駄菓子屋の死神 4人用台本

ちぃねぇ

第1話 駄菓子屋の死神

店主:いらっしゃいませー

雄吾:…あんたが死神か?

店主:…なんのことだ?ここは見ての通り、駄菓子屋だが

雄吾:…あの噂はデマだってことか?

店主:菓子買う気がねぇなら帰ってくんねぇかな?

雄吾:あんたほんとに…死神じゃねぇのか?

店主:…へえ?ガキが迷い込んだのかと思ったが、ちゃんと自分の意志で此処に来たわけだ

雄吾:ってことは、やっぱりここがそうであってんだな

店主:そう、とは?

雄吾:噂で聞いたんだ。半信半疑だったけど

店主:どんな

雄吾:五丁目の路地裏、雨の降る日だけ。寂れた駄菓子屋。死神の名前を出せば…会えるんだろ?殺し屋に。あんたが殺し屋か?

店主:おいおい、そんな噂が流れてんのかよ

雄吾:依頼したい

店主:お前が?…悪いが俺は、金のないガキの依頼なんざ受けねぇよ

雄吾:金ならある

店主:へぇ?いくら

雄吾:10万

店主:舐めてんのか?桁が足りねーよ、桁が

雄吾:それ以上は出せない

店主:だったら帰んな。飴ちゃんやるからさ

雄吾:ガキ扱いすんな

店主:ガキだろ。その制服、近所の桜花高校だろ。高校生が殺し屋雇ってどうする気だよ

雄吾:殺してほしいんだよ

店主:誰を?

雄吾:俺を

店主:…お前を?

雄吾:そう

店主:なんで

雄吾:死にたいから

店主:なんで

雄吾:……

店主:はぁ。だんまりかよ

雄吾:ダメならもういい

店主:おいおい、勝手に帰ろうとすんなよ

雄吾:10万じゃ足りないんだろ

店主:ああ、足りねぇな。全然足りねぇ

雄吾:だったら

店主:でも、断るとも言ってねぇ

雄吾:どっちなんだよ

店主:ここの存在を知ったお前をただで返すわけねぇよな?

雄吾:へぇ?口封じに殺してくれるんだ?だったら今すぐにでも金持ってくるよ

店主:待て待て。やるとも言ってねぇ

雄吾:はぁ?どっちなんだよ!

店主:そうカリカリしなさんな。10万で人殺しなんて、うまみが無さすぎだろ。リスクと対価が全然釣り合ってねぇ。

店主:死体消すにしたってこちとら手間暇かけるわけよ、捕まったら元も子もないし。そのリスクを10万で背負えってお前、大人舐めすぎ

雄吾:じゃあどうしたらいいんだよ

店主:そうだなぁ…とりあえず、お前今日からここでバイトしな

雄吾:はぁ?

店主:足りない分は身体で稼ぐってことで。おーい、母さん。母さーん

雄吾:ちょ、勝手に決めんなよ


0:妻登場


妻:はぁ~い…ってあんた、まだお客さんいるじゃないの。なんで呼んだのよ

店主:客じゃねーよ、こいつ、今日からうちのバイトだから

妻:はぁ?

雄吾:俺はまだやるなんて一言も

店主:さて、俺はパチンコにでも行ってくらぁ。母さん、こいつにレジ打ちの仕方教えといてくれ


0:店主退場


妻:ちょっとあんた!…っんもう!ほんとに勝手なんだから!……よくわかんないけど、あんた、うちで働くの?

雄吾:いや、俺は…

妻:レジ打ちって言ってもキャッシャーだけだし教えることほとんどないのに…あ、そうだ。ねぇ、お腹空かない?

雄吾:…はい?

妻:こんな天気だし、今日はもう店じまいしちゃいましょ。ラーメン、食べに行かない?

雄吾:はぁ…いいんですか?その、せっかく雨なのに

妻:ん?なんのこと?雨が好きなの?

雄吾:あ、いや…死神訪ねてくる人いいのか…?

妻:何ごちゃごちゃ言ってんの!駅前の味噌ラーメン、絶品なんだから、ほら早く早くぅ!

雄吾:えぇ…?


0:場面転換。ラーメン屋


妻:ここの味噌ラーメンはほんとにおすすめなのよ!煮卵トッピングもいいけど、あたしはネギましましがおすすめ

雄吾:はぁ

妻:あれ、あんたラーメン嫌い?

雄吾:嫌いじゃないけど

妻:塩もあるけど、やっぱり味噌がいいわよ味噌が!濃厚な味噌にバターが絡んで、幸せ実感できるわよ!ね!はい、決まり!すみませーん、味噌2つ、両方ともネギましましで


0:奈々登場


奈々:はーい…って、あれ!お母さん

妻:あら、今日奈々出勤日だったの?

奈々:火、木、金だって言ったじゃん。まーたうちのラーメン食べに来たの?

妻:だって美味しいんだもの!

奈々:ほんとお母さん、ここのラーメン好きだよねぇ

妻:奈々だって、賄い目当てにバイト始めたんでしょ

奈々:まーね!賄い限定メニューの豚の角煮丼、マジ美味しいよ

妻:何それ美味しそう。奈々ばっかりずるいわよ!

奈々:…あれ?隣にいるの

妻:ああ、なんか、お父さんがバイト雇ったんだって

奈々:バイト?駄菓子屋の?

妻:みたい

奈々:ふぅん…そっか。あ、今日は特別にチャーシュー1枚サービスしたげるね

妻:きゃぁ!奈々愛してる!

雄吾:なんだこの状況…


0:3日後


店主:店、もう慣れたか?

雄吾:慣れるも何も、ほとんどお客さん来ないじゃないですか

店主:まぁ、なぁ。ばあちゃんがやってた時はまだ賑やかだったんだが、今時駄菓子なんてコンビニでも買えるしな。ま、道楽だな

雄吾:じゃあなんでバイトなんてさせてんですか

店主:お前が金がねぇって言うからだろ。それにお前がいれば俺はパチンコ行き放題だしな

雄吾:なんだよそれ

店主:あ、お前ラーメン屋で奈々に会ったんだっけ?

雄吾:会いましたよ

店主:可愛いだろー奈々。俺の自慢の娘だ

雄吾:はぁ

店主:手ぇ出すなよ。出したら殺すからな

雄吾:俺は殺してほしいんですけど

店主:あーそうだっけか。じゃあ、出したら殺してやらねぇから出すなよ

雄吾:なんなんですかもう。いつになったら殺してくれるんですか

店主:そりゃお前、金が貯まったらだよ

雄吾:時給900円なのに

店主:あ?文句あっか。最低時給下回ってるって労基にチクるか?

雄吾:言いませんよ。それに、この3日間ろくに働いた記憶ないし

店主:あーラーメン食って帰って、次の日は母さんのショッピングの荷物持ち…昨日はなにしたんだっけ?

雄吾:来た途端、蕎麦打ちしましょ!ってキッチンに拉致られました

店主:あーあいつ最近蕎麦打ちハマってんだよ。まだ全然上手くねぇから、ぼそぼそなんだよなぁ

雄吾:知ってますよ、昨日いただきましたから

店主:あーそうだったそうだった。てかお前、もういっそ住み込みでいいんじゃねぇ?いちいち帰るの面倒だろ。学校も行ってねぇみてぇだし

雄吾:…何で知ってんですか

店主:やっぱり行ってねぇんだな

雄吾:引っかけたのかよ

店主:こんなことで引っかかるなんて、お前やっぱガキだな

雄吾:うるせーよ

店主:あ、そだ

雄吾:んですか

店主:そろそろ名前聞いとこうと思って

雄吾:…あんた、殺し屋だろ?どうせ知ってんだろ、白々しい

店主:まーまー、こういうのは自分から名乗るもんだぜ

雄吾:…今井雄吾

店主:三日目にしてようやくお前呼びから卒業だな、雄吾

雄吾:うるせーって


0:一週間後


妻:んで?雄吾のことあたしに押し付けて、あんたは一週間以上どこでなにしてたってわけ?ギャンブル一切やんないあんたが、ほんとにパチンコハマったの?

店主:…色々調べてきたよ。いや~ちょっと調べただけだけど、クソだな、あいつの周り

妻:まぁ…この一週間あの子のこと家に泊めてて、親御さん乗り込んでこない辺り、お察しよね

店主:親はあいつにまるで関心がねぇ。クラスメイトは恐喝、暴行なんでもありの犯罪みてぇなイジメを繰り返してて、教師は知らんぷり。俺なら軽く10人は殺してるね。なのに自分を殺してくれなんて、あいつは人が良過ぎるな

妻:どうするの?

店主:なにが

妻:死神さん♪

店主:…どうしようかねぇ

妻:あたしはもう、覚悟出来たわよ

店主:早ぇな

妻:奈々もいいってさ。雄吾のこと、気に入ってるわ

店主:おいおい。ラブに発展してねぇだろうな、ラブに

妻:そんな心配より先に、やることがあるでしょう

店主:…だな。死神名乗った以上、さっくりやってくるか


0:二週間後


雄吾:おい!どういうことだよ!

店主:ん?おーお帰り

妻:おつかいありがとうね~

奈々:おかえり~

雄吾:さっき!クラスのやつに会ったんだよ!

店主:おいおい雄吾、ただいまの挨拶は?

雄吾:んなことより!!

店主:ったく。んで?

雄吾:…あいつら、俺の顔見て、逃げてった

店主:ほぉ?あいつらって?

雄吾:とぼけんじゃねぇよ!!なんで!だって、今まで、俺

店主:んな難しいこと考えてないで、夕飯の支度しろよ。今日はにんじんにジャガイモ…カレーか?

妻:残念、シチューよ

奈々:え~あたしカレーのほうがいい~

雄吾:なぁ、あんた、なんかしたんだろ?

店主:さぁなー?

雄吾:ごまかすなよ!…あれか?あいつらの家族でも殺したのか?だからあいつら、俺のこと見て青ざめたんだろ?

店主:んなことしてねぇって

雄吾:じゃあなんで!

店主:あーまあ、殺しはしたのかな?

雄吾:っ…!

店主:真っ当な方法で、社会的に、だけどな

雄吾:…はぁ?

店主:市の教育委員会と、県の教育委員会、もちろん校長にも直談判して、PTAの会長さんとこと、マスコミも…あとはSNSを使って、まあいろいろ動いただけだ

雄吾:なんだよそれ…

店主:来週には担任も副担任も飛ばされてるだろうなぁ。主犯だった奴らの親とは今、弁護士交えて交渉中。ここら辺の大学には名前知れ渡るだろうし、まあ推薦入学はできなくなるんじゃないか?

雄吾:な、なんで

店主:地元の駄菓子屋を舐めんなよ?つながりだけは100年の歴史があんだよ。…あとは、奈々のおかげだな

雄吾:え?

奈々:えへへ~

店主:お前は知らなかっただろうが、奈々も桜花高校通ってんだよ。一個上の学年。

奈々:あたし、初めて雄吾のこと見た時、すぐにピンと来たんだ。この子、いじめられてる子じゃん、って

雄吾:え…

奈々:大変だったんだから、本人不在でイジメの証言集めるの。まあ、私の他にも何人もの人が見てたし、中には偶然音拾っちゃってた子いたからラッキーって感じだったけど

妻:今って恐喝までデジタルなのね。送金履歴見て、弁護士さんが、これだけあるならいけますってほくそ笑んでたわ

奈々:あ、雄吾の携帯勝手に開けたのは私、ごめん。でも、暗証番号のロック、ゼロ4つはさすがにやめた方がいいよ~?

雄吾:なんで…

店主:お前そればっかりだな

雄吾:だって、あんたら…俺の家族でも何でもないのに

店主:あー…そのことなんだけどな。…お前の親と話付けてきたんだわ

雄吾:え?

店主:正式にお前貰うことにしたから、養子縁組させろってな

雄吾:はぁ!?

店主:ま、悲しいかな、お前もよく知ってると思うが、あいつら、お前に無関心だったよ。好きにしろって二つ返事でハンコ押しやがった。俺はあいつらのほうが殺したくなったぜ

雄吾:…なんで

店主:そのなんで、はなんだ?

雄吾:俺が死ねば…俺が死ねば全て終わると思ってた…全部全部、終わると思ってた。でも、死ねなくて…怖くて…

店主:そりゃそうだろ。死ぬのはこえーだろ

雄吾:なんであんたが!死神が!俺を救ってくれるんだよ!!なんで…なんで…!!

店主:お前、俺の息子になるんだからさ、あんたはやめろよ。嫌でも18までは父親面するぞ

雄吾:なんで……!

店主:ったく。お前それ好きな。あとな、もう一個お前に黙ってたことあんだわ

雄吾:…これ以上、なに

店主:俺、殺し屋でも何でもねぇから

雄吾:……は?

店主:俺、ほんとにただの駄菓子屋の親父だから

雄吾:ええ…?

妻:ほんとこの人、お茶目よねぇ~雄吾が来たとき、なんか面白そうだから乗っちゃおって、いきなり演技始めたんでしょ~?いや~私も見たかったわよ

奈々:お父さんが殺し屋なわけないじゃん!この間窓から虫入ってきたとき、おかあさ~ん!って一生懸命助け求めてたんだから

店主:おい奈々、今それ言わなくてもいいだろ

妻:あら、でも助けを求めることは重要よ?自分ができないことは、人に助けてもらわなきゃ。私だって、奈々にもあなたにも、もちろんこれからは雄吾にも、いっぱい助けてもらう予定なんだから

雄吾:なんで…なんでぇ…

店主:ま、難しいことはあとあと。泣くな泣くな。あーいや…泣け泣け。思いっきり泣いとけ

奈々:雄吾はシチューとカレー、どっちがいい?今ならどっちも選べるよ

妻:あら、シチューの予定だったのに…もう、仕方ないわね。可愛い息子の願いを聞いてあげようじゃないの

雄吾:なんで…なんでぇ…う…うう…

奈々:ったく。しょうがないなぁ、私の弟は

店主:おい雄吾、奈々に手ぇ出すなよ、マジで。ややこしくなるから

妻:あなたってば。さ、雄吾。泣きながらでいいからジャガイモ剥くの手伝って。泣き止んだらシチューかカレー、決めなさいよ

雄吾:……はいっ…!

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