人生が変わった
カッターナイフを振り回してくる倉田くん。
やべぇ、目が殺人鬼だ。
「ちょ、おい! 冗談はよせ!」
「冗談なものか! 東山、お前をぶっ殺してやる!!!」
目が血走ってやがる。
これは本気じゃないか!
楓を巻き込まないよう、俺は席から離れていく。
しかし、倉田くんは予想外の行動に出た。
「きゃあ!?」
なんと楓を人質に取ったんだ。
「ちょ……ウソだろ!!」
さすがにクラス内も騒然となった。
「おい、倉田が安楽島さんを!!」「カッターナイフが首元に!!」「やべぇぞ!!」「先生を呼んでこい!」「警察も呼んだ方がよくね!?」「これマジでヤバイって」「倉田、やめとけって!!」
みんなも倉田くんに呼びかけるが、彼は聞く耳持たずだった。
楓の喉元に刃をつきつけ、狂気で俺を睨みつけてくる。
「東山……お前が、お前が悪いんだぞ」
「はぁ? なんで俺のせいなんだよ。お前、頭おかしいんじゃねーの」
「んだとォ!?」
本当のことを言うと倉田くんは興奮してカッターナイフを振り回した。くそ、危ないな。
楓はというと抵抗もできず身動きできない状況だ。今にも泣き出しそうだ。なんとかしてやりたい。
そんな中、女子がスタスタと歩いて来て、俺と倉田くんの間に入った。この人は、俺の前の席の前川さんじゃないか。
「ちょっと東山くん、これはどういうことですか」
「ど、どういうことって見れば分かるだろ。楓――いや、安楽島さんが襲われているんだよ」
「なるほど。……では、倉田くん! 代わりにこの私を人質にしなさい!」
「「はあ!?」」
さすがの俺も倉田くんもビックリした。
前川さんがまさか人質交代を名乗り出たのだから。
なんなんだこの人。
「ふざけんな、前川! お前みたいな委員長タイプの堅物女子は嫌いなんだよ! 帰れ!」
「ん? それ、私のこと?」
「そうだよ、お前のことだよ!!」
「そうだったの!?」
「なんで意外そうにするんだよ! 前川、お前はそういう風に見られてるんだよ! この鈍感!」
しかし、前川さんはショックを受けるわけでもなく、むしろ頭の上に『?』を浮かべていた。も、もしかして前川さんってアホなのか。
って、そんな場合じゃない。
一刻も早く楓を助けないと。
そうだ。前川さんのおかげで倉田くんが油断している。今しかない。
「倉田くん、悪いが怒りの鉄拳制裁をさせてもらう!! 正当防衛の名のもとにな!!」
グーを繰り出し、俺は一気に距離を縮めていくが――。
「もおおおおおおおおお、東山くんの、浮気ものおおおおおおおおおおおおお!!!」
突然、楓が叫び出した。
驚くべきことに、倉田くんの胸倉を掴んで放り投げたんだ。
へ……!?
「ほんぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………!!!」
ドン、バコンっと物凄い音を立てながら、倉田くんは机や椅子に叩きつけられた。
「え……」
今、楓のヤツ……倉田くんをブン投げたよな!?
立ち尽くしていると楓がこっちに飛びついてきた。
「怖かったよぉぉ! 助けてくれてありがとう、湊くん!!」
わんわん泣いて俺に抱きついてくるが――マテ。今、助けたっていうか……楓が自分自身を助けたというか。
俺なにもしてねえええ!!
呆然としていると前川さんがボケっとした表情でこう言った。
「東山くん、この倒れているモヤシ男はどうしましょうか」
「と、とりあえず……先生に事情を話そう」
なぜか前川さんがテキパキと事を進めてくれたおかげで、事情が全て担任に伝わった。
倉田くんは警察のお世話になることになった。
しばらく帰ってくることはない。
休学――下手すりゃ自主退学もあるかもしれないということだった。
……自業自得だ。
* * *
あの事件以降、俺はなぜかクラスの人気者になってしまった。
「ねえ、東山くん。今日空いてない?」「倉田くんをお払ってくれて助かったよ~」「アイツ、私にもストーカーしてたのよ」「目線がキモかったよね~」「ていうか異常者よ、あれ。カッターナイフで安楽島さんを脅すとかさ」「捕まって当然じゃん」
俺の机周辺に女子たちが群がっていた。
それに男子も俺を認めたようで、積極的に話しかけてくるようになった。
「おい、東山。遊ばないか?」「お前、安楽島さんとの仲、今どうなっているんだ?」「ゲームしようぜ、ゲーム」「倉田をボコってくれてスッキリしたぜ」「野郎、俺の彼女にも手を出そうとしていたからよ」「東山って度胸あったんだな!」
なにこれ……。
ウルトラぼっちの俺がなぜ、こんなことに!?
永遠に孤独で、孤高な存在と思われていた俺が……まさかのまさか、人生が変わってしまった。
倉田くんの件は、どう見ても俺の成果ではないはずだけどなぁ~。まあいいか、おかげで息苦しい学生生活から、快適でストレスのない最高の日々を送れるのだから。
なによりも女子からモテモテなのは意外すぎた。
永久にないと思われたモテ期が到来したのだ。
しかし、俺が一番気になるのは楓だ。
だから……。
俺は席を立ち、楓を連れていった。
廊下へ出て振り向くと、楓は耳まで赤くしていた。……お、俺だって恥ずかしいってーの。かなり思い切った行動だったと思う。でも、あの状況では話したいことも話せない。
「楓、静かな場所へ行こう」
「うん、わたしも話したいこといっぱいある」
「じゃあ、私も」
「そうそう、前川さんも……って、前川さん!? 君は来なくていいって!」
「そうですか、とても残念です」
なんか絶望的な表情だな、オイ。
なんでそんなに落ち込む!?
いやいや、そんなことよりも、先を急ぐか。
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