朝とコーヒーと黒の華
春羽 羊馬
朝とコーヒーと黒の華
〔ピピピ、ピピピ、ピピピ〕
真っ暗な部屋で、デバイスのアラームが鳴り響く。
ベットから伸びる手が、手さぐりにデバイスのアラームを止める。
ベットから起き上がる少女。
AM 5:10
ベットから出る華。部屋の電気も付けず慣れた手つきで朝の
外に出ると少しばかり明るい。
華は数分歩くと路地裏に入って行った。
少し歩くと左側に3つの自販機があり、左から順に赤、青、黒色のモノが並んでいる。華は、迷うことなく黒色の自販機の前に立ち、デバイスを自販機にかざした。すると商品を映していた画面が真っ白になった。その後〔OK〕の文字が表示され、ゆっくりと自販機が開いた。中は暗く階段が下に続いていた。華はデバイスのライトを起動させ、下へと降りて行った。少しあと自販機は、ゆっくりと閉まった。
階段を下り終えると広い場所に出た。
横一列に並んでいるゲート、上の電子モニターには時間と行先が表示されている。階段を下りた先は、駅の改札だ。
華は、デバイスをかざし改札を通ってホームに出た。1分程待つと列車が来た。列車には、〔
列車に揺られること約10分。列車は、目的地である鳥花町に着いた。
列車から降り、改札を出て階段を上る。扉を開けると、どこかの路地裏に出た。
華が、出て来たのを確認すると自販機の扉はゆっくりと閉じた。
表通りに出て歩くこと数分。華は、ある店の前で足を止めた。
店には、【
古風な見た目の店で、扉には【CLOSE】の札が掛けてある。店前の立て札には、【コーヒーのおいしい喫茶店守花。毎日9:00開店。19:00閉店。】と記載されている。現在の時刻は6:30ごろで、開店までは2時間半ほどある。しかし華は、店の扉を開け中へと入って行った。
店内はまだ少し暗く、店の照明は半分ほどしか点いていなかった。一人の女性がカウンター内で作業をしている。女性は店に入ってきた華に気がつく。
「あ、おはよう。華ちゃん」
その女性は華に「いらっしゃい」ではなく「おはよう」と声をかけた。
「おはようございます。
華は返事をしながら、カウンターの方に進んで行く。カウンター席に座り、荷物を隣の席に置く。カウンター越しに見える皐月と呼ばれた女性。白のエプロンをしており、胸元の名札には【店主
この2人は、外から見れば店主と客だ。ただ他とは違う特別な関係らしい。
華が座るのを見て、皐月は華の前に1つのカップを置いた。
「はい。今日のコーヒー」
「ありがとうございます」
華は、置かれたコーヒーをゆっくりと口にする。
「おいしい。」
一言。華は言葉を口にする。
「ありがとう!」
言葉を返す皐月。皐月は、コーヒーを口にする華をカウンター越しにただ見ていた。そんな皐月に疑問を持つ華。
「? どうしたんですか。あたしの顔に何か付いてますか?」
「ううん。なんでもないよ。」
「? 変な皐月さん。」
「そういえば皐月さん! 今週末うちの学園で学園祭があるんですけど、よかったら来てくれませんか? これ入場用のチケットです。」
華はカバンからチケットを取り出し、皐月に渡した。
しかし・・・
「あ、でもお店ありますもんね。」
華の言う通り皐月は、ほぼ毎日店を開けている。そのため簡単には店を閉めることはできない。普通はそうなる。華だってすぐにそのことを思い出す。店主が、1人の他者を優先して学園祭に来ることは無いと。
華は残念そうに少し下を向く。悲しげな華の顔は、カップに
「ううん。大丈夫。行くよ。」
ガッタン!
皐月の言葉を耳にした瞬間、華は勢いよく立ち上がった。
「本当に?」
「うん!
「ヤッター‼」
華は、嬉しくガッツポーズする。その後も楽しくコーヒーを味わっている。皐月は、楽しそうな華に小さく微笑んだ。その後も2人は色々な話をした。ほとんどが華の楽しかったことの報告のようなものだった。皐月は、華の話しに口を挟むことなく耳を傾けた。
楽しい時間はあっという間に流れ、7:30ごろ。華は、荷物を持ち席を立ち扉のほうに足を進める。
「皐月さん。そろそろ行くよ。」
皐月は手元の作業を止め、扉の方に向かう華に目を向ける。
「そんな時間か。今週末楽しみにしてるね!」
「うん。皐月さんが来てくれるからあたしも今から楽しみだよ!」
華は、楽しそうに答える。
2人の目が合う。
「それじゃ、いってきます。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
2人の言葉が、2人の耳にはっきりと届く。
華は扉を開け、店の外に出る。その後ろ姿が見えなくなるまで皐月は、華から目を離すことはなかった。
朝とコーヒーと黒の華 春羽 羊馬 @Haruakuma
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