第2話 番外編 父の日

前作の表記から変更有り。店主=父、妻=母です。


0:奈々の部屋をノックする雄吾。


雄吾:(コンコン)奈々姉ぇ、今いい?

奈々:お。どうしたん?

雄吾:ちょっと奈々姉ぇに相談したくて

奈々:なーに改まって。入っていいよ。あ、先に言っとくけどおこづかいなら貸せないわよ?私ピンチだから

雄吾:いや、それは大丈夫。ちゃんと貯めてるから

奈々:へ~えらいじゃん

雄吾:相談ってのは、父の日のプレゼントのことなんだけど

奈々:チチノヒ…?ああ!父の日ね、父の日!

雄吾:もしかして、忘れてた?

奈々:だって父の日って存在感薄くない?母の日がレッドだとしたら、チェリーブロッサムくらいの薄さじゃない?

雄吾:色見本で例えられてもわかんないよ

奈々:6月にあるのは知ってるけど…いつだっけ?第2?第3?土曜日?

雄吾:6月の第3日曜日

奈々:あ~そうそうそのくらい

雄吾:まぁ…母の日って検索すると予測変換で「プレゼント」が出てくるのに、父の日検索すると「いつ?」ってサジェストされるからね…

奈々:薄いんだよねー影が。つーか、年々薄さ増してきた気がする。親父の頭皮に比例して薄くなってんじゃない?

雄吾:辛辣(しんらつ)だなぁ

奈々:んで?父の日がどうしたの?父さんになんかあげるの?

雄吾:うん、おじさんにはたくさんお世話になってるし。母の日はもう過ぎちゃったけど

奈々:雄吾が養子になってもうすぐ1か月か。早いね

雄吾:おばさんにも奈々姉ぇにもよくしてもらってほんと、俺運がいいよ

奈々:別に特別なことしてないじゃない。うち金持ちでも何でもないから食卓も華やかじゃないしさ

雄吾:一緒にご飯食べてくれるだけで嬉しいよ

奈々:雄吾…

雄吾:俺の親、二人とも仕事人間だったからさ…俺がテストで百点取ろうがクラスでイジメられようが、ほんと関心がなくて。小学生の時からずっと一人で食べてたし

奈々:雄吾…抱きしめてあげようか

雄吾:要らないよ。あ、そういえば気になってたんだけどさ

奈々:なに?

雄吾:うちの家計って何で支えられてるの?

奈々:え?

雄吾:ほら駄菓子屋、開いてはいるけどお客さんあんまり来ないじゃん?夕方に小学生がわーっと来るぐらいで6時には閉めてるし。けどおじさんもおばさんもちょくちょく店番してるから会社員っぽくないし

奈々:ああ、うちは家賃収入で回ってんのよ

雄吾:家賃収入?

奈々:私のひぃばあちゃんが結構な土地持ちでね、駐車場とかアパートとかいくつも持ってて、今は父さんがそれを相続して回してるみたい。まあ、中にはお金にならない物件もあるらしくて、微妙な黒字経営でなんとか食べていけてるんだって

雄吾:へえ

奈々:駄菓子屋もその一つ。利益で言ったら月3万もないんじゃない?近所に駄菓子屋うちしかないし潰すのも、ってことで続けてるけど…まあ道楽だよねほとんど

雄吾:なるほど

奈々:で、父の日だっけ。っていっても、父さん欲しいものあんのかな?甘いものも食べないし、お酒も飲まないし…まあ、飲むとしても私らまだお酒買えない年齢だけど

雄吾:奈々姉ぇ毎年何あげてた?って聞きたかったんだけど……そのひょっとこみたいな顔、もしかして今まで全スルー?

奈々:母の日は覚えてるんだけど、父の日はいつもすっぽ抜けるのよねぇ…

雄吾:余計に対比で辛いやつ。おじさん、寂しがってない?

奈々:えー?気にしてないんじゃないかなぁ

雄吾:いや、おじさん奈々姉ぇのこと溺愛してるじゃん。絶対陰で泣いてるよそれ

奈々:そうねぇ…私も今年はあげてみるかな。あ、雄吾…共同購入しない?

雄吾:いいよ。奈々姉ぇ、所持金いくら?

奈々:190円

雄吾:え?

奈々:だから言ったじゃん、今月ピンチだって

雄吾:確か…一週間前だったよね、おこづかい貰ったの。3000円

奈々:今月は推しのバースディ月間なの!レアガチャ大量放出なんだから!

雄吾:誕生日が月間なんだ…

奈々:バイト代が出るの20日だから父の日終わってるし、あたしの財力に期待しても無駄よ

雄吾:もともと奈々姉ぇに金銭的援助は期待してないよ

奈々:なんでよ

雄吾:見てれば分かる

奈々:やだ、私の弟、観察眼鋭い

雄吾:そんなことないと思うけど

奈々:じゃあ…お金かけないで何かしようか

雄吾:例えば?

奈々:ベタに肩たたきとか?

雄吾:肩たたき…俺、やったことないかも

奈々:マジ?

雄吾:うん。肩ってどのくらいの強さで叩けばいいの?

奈々:どのくらいって…ん~……じゃあ、私の肩叩いてみてよ

雄吾:え?

奈々:こういうのは実践あるのみよ、ほら早く

雄吾:分かった…(トントントン)

奈々:……あー…そこ…違う、もう少し上

雄吾:ここ?

奈々:そう。もっときていいよ

雄吾:痛くない?

奈々:平気。…うん、それくらい。ああ、気持ちい~。あんた上手いじゃん

雄吾:そうかな

奈々:うん、これからも時々お願いしようかなぁ

雄吾:ええ~?


0:青い顔して登場した父。


父:おい、母さん!

母:どうしたのあなた。そんなに血相変えて

父:今奈々が、雄吾と…!

母:ん?二人がどうかした?喧嘩でもしたの?

父:喧嘩の方がマシだ!ら…ラブラブしてやがったんだ

母:ええ?

父:あいつら、奈々の部屋で近距離で座ってて…ドア開いてたからなにやってんだ?って覗いてみたら、奈々がその…気持ちいいとか言ってて…俺速攻で逃げてきたんだよっ

母:あなた、覗きなんて悪趣味よ?

父:そこじゃねぇだろ!?あいつらぁ…養子縁組した以上めんどくせぇからそういう仲になるなって釘刺しておいたはずなのに……!

母:まあ、年の近い男女だもの、愛の方向がそっち向いちゃってもおかしくないわよねぇ

父:だからって家の中で!ヤるならせめて他所(よそ)でやれよ!

母:ラブホ借りるより経済的じゃない?タダだし

父:母さんはどっちの味方なんだよ!

母:どっちの、って…私はみんなが幸せなら形にはこだわらないのよ

父:幸せ…ああ、幸せか…

母:でもそう、あの二人がね…そうは見えなかったけど…

父:これは…あれか?養子縁組は解いてやったほうがいいのか?姉と弟ってマズいよな…?

母:あら、あなた奈々と雄吾の仲認めるんだ?あんなに「奈々には手を出すな」って言ってたのに

父:いやだって、本人同士が好きあってんなら認めねぇわけいかねぇだろ。それに…

母:それに?

父:り、リードしてたの…奈々っぽいし…

母:あら。あらあらあら

父:ああくそっ…!まさかこんなことになるなんて…!

母:もしかして、雄吾を引き取らなきゃよかったとか思ってる?

父:はぁ!?んなこと一ミリも思う訳ねぇだろ!?

母:ふふっ。私あんたのそういうとこ大好きよ

父:ああくそ…どうしたもんか…

母:(ボソッと)でもおかしいわね…奈々ってこの間彼氏できたって言ってなかったかしら…?


0:父の日。


奈々:お父さーん、ちょっといい?

父:お。な…なんだ?

奈々:ほら、雄吾から

雄吾:う、うん…あの、おじさん

父:ちょっ、ちょっとタンマっ!一回深呼吸させて?

雄吾:え?

父:いきなり打ち明けるんかよ……あのなぁ、そうなっちまったもんはしょうがないとは言え、俺にだって覚悟決める時間くらい要るんだよ!ちょっと待て

雄吾:おじさん?

奈々:お父さん?何言ってるの?

父:(深呼吸)めんどくさいことは全部後で考える。よし!腹は決まった!来いやっ

雄吾:え…ええ?

奈々:お父さん…何の話をしてるの?

父:いいから…来い!

雄吾:う、うん?わかった……じゃあ、後ろ向いてくれる?

父:……うん?ああ、顔見て話せねぇってことか?しゃーねぇなぁ


0:肩たたきを始める雄吾。


父:え

雄吾:力加減、どうかな

父:え?あ、うん、いいけど…これは一体

雄吾:今日、父の日じゃん?

父:父の日……そうだっけ?

雄吾:概念が無いんだね

奈々:毎年スルーしてごめん

雄吾:俺、おじさんに引き取ってもらえてすごく嬉しくて、毎日が楽しくて…ホントに感謝してるんだ

父:雄吾…

雄吾:だからその、お礼したくて。でも俺、何をしたら喜んでくれるのかわかんなくて…奈々姉ぇに相談したら「肩たたきしてみれば?」って

父:え…

奈々:あたしも叩いてもらったんだけど、雄吾結構上手いっしょ?気持ちよくない?

父:あ、気持ちいいってそういうこと…

雄吾:下手かな?

父:いや、全然!全く!!とっても気持ちいいぞ、うん!

雄吾:よかった

奈々:私も父の日だし、お父さんの肩叩こうかな~って思ってたんだけど…雄吾いればいいかなーって思ったり

父:おい

奈々:ってことで~お母さーん!


0:母登場。


母:ん?どうしたの?

奈々:肩たたきしてあげるからここ座って?

母:ええ?どうしたの急に

奈々:母の日パート2ってことで

父:パート2?

母:母の日なら先月カーネーションくれたじゃない

父:なっ!

母:…あなたなんで驚いてるの?奈々は毎年カーネーションくれるのよ?私毎年押し花にして栞作ったりアクセサリーにしてるわよ?

父:お前ばっかりズルいぞ

母:…もしかしてこの肩たたきって、父の日のおまけってこと?

奈々:せいかーい!

母:あら、よかったわねあなた。うちにも父の日があったみたいよ

父:そうですねーだ

雄吾:…奈々姉ぇの方がよかった?

父:はぁ!?お前の力加減は最高だよ自信持て!

雄吾:う、うん…ありがと?

父:あー…そこ…いいな

雄吾:…俺さ、ほんとに小さい頃から両親仕事人間だったからさ…誰かの肩を叩くってことしたことなかったんだよね。…すごく新鮮。これ、なんかいいね

父:…じゃあこれから毎日頼むわ

奈々:ちょっとお父さん?

雄吾:毎日したって…返せないくらいの恩があるよ…どうしたら返せるかな

母:雄吾…

父:…んなの、お前が毎日元気に笑ってればそれだけで十分…お釣りがくるっつの

雄吾:おじさん…

父:あ、あとその、なんだ…もし、お前が嫌じゃないってんなら

雄吾:ん?

父:その、おじさんってやつ…他の呼び方に変えても、いいんじゃねぇかな~とか…思ったり…

雄吾:あ…

父:お前が!お前が嫌じゃなければな!

雄吾:……父さんって、呼んでもいいの?

父:お、おう。好きなだけ呼べ

雄吾:父さん…父さん……

父:…おう

母:ちょっと!あなただけズルいじゃない!

父:お前は毎年母の日もらってただろ?

母:どこで帳尻合わせようとしてるのよ!

雄吾:おばさんも……母さんって、呼んでもいい…?

母:っ…!いいに決まってるじゃない!あんたを引き取るって決めた時から、私はあんたの母親になったつもりなんだからっ!父ちゃんの肩ばっか叩いてないで、後で私も叩いてよね!

雄吾:…うんっ

父:お前、ズルいぞ!

奈々:しょーがないなぁ~そしたら今度は私がお父さん叩いてあげるよ

父:生きててよかった

奈々:ちょっと!大げさ!

父:あー…でもよかったよ、俺はまだ奈々を嫁に出さなくていいんだな

奈々:……ん?どゆこと?

母:お父さん、二人が仲良くしてるの見て恋愛感情だったどうしようって頭抱えてたのよ

父:お前、ばらすなよ

雄吾:奈々姉ぇのことは俺、姉さんとしか見てないよ?それにほら、奈々姉ぇ彼氏いるし

父:……ん?…は?

奈々:うん、いるよー一個上の先輩。2か月前くらいから付き合ってるんだー

母:ああやっぱり?そんな話を聞いた気がすると思ったのよね

父:な…おま、マジか…?

奈々:うん!もう超ラブラブ!

父:な…っ

母:あら、固まっちゃった

雄吾:父さん、元気出して?俺、もう少し父さんを叩いてあげるからさ

母:あら~優しい息子でよかったわね、あなた!

父:持つべきものは娘より息子だな…うん…

奈々:ちょっと!それどういう意味よ!

母:ふふふっ。今日も幸せね

雄吾:うん

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駄菓子屋の死神 4人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

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