あなたに会いたい
「あんた、最初からそのつもりで!」
「さあ、どうかな。それよりも、交渉といこうか」
「交渉だと?」
記者の男は、そこへ座れと促してきた。
ふざけんな。一千万を払ったのに……まだ何か求めてくるのか。
「いいのか? このままでは安楽島の命はないぞ」
「くっ……分かった」
渋々ながらパイプ椅子に腰かけた。
「さて、話だが……ぐおッ!?」
「「え!?」」
いきなり鈍い音がして記者の男が倒れた。よく見れば周囲にいた仲間の男達も地面に伏せていた。まて、なにが起きた。
周囲を見渡すと、そこには前川さんの姿があった。
「身代金を受け取っておいて、更に求めようとするとは愚かです。ていうか、一千万円は返してもらいますよ」
「ま、まさか……この男達全員を前川さんがやっつけたのか?」
「そうですよ。これでも私、軍に所属してたことが――って、それはいいですね」
今物凄く気になることを言われた気が。軍がどうとか……? いや、高校生だよな。
「ありがとう、前川さん!」
「安楽島さん、ケガない?」
「おかげで助かった」
「そかそれはよかった」
安堵する楓。
しかし、気絶していた記者の男が立ち上がり、楓の足首を掴んだ。
「きゃ!?」
「私は諦めんぞ!! 安楽島、お前だけでも連れ去って金を手に入れてやる!!」
この男、しつこい。
俺は手刀を記者の男の首に入れた。
「くらえッ!」
「ぐほっ……」
「これで倒れたか」
ふぅ、前川さんのおかげだけど何とか助かった。
「湊くん、ありがとねっ!」
「いやいや、俺はなにも。前川さんが一千万円を用意してくれたおかげだよ」
「い、一千万円!?」
身代金を要求されたことを伝えると、楓はビックリしていた。自分がまさかそんな犯罪に巻き込まれるなんて思わなかったらしい。
まあ、そりゃそうだよな。
本人はアイドルを辞めたつもりでいるから。
でも、まだ世間はそうではない。
安楽島 楓はまだ、アイドルを辞めていない。
その後、恐ろしい数のパトカーが集結してB倉庫は取り囲まれた。刑事さんも駆けつけてきて、前川さんに挨拶していた。……何者だよ、前川さん。
「お嬢、これはいったい……」
「お疲れ様です、十字刑事。友達が連れ去られて、身代金を要求されたんです。犯人はこの気絶している男達ですね」
「なるほど、逮捕だ」
警察がすぐに男達を逮捕。
手錠をかけて強制連行した。
状況飲み込むの早ぇなおい。
俺と楓も事件のことを刑事さんに伝えた。十字という刑事は、理解が早くて瞬時に処理が進んだ。
それからほどなくて、俺たちは解放された。
前川さんのリムジンに乗り込み、家まで送って貰った。
「何から何までありがとう、前川さん。てか、君はいったい何者だよ」
「女には秘密がある方が美しいって言いますからね。ナイショにしておきます」
そういう歳かね。
まあいいか、おかげで助かったのだから。
家に到着して、俺は楓と前川さんと別れた。
到着早々、親父と母さんが飛び出して来て凄く心配していた。
「なにがあった、湊!」
「ママもパパも心配したのよ!」
「すまん。事情はあとで話すから」
部屋に戻り、俺は“紙切れ”を思い出した。
そういえば楓から貰ってから中身を確認していない。
なんとなく紙を開けてみると、そこには楓の連絡先が書かれていた。……な、なんですと!?
俺はてっきり、冗談か何かと思っていて気に留めていなかったんだが、マジかよ。
直ぐに登録して、俺はメッセージアプリを飛ばした。
すると反応が返ってきた。
楓:やっと登録してくれたんだ!
湊:気づくの遅くなった。ごめん
楓:いいよ~。今日は助けて貰って嬉しかったし
湊:巻き込んで済まない
楓:なんで謝るの?
湊:俺と関わるようになってからトラブル続きだろ
楓:そうかもね。でもその方が人生に刺激があって退屈しない
湊:馬鹿。今日は危なかったんだぞ
楓:ごめんね。不謹慎だったよね
湊:分かってくれればいい。でも、これからも楓のことは守るから
楓:嬉しい。早く湊くんに会いたいな
俺に会いたい……なんて嬉しいことを言ってくれる。それだけで頑張った甲斐はあったと言える。俺だって直ぐに楓に会いたいし、言いたいこともたくさんある。
言いたいと……ああ、そうだ。
無料電話をすればいいんだ。
湊:少し電話していい?
楓:……こ、心の準備が
湊:俺も初めてで緊張してる
楓:分かった。やってみよ
決まりだ。
俺は震える手で【電話】アイコンを押した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます