第4話
「なんでわたしがわたしになってるんだッ!」
わたし、オレっ娘のしろはわなないた。
「いいじゃありませんか。わたしには、自分のことをおらと呼ぶ女は何人も見たことがあったのですが、オレ、と自分を称するおなごに会ったことがないのです。ですから、どうかここでは、安心して『わたし』になりなさい。なにか理由があるのでしょう?」
「ねえよ!さっさともとの口調に?いち、にんしょー、にもどせ!きもちわるい!」
レイという信用ならない、黒髪ロン毛は言う。
「気持ち悪いか。それはよくわかる。わかった。しろは、オレだ!」
リーン、と気持ちを書き換えるような鈴の音がした。オレは
「……」
レイは静かにずっと小首を傾げてそちら側の黒髪を長く垂らし、瞳は輝いていた。いや、涙ぐんでいた。
「感触が普通じゃない」
「どう伝えたいのかな?」
リアルすぎる、と言いかけたところで口が開いたまま固まって息ができないようになる。
「落ち着いて。伝え方を変えてご覧。わたしは、そうだな。おじいさんだ。通じる言葉を探してね」
前屈みになると、絹糸のような黒髪がさらさらりと流れ、着物は三枚くらい着ていて色合いがちぐはぐだ。
オレは訴える。
「夢にしては、感触が、現実的で、でも、いつも生きている世界と〝美〟が異なる」
「〝美〟が異なるっ」
レイという青年あるいは、どこか少年ぽくも化けている存在は驚愕した後、口元を衣で隠して笑う意地悪な姿で。楽しそうに。
「君のそんな言葉が嬉しいよ。神様になって欲しいくらいだ。もうここに神はいないからこんなことを言っても怒られはしない」
そういうと、今度は一気に目に翳りが増す。
「帰ります。帰して、でないと、」
買ったばかりのまだパッケージに入ったばかりのミニ包丁を前に出して
「誘拐だ、あなたに、危害を加える」
精一杯強がる。
「できないよ、きみはやさしいからできない」
口元を今度は悔しげに袖で強く押さえながらレイは、風に髪と着物をなびかせ、視線を風の行先へ。
「こちらに呼べてよかった。さて。今すぐ帰そう。でもね。一睡もしてない状態だから意識の集中に気をつけて。また来てくれると良いけれど。安心できて、安全ならば、わたしは、しろにはいらないから」
いらないから、その言葉で深く暗く黒い穴が地面から現れ、わたしは、オレは、
午前六時。余裕で間に合う。
でも、オレは寝たんだろうか?ずっと目を開けていた。手にはパッケージに入ったままのミニ包丁。
おかしくなったのか。
怖くなってキッチンに戻しにいったら玄関ドアの方が怖かった。
なぜ?と思い。
はっとなって、日記を見る。意味不明な書き込み。
どうしよう。新しい夢遊病なんだろうか。
危険すぎる。せっかく亭主関白で男尊女卑の父親とそれを聞いてヒステリックになる母親から逃げてきたのに。
だめだ。帰りたいなんて思っちゃ駄目だ。
いつも通り、毎日辞めたい、行きたくない、休みたいと思う職場に行く方がまだ普通らしい。
塩梅白。15歳。親戚の店で隠れてアルバイトをして暮らしている。
うそ。ほんとうは毎日でも通いたい。学校も。
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