気を付けないと。
また変なのに絡まれたくない。
「じゃあ、行くか」
「ホント!?」
「ああ……」
内心、緊張しまくって心臓バクバクだとは言えないけどなッ。
てか、女子を連れ込むとか人生で初の出来事。緊張しないわけがない。
つい意識してしまうと、楓の目が見られなくなった。
「どうしたの、湊くん」
パチリとした大きな瞳を俺に向けてくる。
宝石のようにキラキラしていて……
しかし、これ以上はまぶしすぎて直視できない。
「いや、なんでもない。家へ来るんだろう……早く行こう」
「もちろん。でも、湊くんさっきから目が泳いでいるっていうか」
ぐいっと顔を寄せてくる楓。あまりに近くて吐息が掛かる距離だった。
……うぉッ、唇が間近すぎる。
キスできる距離だ。
もしかして、俺遊ばれてる!?
「か、楓……近いって」
「そうかな」
「く、唇が目の前なんですけどっ」
「あと数ミリもないかもね」
もう触れそうなギリギリ。
俺は心臓が高鳴りすぎて破裂しそうだった。
このままご臨終もありえるぞ!
だが、楓に看取ってもらえるのなら本望だ。
そんな時だった。
『……パシャッ』
と音がして、その音の方向へ顔を向けると誰かがスマホのカメラを向けていた。
ちょ、盗撮かよ。
その盗撮野郎は、ニヤニヤ笑いこちらへ。
「どうもどうも。これは良い現場を見られました」
「撮ってんじゃねーよ。消せよ」
「そうはいきません。私、こういう者でしてね」
名刺を渡してくる男。
そこには『ピックアップ・芸能ニュース記者』の文字が。
こ、こいつは……!
ネットニュースでもむちゃくちゃ書いてる会社じゃないか。たびたび炎上しているのを目にする。
つまり、この男は楓のスクープを狙っているんだろうな。って、まさか。今のシーンをネット記事にする気か……! そんなことをされたら、俺も楓もいろんな意味で立場が危うくなる。
「写真をどうする気だ」
「そりゃもちろん、交渉次第といったところでしょうか」
悪魔のような笑みを浮かべる記者。
くそっ、下手なことを言えば、あることないこと書かれるだろう。なんとかしないと。
焦っていると楓が余裕の笑みで笑った。
「記者さん? なにか勘違いされていませんか?」
「……え?」
「わたしは一般人ですよ。……ああ、もしかして話題のアイドルの安楽島 楓さんと間違えました? 確かに、よく似てるって言われます。でも、違うんです」
「いや、どう見たって安楽島さん本人でしょう」
「残念ですが、わたしはソックリさんの他人です。だって、安楽島さんは今海外にいるんですよ」
ほらと、SNSを見せる楓。
そのアカウントは楓のものではなく、なにやら偽名のものだった。サブアカウントかな。なんにせよ、こういう記者を誤魔化す為のものらしいと俺は察した。
それにしても、そのSNSは本当に楓が映っていた。
場所はハワイらしい。
どういうことだ?
昔の写真なのかな。けど、投稿日の日付は今日で間違いなかった。
「そ、そんな……!」
記者も驚きを隠せなかった。
てか、記者ならちゃんとSNSくらい追っておけよ。
「そういうわけですから、さきほど無断で撮影した写真は削除しておいてくださいね」
「……ぐっ」
しぶしぶ記者は写真を削除した。
……ホッ、助かった。
それから記者は腑に落ちない表情で去っていく。
「凄いな、楓」
「まあ、慣れてるからね。こういう時、対処できるようにサブアカウントを作ってあるんだ」
「やっぱりか。でもさ、ハワイにいる楓は何者だ? 合成写真?」
「合成じゃないよ。本物といえば本物かな」
「え……どういうこと?」
「ずっと隠していたんだけど、湊くんだけに教えるね。実は、わたしには双子の妹がいるんだよね。そっくりでさ、たまに入れ替わっているんだよね」
「なにィ!?」
し、知らなかった……!
楓に妹がいたんだ。
そうか、妹さんが変装して誤魔化していてくれたんだ。すげぇや……。
しかも、妹さんは海外で活動しているモデルなのだとか。これは驚いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます